第34話 消火開始!
「ファロー!状況はどうですかー!?」
「あっちっち!早いとこ片付けないと腕だけ手羽先になっちまうな!」
首都に戻ってきたと思ったら大変なことになっちまってるなぁ。風の噂で山火事の話は聞いていたが鎮火したんじゃなかったのか?
今は原因を追求している場合じゃねえが。そういや、メリチェルの出番な気がするがさすがにこの規模だと逃がせる場所もねえか。仕方ない。ここはえっちらおっちら散水で対応するしかねえようだな。
鳥類であるケツァールの亜人である俺ちん。この生え始めた若葉のような羽がパサパサになっちまうのはとても嫌だ。あと服!つってもフォレスティエの服だから大丈夫だろうが、せっかく俺の羽にあったスーツが煤だらけになっちまうな。だが、みんなの住む場所が焼かれて怪我人も出てる状況でそんなチャチな感情は捨てるしかねぇ。煤と焦げ臭い匂いは後で洗濯すればいい。なんならおnewをもらってもいいな。団長怒るかなぁ。
それはさておき、俺ちんの羽がなくなるとその分魔法の出力が下がるからやはり羽の輝きを維持しつつ華麗に火事を抑えなくっちゃあな。
もうちょい上空まで上がって全体を見た。低すぎると煙が漂って見えねぇからな。
ふむ。俺たちは火の手の右翼の中間あたりにいる。ラウラの最近の力は見たが、おそらくあれが全力。しかしここでは全力を出すよりかは、とりあえず街全体に水を染み渡らせた方が効率良いだろう。よし、大体こんなところだろう。ラウラと話せる距離まで近づくか。
「どうですの〜?」
「範囲はわかった。細かいところは無理だが街だけなら俺らで大体カバーできるんじゃねぇかな」
アヴェラルの旦那から俺ちんとラウラに提案された効率的な散水方法。それは上空で待機している俺ちんに向かってラウラのあの悍ましいダム放水をぶっ放し、その水を俺ちんの力で街中にばら撒いていくというものだった。
いわば人工スプリンクラー!
「それはよかったですわ!」
「よし!特訓してた時みたいに俺に向けて遠慮なく当ててきてくれ。全力じゃなくていい。ラウラだったら6割ぐらいでいいや。とにかく約半分ぐらいを意気込んで俺に届くことのみを考えるんだ!」
「わかりましたわ!」
「続かなくなったら止めていいぞ。俺が移動しているうちに休んでおけ。俺が街中にに振り撒く」
「承りましてよ。位置に着いたら合図してくださいまし!」
周りがだいぶ火の手が回ってるのに肝の座ったお姫様だなぁ。セバスもお前のお姫様をこんなところ行かせていいのかって感じだが、頑丈さを一番知ってるのもあのニヒルガイか。
だいぶ上に来ちゃったけどとりあえず様子見だな。ラウラの魔法と俺ちんの調子の良さのな。
お得意の翼の輝きを見せて合図を送る。黒煙の中でも俺ちんの輝きは、失われないのだ。
「どうせ、いらないことを考えているのでしょうねッ!!!」
「おお、やるじゃねえかい」
俺ちんのところまで勢いよく水の柱が伸びてくる。そしてその水をこの輝き煌めく美しい羽を羽ばたかせて火が回っている街へと振り撒いていく。ふむふむ。悪くねえな。
さぁて、誰が一番地元新聞でデカく取り上げられるか競争だな。団長に勝てるかな〜。
* * * * * * *
「「雨の操り人形」」
パトリックさんと計20頭の象を作った。
「アンティエ。一頭は直接動かせるようにしよう」
「そうね。他は『火を見つけたら上から水を吹きかける』でいいわよね」
「ああ。問題ない」
雨の操り人形。水に魔法をかけて生物などの形にし、操る魔法。行使する者の力が強ければ複雑な行動を命令できる。一度作ってしまえば象を形作る水が無くなるまで動き続けることが可能。パスを繋いで直接操ることも可能で視覚共有などもできる。
今回は高精度な人形よりも手数が欲しいから、なるべく簡素なものを作った。
手当たり次第に街を襲う火に長い鼻から水を吹きかける人形達。性質上、身体の水を放出しているから水を出せば出すほど身体が小さくなっていくけど。
「ファロ達が思いの外、広範囲をカバーしているな」
「好都合ですね」
ファロとラウラによる雨のおかげで人形達の身体を構成する水が補充できている。雨がある限り半永久的に動くことができるでしょう。
「このまま雨では消しきれない火を消していこう。街が終われば次は森だ」
「ええ。なる早でいきましょう」
* * * * * * *
猿の消防団員「劇団の方!ここまで雨を降らせられるのであれば街の方は俺らでなんとかなります!」
猿の亜人達がホースで水を撒きながら私達に叫んだ。
オレーナ「了解しました。我々は森へ向かうこととします。ペリーヌさんここは頼みますね」
ペリーヌ「任せてください!」
ペリーヌさんに宿る血の魔法。影。無数の影達が四方八方に散っていった。
サッフィ「ボクは街に残るよ。みんなみたいに小回りきかないし念のためね〜」
ヴィーナ「わかりました。サッフィさんよろしくお願いしますね」
サッフィ「ヴィーナ達も気をつけてね〜。ボクもやることなくなったらそっちに行くよ」
フェルナン「ありがとうございます。では行きましょう。オレーナさん、カミラさん。私とヴィーナでひとまず奥まで行ってきます。そこから左右に分かれて挟み撃ちにしていきましょう」
カミラ「了解したわ。気をつけてね」
フェルナンさんとヴィーナさんが尻尾についた水色の鱗を輝かせたそのとき、尻尾から大量の水を纏い地面に噴射しながら山の奥へと飛んでいった。水の軌跡の真下では既に消火が済んでいた。
カミラ「あれを山全体にやればいいんじゃないの?」
オレーナ「なん往復させる気なんですか」
* * * * * * *
ところ変わってファロとラウラの人工スプリンクラーにより鎮火されつつある中心部。この地点はまだ火事には遭っていない。
ティラク「おお〜恵みの雨だな〜」
ミッシェル「見るにファロがやってるみたいね。惚けてないで行くわよ。私は右手あんたは反対ね」
ティラク「片っ端から全部見てけばいいんだろ」
ミッシェル「そうよ。くまなく見てよね」
ティラク「OK。じゃ行くか」
逃げてくる人はここまで来れば少ないみたい。大体の避難は終わってるようね。とはいっても確かに逃げ遅れた人はいるかもしれない。
ファロの雨は時折止まる。どうやら移動して雨の範囲を変えていっているみたい。ムラがあるけど既に街全体は雨を降らせているみたいね。
人混みが多いと移動が大変と思ったけどそこの心配はいらなかった。最短で現場にたどり着ける。
火事の被害に遭っていた方面を走りながら様子を見た。やはり鎮火しきっていないところが多い。とりあえずここら辺から家屋に入って人がいないか見ていこう。
「誰かいますか〜!?」
家によっては中まで火が回ってて家の中まで入ることができない。私もちょっとだけでもいいから水出せたらよかったのに。
とはいえこの勢いじゃ残ってる人もいないだろうし、もしいたとしても——
言ってる場合じゃないわ!ガンガン回っていかないと!
「すいません!誰かいますかー!!」
あまり大きな建物はここらへんにはない。二階建ての建物は中心部ぐらいしかないみたいだ。これも好都合だわ。
* * * * * * *
ティラク「おーい!誰かいるかー!?」
ここらは雨が薄いな。あんま消えてねぇ。消火もホース持った奴しかいない。けど住民も大体が逃げたって感じかな。
パンッ!
突然、横の家屋の壁から破裂音がした。
「うおおおッ!なんだ壁が爆発したぞ!?」
あれか。石の壁だから火に当てられるとどうたらって言ってたな。そういや故郷でも熱した石を水に入れて閉じ込められてた化石とか出してたな。あれと同じか。俺はともかくこんなの当たったら普通の奴じゃ大怪我しちまうぞ。
「ん?」
防火服を着てない奴がいる。ホースらしきものも持っていない。でっかいカバン?
あやしいな。
ティラク「おい!お前ら!そこで何やってるんだ!?」
クリーム色の犬の亜人「うわああ!こ、これから逃げるところなんだよ!!」
ティラク「そこお前らの家か?」
黒色の犬の亜人「そ、そうだよ」
犬の亜人が二人。しかも犬種が違う。家族には見えねぇな。
カマかけるか。
ティラク「危ないからさっさと避難しろ。荷物よりもまずは自分の命だろうが」
クリーム色の犬の亜人「あ、ああ。そうだよな。よし。逃げるぞ!」
ティラク「おい!なぜ北に行く?逃げるなら東だろ?ちょっとそのカバンの中身見せろ」
黒色の犬の亜人「おい勝手に触るな!あ、おい!」
ティラク「金と宝石と通帳?この平屋でなんで何十個も通帳やらを持ってるんだ?名義も全部違うし。さてはお前ら火事場泥棒か」
黒色の犬の亜人「う、うるせー!どうせ燃えちまうんだから回収してやってるんだよ!」
クリーム色の犬の亜人「へ!ただの人間のくせに亜人に勝てると思うなよ!」
ティラク「はいはい。威勢がいいのは嫌いじゃないぜ」
詳細を知りたいか?
人間が亜人をボコると色々問題になるらしいんだよな。だから伏せておく。
え?ボコったって言ってる時点で意味ない?
確かにな!
なんなら亜人だろうが人間だろうがボコる自体いけないことかもしれねえな。怪我しなけりゃいいだろとも思うが団長たちに迷惑がかかると怖いからな。
ミッシェルじゃないんだから穏便に和やかにしないとな!
ティラク「で、懲りたか?」
クリーム色の犬の亜人「は、はい……」
刀を抜くほどの相手でもねぇな。俺の中では刀を抜いていないということは暴力していないも同然。団長に怒られることもないだろう。
……うん。たぶん。
ティラク「1匹は気絶してんのか?情けねぇ。どんだけ手加減してやったと思ってるんだ」
クリーム色の犬の亜人「ず、ずみません」
どうすっかな〜。こいつら連れて一旦東まで向かうか。大した手間じゃないしそれでもいいけどまだ全然見回り終わってねぇしなぁ。
お、あれは!?
ティラク「象さんだ!よし!お前ら!お前達も消火を手伝ってもらう。働き次第じゃ俺の報告内容が変わるぜ」
水の象さんに一人ずつ後頭部に入れた。上半身だけワンコが水の象の頭から飛び出している。なかなか愉快な光景だ。
パトリック「命令は街から出ない。二人の放水の指示を聞く、だ」
ティラク「街から出れなきゃ問題ないな」
猿の消防団員「手枷はこの状況だからしないが、妙なことしたらお前らわかってるだろうな」
黒色の犬の亜人「ひひっ!」
ティラク「パトリックさんは俺みたいに優しくないぞ!妙なことしたら下半身だけ捻り潰されるからな!」
クリーム色の犬の亜人「し、しません!しませんから許してくださいッ!!!」
パトリック「余計な脅しをするな」
ティラク「ついうっかり」
パトリック「ん、おい。あれを見ろ」
ティラク「ん?え、あれも?」
パトリック「ああ、おそらくな」
やれやれ……こいつら本当にこの街の人間かよ。
ティラク「お前らなぁ。人の不幸を食いもんにしようとしやがって!てめぇらの街じゃねえのか!」
象さんが10匹埋まった。ったくどうしようもねえ奴らだ。
ティラク「いいかお前ら!これ以上火事の被害が広がったらお前らを放火犯として報告するからな!嫌だったら必死になって消していけ!」
火事場泥棒共「は、はい!!!」
パトリック「だから余計なことを言うな」
ティラク「犬っころにはちゃんと手綱をびしっと握っておかないとダメなんすよ。どっちが上か下か判別が曖昧だと舐められたことされちまいますよ。なぁ?」
犬っころ「はい!消火頑張ります!」
パトリック「……(人手が多いに越したことはないからいいか)」
* * * * * * *
ミッシェル「このまま東に行けば避難所があります!」
避難者「わかりました!ありがとうございます!」
これで約半分ぐらいか。思ったよりも時間がかかっちゃうわね。
ミッシェル「!?どうしたの!?」
道の真ん中で座り込んでいたネズミの亜人が視界に入った。
子供のネズミの亜人「ママとはぐれちゃって転んで痛くて」
左足が擦りむいたみたいね。そこまで外傷はないけど捻ってるかもしれない。
ミッシェル「お姉さんが助けてあげる。ママはどこかわかる?」
とは言ったけど、わかるわけないか。でもこの子を探しにそのママがこっちに来たらまずいわね。
ミッシェル「お姉さんがおんぶしてママのところに連れていってあげる。さぁ乗って」
子供のネズミの亜人「うん」
道中で見つかればいいけど、とりあえず避難所まで連れていくのがいいわね。
ミッシェル「遠慮しないでお姉さんに捕まっっててね」
背中に乗る子供に微笑んだ。その刹那、隣の壁がはじけた。無数の破片が飛んでくる!そういえば火の影響で石が弾けるかもって話してた!
しまった!おぶっているから手が塞がってる!頼りになるのは私の足だけ!
だけど全力で動いたらこの子が耐えられるの!?でもあれに当たるよりはマシ?クソッ!とりあえず子供をしっかり掴んでジャンp——
「ミッシェルッ!!!」
火に反射した刀の軌跡が飛びかかる岩を斬り伏せられたのが見えた。この声、そしてこの刀捌きには身に覚えがある。
ティラク「あっぶね〜!大丈夫か!?」
ミッシェル「え、ええ。助かったわ」
ティラクに弾かれた石は地面に叩き伏せられた。私は動くことなく全て対処してくれた。安堵のため息が出た直後後方から声が聞こえた。
子供のネズミの亜人「あ、ママ!」
母ネズミの亜人「ミリー!」
子供が背中から降りて母ネズミの元へ走っていった。涙ぐみながら抱きしめ合うふたり。
ティラク「お母さんが子供を見失ったって言うからお母さんをおぶって探してたんだよ」
ミッシェル「そうだったの」
ふぅー。大怪我もしないで済んだし、お母さんと会えてよかった。
ミッシェル「そ、それはいいけどあんたもうあっちは終わったの!?」
ティラク「10人ほど助っ人ができてな。こっちを回ることにしてたんだ。ジャストタイミングだったな!」
ミッシェル「助っ人?まあいいわ。」
……ティラクのくせにちょっとかっこよかったわ。
ティラク「ミッシェル。その子連れてお母さんと避難所まで連れていってあげてくれ。あとは俺がここら一帯を見ておく」
ミッシェル「わかったわ。お願いね。じゃ二人ともいきますよ。ティラクも気をつけてね」
ティラク「おうよ」
にやりと微笑んだティラクが走ってまた街へと消えた。
ミッシェル「さっきみたいなことがあるから気をつけて行きましょう」
ネズミの親子「「はい!」」




