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死亡シーンダイジェスト集(一部抜粋)

①刺殺ルート


「御嬢様、どうか死んでください!!」


 それはあまりにも唐突だった。廊下で侍女の一人とすれ違った直後、背中の腰の辺りに激痛が走った。灼熱のような痛みに襲われ、全身から脂汗が一気に噴き出る。


 手で押さえると、手のひらにべったりと鮮血が付着していた。その出血量は一目で致命傷であると認識できるほどだった。


 何故? 堪らず振り返ると、震える手で包丁を構えていた侍女が、奇声を上げながら突貫してきた。


 防ぐ間もなく今度は腹部を刺され、たたらを踏んで倒れると馬乗りになってきた侍女は、狂気に蝕まれた顔で両手を大きく振りかぶった。


 瞳孔が開ききっていて、完全にイカれていた目をしている。殺意にとりつかれた奴の顔は皆同じだ。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 何度も何度も何度も何度も、繰り返し刺されたことで、またワシは殺されてしまった。消えゆく視界の中で、侍女は手を休めることなく包丁を振りかざしていた。



   To be Continued?

   Yes_

   No



②刺殺ルートⅡ


 気分転換に庭園を歩いていると、入り組んだ植木が迷路のようになっていて、いつの間にか迷子になってしまった。


 さて困ったな――来た道を引き返そうとすると、近くの繁みからガサゴソと葉が揺れる音が聴こえて緊張が走る。


 警戒しながら近付くと、サッカーボールほどの大きさの塊が飛び出してきた。


「なんだ、ウサギじゃねえか。ビックリさせやがって」


 そいつは一匹の真っ白なウサギで、ワシの股の間を一目散に駆けていった。ドレスの裾についた汚れを叩きながら立ち上がると、またも葉が揺れて今度はなんだと目を凝らすと――繁みの奥から飛び出してきた何かが喉に深々と刺さった。


「……は?」


 刺さっていたのは、木の枝の剪定などに使う剪定鋏だった。錆びた刃が血を吸っている。犯人は庭師の男だった。憤怒の形相でワシを睨めつけてい。なんでまた、ワシがこんな目に遭わなくちゃいけないだ。


「御嬢様、いえ、レディアナ! もうアッシは我慢の限界だ! とっととくたばりやがれ!」

「なに、しやがるんだ、テメエ」


 口を開くごとに血が溢れてくる。気管から漏れ出ていた空気が間抜けの音を立てていた。渾身の力で抜くと、噴水のように血が弧を描いて植木に降り注ぐ。ああ、虹がかかってら――。


 ジョキジョキ、と何かを切る音だけが聴こえるが、既に痛みも消えていたのは不幸中の幸いと言っていい。



   To be Continued?

   Yes_

   No



③焼殺ルート


 その臭いを嗅いだ瞬間、就寝中であったにも関わらず警戒度がマックスまで高まった。寝起きが悪いとも言ってられず飛び起きると、綺麗に整われた金髪からポツポツと滴り落ちる油が、地面に、シーツに、黒いシミを作ってる。


 揮発する化合物の臭いが鼻を突くと、反射的に吐き気を催した。臭いが全身から漂っている。ぐっしょりと濡れた前髪をかき上げると、仄暗い室内に淡く光る蝋燭を持つキャンベルが立っていた。


「こんな夜更けに、ワシの寝室にまで忍び込んできて夜這いのつもりか?」

「その気色悪い言葉を二度と吐けないよう、苦しみながら死んでくださいな」


 ベッドに向かって蝋燭が放り投げられると、一瞬で燃え広がってワシの身体も炎に包まれた。熱い、痛い、苦しい、一秒が無限にまで引き延ばされたように感じる時間の中で、転げ回っていたワシは枕の下に忍ばせていた首切り丸を手に取った。


 こんな地獄が続くくらいなら――鞘から引き抜くと刀身に皮膚が焼けただれた顔が映っていた。気管を焼かれて呼吸もままならない。躊躇うことなく喉を掻っさばくと、ゆっくり倒れた。


 炎に飲み込まれていく寝室に、何時までも高笑いがこだましていた。



   To be Continued?

   Yes_

   No



④溺殺ルート


 広大な敷地には、庭園のほかに手つかずの自然が多く残されている。鹿や狸、狐、鳥と小動物を山程見かけた。人工の池もあるようで、ほとりで覗き見ると無数の魚影が湖面の下で乱舞していた。


「こんなところに釣り堀があるとはな。しかし、屋敷で聞かれたくない話とはなんだ?」


 釣り竿を振るうと、飛んでいった疑似餌が波紋を浮かべて静かに着水する。池の住人たちはもともと危機感が薄いのか、それとも欠如してるのかしらないが疑似餌を口先で二三回つつくと、すぐに食いついて初めて偽物だと気付く。竿が激しくしなるが、今さら暴れても遅い。


「お嬢様、爺のことを許してくれとは申しません。ですがどうか、お家の為に……」

「何いってんだ? って、うわああああ!」


 釣り上げた魚を掴み上げると、背中を押されて前のめりに池の中へと落っこちた。不味い、ワシは泳げないんだ。突然の事態にパニックになり、手足をばたつかせている間に水を多量に飲んでしまう。


 しかも水を吸ったドレスは異様に重くなる。そうなると余計パニックを招いて、身体はどんどん沈んでいく。


「セ、セバスチャン! 何してるんだ! 早く、ワシを助けろ!」

「申し訳ございません。このままですと、どの道お嬢様は処刑されてしまいます。であれば、爺がこの手で引導をお渡しするのが一番でございましょう」

「な、なにトチ狂ったこといってやがる……そんな勝手な真似を」


 途切れ途切れに、顔を水中から必死に出してセバスチャンに声を掛けるも、拳を握りしめて立ち尽くすのみだった。底に住む主に引っ張られるように、体力の限界を超えた身体が引きずり込まれていく。暗く冷たい底へと。



   To be Continued?

   Yes_

   No



⑤絞殺ルート


 余計なことをしないほうがいいのではないか――度重なる死を経験したワシは、同じ屋敷で働く全ての人間を警戒して、部屋の外から一歩も動けずにいた。部屋の中でさえ殺されるときは殺されるのだが、その時はその時だと諦めるしかない。


 部屋に鍵をかけて一歩も出ないまま、数日が経つと扉を叩く音がした。誰か尋ねるとルーベンスで、庭で採った花を活けさせてほしいと懇願された。父親なら、まあいいかと部屋に入れてやると、花瓶に色とりどりの花を添えてカーテンを開けた。


「ほら、外を見てご覧。いい天気だよ」

「別に興味はない」

「いいから、おいで。少しは気分が晴れるよ」


 あまりにしつこいので、渋々起き上がると言われたとおりに窓の外を見た。別にこれと言って普段と変わらぬ景色に、気分が良くなるはずもない。ルーベンスに文句を言おうとした時、背後から回された紐状のナニかが、皮膚にキツく食い込んだ。


「ガハッ、な、オヤジ……テメエもか」


 気道、頸動脈、静脈が交差する紐に完全に縛り上げられると、顔全体がピンポン玉のようにせき止められた血流で腫れ上がる。目玉が今にも飛び出そうなほど圧力が加わり、酸素が届かない脳は確実に死に向かっていた。


「すまんな、レディアナよ。もうクローリー家はおしまいなんだ。だから、お前を殺した後はパパもすぐに後を追うから安心しろ」


 ふざけるな、今すぐ離しやがれ――言葉にならない声はルーベンスに伝わるはずもなく。筋肉が弛緩した下半身から糞や小便を垂れ流して幕が下りた。



   To be Continued?

   Yes_

   No



⑥撲殺ルート


「なんでこんなことをしたの!」

「それは……怒られるのが怖くて、つい」


 虚ろな視界が捉えたのは、血の海に広がる粉々に砕けた陶器の破片。それに、なにやら言い争いをしている二人組の足首だった。声からすると、リナとキャンベルのものだと思われる。


 何が起きたのか、記憶を遡ると部屋の掃除を頼んだリナが、あまりにもトロくて思わずキレたんだったか――その直後にナニかが割れる音がして、気を失った。指先を動かすので精一杯の状態のワシは、その場から逃げる事も出来ずにいる。


「もう、仕方ないわね。私が見張ってるから、あなたが最後まで責任を持って《《ヤりなさい》》」

「や、め、ろ…」


 何が仕方ないのか、さっぱりわからないが指示されたリナは、覚悟を決めたように頷くと、燭台を手に鬼気迫る顔で近づきてきた。ただひたすらに謝りながら、言葉とは裏腹に全力で振り下ろして今度は頭が潰れる音が聞こえた。



   To be Continued?

   Yes_

   No



⑦射殺ルート


 音速は秒速三百四十メートル、つまりマッハ一に相当する。日本の警官が標準装備している九ミリ弾は若干速い三百七十メートル。当たりどころが悪けりゃ死ぬ確率は当然高くなる。


 ワシの肩を貫いた弾丸も、それなりの速度であることは疑う余地もない。隠れた木陰から痛みを堪えて息を殺しながら様子を窺うと――下草の中を構わず歩くカタリナの姿が見えた。その手には散弾銃ショットガンに形状がよく似た銃が構えられている。


 またお前かと、心のなかで叫んだ。いったいお前はワシにどれだけ恨みを抱えてるんだよ! とうとう完全にイカれたのか、カタリナはクローリー家が狩猟ハンティングを行う際に使う猟銃を倉庫から持ち出すと、あろうことか屋敷内にいた()()()人間を殺し回り始めた。もはやシリアルキラーと変わりない。


 普段は鉄面皮の女が、狂気に呑まれた表情かおでワシの名前を呼びながら屋敷の外まで追いかけてきている。まるでハリウッドのパニックホラー映画のワンシーンを再現しているみたいだ。手元には刀があるが、散弾銃相手ではあまりに分が悪い。


「レディアナお嬢様〜。どこに隠れてらっしゃいますか〜? そんなに怖がらなくても、使用人やご家族も皆、先に天国で待ってるので怖くないですよ〜」


 正面から発砲されれば、ひとたまりもない。使ってる弾から想定する有効射程距離は、十五メートルから三十メートル。しかもカタリナは開けた場所を陣取っているため、下手に近づこうものなら今度こそ仕留められかねない。


 ここは一旦逃げよう――屋敷の外の土地勘は全くと言っていいほどないが、誰かしら見つけられるはず。そこで助けを求めよう。


 背中を見せるカタリナに悟られないよう、ゆっくりと足音を殺して後方に後退ると……最悪なタイミングで落ちていた木の枝を踏んでしまった。鳴り響く音に心臓が止まるかと思った。


「そこね!」


 主に反応して振り向いたカタリナは、もはや人間を辞めた顔で引金を引く。ズドンと音が鳴った瞬間に、片足を撃ち抜かれて前のめりに倒れていた。


「そこにいらっしゃいましたか。まったく、手こずらせてくれましたね」

「ク、クソ、ヤローが……」

「お口が相変わらず悪いですね。せめて来世はまともな人間に生まれ変わってくださいな」


 逃げる手段を失い、額に銃口を向けられると瞬く間もなく意識は途切れた。



   To be Continued?

   Yes_

   No



⑧処刑ルート


「これよりレディアナ・クローリーを断首の刑に処する」

「ふざけんな! なんでワシが殺されなくちゃいけねえんだよ!」


 あまりにも理不尽、あまりにも理解不能な処刑に何度異議申し立てを訴えても、ワシの意見が通ることはなかった。初めて訪れた聖都の広場には大勢の聴衆が集まっている。全員がレディアナ・クロウリーの処刑を見ようと集まった最低な連中ども。ギロチン台に載せられたワシは、唯一自由な口で怒鳴り散らした。


 そもそも内乱罪なんて身に覚えがなさすぎる。国家転覆を狙ってるつもりなどサラサラないし、たかが王子を殴ったくらいで大袈裟すぎる判決は、王子の取り巻き連中が画策したもので違いない。


 最後まで意義を訴えてルーベンスは、最前列で今もなお無実を訴えている。相変わらず親バカがすぎる男だ――。何度身をよじつても拘束具が外れることはない。頭上にはあらゆる命を断ち切る刃が、ワシを見下ろして作動の準備は万端だった。


「時間だ。始めろ」

「おい嘘だろ、待て! 俺の話をき」


 最後まで話すことは叶わなかった。重力に従って落ちてきたギロチンの刃にスパッ、と抵抗もなく切られたワシの首は、流れ星のように飛んでいく。もういい加減、殺されるのは勘弁してほしい――

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