17.猫桃売りの娘
第8話の後に、幕間を追加しました。
ガルドラ師匠から見た、王国滅亡の補足話になります。
実は前から準備していたのに、投稿を忘れていました。
面目ありません。
雷王を解放して地上へ戻ると、また町で飯を食おうという話になった。
インドラのために猫桃も買いたかったので、またみんなで町へ繰り出す。
そして以前、猫耳ちゃんがいた所へ差しかかる頃、誰かが言い争う声が聞こえてきた。
「返してください。それは売り物なんです」
「だから俺たちに付き合ってくれれば、全部買うって言ってるんだ。いい話だろ?」
「それなら買ってもらわなくてけっこうです。返してください!」
なにやら猫耳ちゃんに、3人の男が絡んでいた。
革鎧と武器を装備した男たちは、いかにも冒険者風だ。
しかし寄ってたかって女の子を困らせているようでは、ろくな奴らではないだろう。
猫耳ちゃんは必死に抵抗していたが、とうとう後ろから羽交い締めにされてしまう。
そして男たちは、嫌がる彼女を無理矢理連れていこうとする。
俺たちを含む人目があるというのに、それをはばかる気もないようだ。
「助けてやれ、インドラ」
「ニャッ!」
俺はインドラをひっつかむと、男たちに投げつけた。
彼は猫耳ちゃんを羽交い締めにしている男へ向かって飛び、すれ違いざまに首筋を引っかいた。
「ギャアッ! 何しやがる、この猫っ!」
「フシューッ」
引っかかれた男が猫耳ちゃんを手放し、着地したインドラとにらみ合う。
すると男の手を逃れた猫耳ちゃんが、俺たちの方へ走り寄ってきた。
「助けてください。あの人たち、しつこくて」
「ああ、任しときな。おい、あんたら、女性を無理矢理誘うなんて、感心できないな」
「んだと、このガキ。いてえ目に遭いてえの……」
凄むチンピラの前にじっちゃんが立つと、言葉が尻すぼみになる。
白髪の老人ながら、大柄なマッチョで片目の潰れたじっちゃんに睨まれれば、大抵はビビるだろう。
「チッ、しらけたな……帰るぞ」
「待てよ。迷惑料として、猫桃のひとつでも買っていきな」
「てめえ、調子に乗ってんじゃ……はい、買います」
言い返そうとするチンピラが、またじっちゃんのひと睨みで黙った。
やはり歴戦の勇士の迫力は違う。
結局、桃を3個、倍の値段で買わせてから、追い払った。
すると猫耳ちゃんが恐縮しながら、お礼を言う。
「あ、あの、本当にありがとうございました。凄く助かりました」
「何、ちょうど猫桃が欲しいと思ってたから、ちょうど良かったよ。残ってる桃をもらえるかな?」
「は、はい。どうぞ全部持っていってください。お金なんていりません」
お金を取り出そうとする俺を、猫耳ちゃんが制止する。
「そんなに大したことをしてないから、1個サービスくらいでいいよ。はい、代金」
「えっ、そんな、いただけません」
「いいから、いいから」
7個残ってたので、銅貨6枚を押しつけた。
「そういえば君、名前は? 俺はワルド」
「リムルです。見た目どおりにリンクスの14歳です。よろしくお願いしまっしゅ」
なぜかリムルは拳を握り、気合いを入れて自己紹介をする。
「あ、ああ、よろしくね」
「私はアニー。よろしくね。それからこちらはアハルドさん」
するとアニーも横から自己紹介した。
「よろしくお願いします。3人とも、冒険者さんですか?」
「ああ、そうだよ。そう言うリムルちゃんも?」
「はい、まだ見習いですけど。仕事のついでに猫桃が採れた時は、こうして売ってるんです」
「へーー、ずっと1人でやってるの?」
すると彼女のはしばみ色の瞳が、悲しそうに伏せられた。
「本当はお母さんと一緒なんだけど、ケガしてるから……」
「……そうか。偉いな、リムルちゃんは。また変な奴がいたら、言いなよ。相談ぐらい乗るから」
「ありがとうございます」
もっと面倒を見てやりたいとは思うが、俺たちにそんな余裕はない。
またトラブルに居合わせたら、助けてやるぐらいだろう。
そんなことが起きないよう、祈ってはいるが。
その後はまた酒場で夕食を楽しみ、王城跡へ帰った。
翌日は第3階層を探索する前に、インドラの能力を確認した。
「雷王ってぐらいだから、雷魔法が使えたりするんだよな?」
「そうよ。今はまだ弱いのしか使えないけどね。インドラ、見せてやりなさい」
アフィが指示すると、インドラが掲げた前足からパチパチという音が聞こえた。
何気なく指で突ついてみると、指先にビリビリッとくる。
「うわっ、ビリビリッてきたぞ。これが雷魔法か」
「そうよ。今のところは雷というより、電撃だけどね。もっと大きくなったら、バリバリバリーッて感じの雷撃も放てると思うわ。それぐらいになれば、ワルドにも使えるはずよ」
「マジで? 楽しみだなぁ。でもそれぐらいになるまで、どれくらい掛かるんだろ?」
「さあ? とりあえずバンバン肉を食べさせて迷宮で戦ってれば、成長するわよ。場合によっては、数ヶ月くらい掛かるかもしれないけど」
「月単位かぁ……とりあえず猫桃、食うか? インドラ」
「ニャ~ン」
猫桃を食わせてから、いよいよ第3階層に侵入した。
この階層に封じられているのは、”風王”だ。
一体どんな魔物が出てくるかと警戒しながら進むと、やがてキイキイという鳴き声が聞こえてきた。
やがて前方に現れたのは、カラス大のコウモリだった。
アフィ情報で麻痺蝙蝠と呼ばれるこの魔物は、複数で飛来して俺たちに噛みつこうとしてくる。
これに噛まれると麻痺するらしいので、けっこうヤバい魔物だ。
しかしこちらには、アニーという秘密兵器がいた。
「来たぞ、アニー」
『我は風精に願う、天駆ける風の力よ、我が刃となりてかの敵を切り裂きたまえ。風裂斬』
キイキイという声が聞こえたらアニーが詠唱に入り、現れた敵に魔法をぶっ放す。
これでほとんどの奴が落ちるので、俺たちはとどめを刺すだけだった。
たまに魔法を避けるのもいるのだが、そんな敵はインドラが対応する。
「ニャオーンッ!」
たとえ空飛ぶコウモリといえど、インドラは壁や天井を駆け回り、サクッと息の根を止めてみせた。
どうやら、例のビリビリショックも使っているようだ。
まだ体が小さくて頼りなく見えるインドラだが、ここの魔物とは相性がバッチリだ。
この調子なら、俺が雷撃魔法を使える日も、そう遠くないだろうか。