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獅子令嬢と小指伯爵のレコンキスタ ~婚約破棄から始まる、秘密を共有した二人の再征服(レコンキスタ)~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第7章 「故郷は遠く」

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・7-11 第79話:「配食」

・7-11 第79話:「配食」


 海岸に築かれていた陣地から火の民を追い散らしたエリアス達だったが、南へ逃げて行った敵を深く追撃するようなことはしなかった。


 今は、そんなことより。

 物資の確保が最優先であったからだ。


 とにかく、食べ物を!

 村人達が振る舞ってくれた粥以外にはまともな食事をできていなかった将兵は、血眼になって敵の拠点の中を探し回った。


 元々は一万もの兵力が駐留しており、海岸保として機能していた場所だ。

 あるのに違いないとは予想していたが、やはり食料が備蓄されていた。


 長期保存のための処理を施されたものが多い。

 燻製や塩漬けにされたニシンやイワシ。

 一見すると獣肉のようにも見えるが、どうにも見た目や風味が異なる謎の干し肉。

 それに、黒っぽい、乾燥させた野菜のような何か。


 異なる文化、習慣を持った異民族が食べていたものだ。

 シアリーズ大陸の人々が慣れ親しんで来たものとはずいぶんと食材が違っているらしい。


「なんだか、魚が多いですわね……」


 簡易的な掘っ立て小屋の倉庫に山積みされていたそれらを見分したリアーヌは、慣れない臭いに思わず顔をしかめてしまっていた。

 エリアスから兵士たちに食べさせる配食の準備を頼まれ、「お任せてくださいませ! 」と勇んで引き受けたものの、この光景を目の当たりにすると自信を無くしてしまう。


 ソラーナ王国でも、彼女の故郷であるゴロワ王国でも、魚は食べられている。

 ニシンやイワシは慣れ親しんだ味だったし、タラなども流通し、乾燥させたものが内陸まで流通している。


 しかし、どうにも雰囲気が違う。

 同じ魚なのに、シアリーズ大陸で出回っているものとは明らかに違う臭いがするのだ。


 なにか特別な香辛料でも使っているのか。

 それとも、同じ燻製や塩漬け、干物であっても、作り方が大きく異なっていたりするのだろうか。


 獣肉のように見える干し肉もあったが、これも馴染みのないものだった。

 一口大の薄い四角形に切り分けられたものが魚と同様にたくさん並んでいるのだが、牛でも、豚でも、羊でもなさそうだ。

 均一な大きさで大量に存在しているというのは珍しい。

 というのは、一般的に家畜の肉の形というのはその種族の姿、骨格などによって影響されるため、こんな風に同じ厚さ、同じ高さと幅で切りそろえた肉を作ることは難しいのだ。

 それができるということは、元々はよほど大きな動物から採取した肉であるはずなのだが、これほど巨大な生物は、少なくともシアリーズ大陸には存在しない。


 大陸の遥か東方にはゾウと呼ばれている巨大なものがいるという。

 もしかするとそれを狩ったのかもしれないとも思ったが、火の民が住む場所にそうした大型動物が生息しているという話は聞いたことが無い。

 そもそも貧しい土地で、馬の飼育さえまともにできないのだ。

 一頭から大量の肉を得られるような家畜がいるとは思えない。


 だが、あるものはある。

 そして、食べ物には間違いない。

 少なくともここにいた異民族たちは、これらを食事として利用していたのだ。


 乾燥野菜のようなものもあるのだが、これも美味しそうには見えなかった。

 なんだか磯臭いし、色は黒ずんでいるし、とても固い。

 古くなって、カビが生えてしまっているのではないかと思える。

 率直に言って、不味そうだ。


 いずれにしろあまり食欲が湧いてくるものではない。

 だが、食べる他はない。

 ここにはそれ以外に食べ物はないからだ。


 不思議なのは、穀物に相当する食品が見られないということだった。

 火の民は狩猟と採集で生活していて農業をしない、という話なのだが、どうやらそれは本当であるらしい。


 そうなると、敵が村で食料を略奪しなかった、というのにも、一種の回答が生まれて来る。

 シアリーズ大陸に住む人々にとって彼らの食べ物が不味そうに見えるのと同様、彼らの方から見ても、こちらの食品は不味そうに見えているのだろう。


「とりあえず、スープにいたしましょう。

 いろいろと混ぜて煮込んでしまえば、なんだかんだマシな味になってくれるはずですわ」


 リアーヌは頬を引きつらせたままそう結論付けると、さっそく、兵士たちに食料を配給する支度を始めた。

 手に入ったものの数量を正確に把握し、できるだけ、いや、完璧に公平に分配する。


 そうでもしなければ、暴動が起きかねない。

 なにしろソラーナ王国軍の敗残兵一万名はすっかり空腹だ。

 今はようやく一休みできそうな場所を見つけて安心し、落ち着いているが、じきに飢えを思い出す。

 そんな時は誰しも、気が立っている。

 もしも配食を均等に行うことができなかったらたちまち不満が生じ、リアーヌ達に強い反発が向けられることになるだろう。


 そういった点でも、スープにする、というのは良い選択だった。

 いろいろな具を細かく刻んで混ぜてしまえば大勢に平等に分けることができるし、大量の水分で文字通り水増しできるため満足感も得やすい。

 それになにより、一度に大量に調理するのにも適している。


 幸い、鍋などの道具は拠点の中に数多く残されていた。

 おそらくは火の民たちも、食料をスープにして煮込み、柔らかくして食べていたのだろう。

 近隣の村々から徴収して来たらしいものだけでなく、彼ら自身が持ち込んだらしい調理器具があった。


(マリエルに、少しだけでも料理を習っておいて正解でしたわ)


 他の将兵と一緒になって料理を開始したリアーヌは、一流ではなくてもやはり一通りのことはなんでも自分自身でやれた方が良いなということを実感しながら、一万人に振る舞う配食を作るために集められた将兵を指揮し、食材の調理を進めて行った。


 ほどなくして。

 辺りには、シアリーズ大陸の人々にとってはあまり嗅ぎ慣れない、海戦尽くしのスープのにおいが漂い始めた。

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