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獅子令嬢と小指伯爵のレコンキスタ ~婚約破棄から始まる、秘密を共有した二人の再征服(レコンキスタ)~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第7章 「故郷は遠く」

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・7-10 第78話:「襲撃:5」

・7-10 第78話:「襲撃:5」


 筆頭騎士長・ニコラスが立てた作戦は、リアーヌの言葉を借りれば「回りくどい」ものだった。


 まず東側で攻撃をし、すぐに退く。

 次いで北側からも攻撃を加えるが、これも見せかけ。

 そして再度東側から、それも兵力を増強して襲うが、結局は陽動に過ぎない。


 本命の攻撃軸は、北西。

 干潮によって陸が広がり、火の民が築いた陣地へと突入できる道ができるのに合わせ、機動力のある騎兵の集団を突入させる。


 敵をおびき寄せ、手薄になったところを突く。

 そういう理屈は理解することができる。

 相手が兵力を集め、しっかりと守りを固めているところに正面から攻めかかるのではこちらの損害も大きくなり過ぎるし、防衛網を突破できなくなってしまうかもしれない。


 しかし、そうだとしても。

 三回も陽動をくり返すことはないのではないか、と思ってしまう。


 これではあまりにも煩雑(はんざつ)ではないか。

 前線で行われていることは[前進]と[後退]という単純な行動に過ぎなかったが、それを組み合わせると、迂遠(うえん)に思えてしまうほどになる。


 陽動するにしても、東側から攻撃を仕掛けて見せ、敵をおびき寄せるだけではいけないのか。

 リアーヌはそう感じてしまうが、ニコラスに言わせると、「意味がないからこそ、意味がある」ということらしい。


「こちらが無意味な行動を行ったとしても、それを見た敵は、どうしてもそこに何かしらの意味があるのではないかと考えてしまうものです。

 わざわざこんなことをするのには、理由があるのに違いないと。

 そうなると、敵は判断に迷うことになります。

 すると状況に即応することが難しくなる。

 それが、一見すると意味のない、三度の陽動をくり返す目的なのです」


(なんだか、分かるような、分からないような。

 不思議な感覚ですわね)


 うまく言いくるめられているような心地がしていたが、———どうやら、確かに効果はあったらしい。


 海岸線に生まれた道を駆け抜けて突撃したソラーナ王国軍の騎兵部隊は、陣地の西側、船舶の港として機能していた場所を守っていた火の民を蹴散らした。

 敵は二百名程度に過ぎなかったことや、停泊している船舶を警備するために分散していたこと、そしてこれまでの攻撃が他の方向で実施されたことから警戒心を弛緩(しかん)させており、予想外の攻撃に有効な対応ができなかったのだ。


「左へっ! 」


 多くの敵兵を討ち取り、生き残りを南側に追い散らしたエリアスは、掲げた手を左側に振り下ろしながらそう命令していた。

 そうして、北西方向から海岸沿いに侵入したソラーナ王国軍はその矛先を変え、陣地の北側の門へと向かう。


 門を守備していた火の民は、騎兵たちの襲撃を受けて混乱に陥った。

 正面からは角笛の音に合わせてディエゴ騎士長に率いられた一千六百弱の集団が攻撃を再開しており、彼らの注意はそちらに振り向けられていたからだ。

 そこへ、まったく意識していなかった方向からエリアスたちに襲われたのだ。


 火の民の守備兵は、貧弱な門を打ち破って突入して来る敵に備えた陣形を取っていた。

 長槍をかまえた密集隊形の正面を北側へと向け、出入り口を塞ぐように布陣している。


 ソラーナ王国軍の騎兵集団は、ちょうどその背後を襲う形となった。

 これでは、せっかく優位にある長槍のリーチを生かすことができない。

 なす術も無く蹴散らされ、西側にいた兵たちと同様、ソラーナ王国軍からの攻撃がされていない南側に向かって生き残りは逃走していった。


 騎士の一人が素早く門へと駆けより、閂(かんぬき)を抜く。

 すると外で待ちかまえていたディエゴ騎士長が「我に続けィッ! 」と勇ましい声を発しながらあらわれ、配下を率いて敵陣深くへとなだれ込んで行った。


 この時点で、勝敗は決したと言ってよい。

 火の民の守備兵は一千しかいなかったのに、すでにその倍に及ぶ王国軍の侵入を許してしまったのだ。

 しかも守る側の兵力は分散しているため、立ち向かおうにも簡単に包囲され、袋叩きにされてしまう。

 ここから逆転する術はまずないはずだった。


「今度は、東へ向かう!

 友軍をさらに引き入れる! 」


 そう命じたエリアスがヴェンダヴァルを駆けさせるのに従って自身もネージュを走らせながら、リアーヌはニコラスの考えていたことを理解できたような気がしていた。


 もし、北側の門に火の民の予備兵力が駆けつけていたら。

 数は四百近くとなり、騎士の集団が殺到して来ても容易には崩すことができなかっただろう。


 だが、彼らはそこにはいなかった。

 西側から敵軍が侵入してきているということは分かっていたはずなのに、最後に向かった東側から動かず、事態を静観し、遊兵と化してしまっていた。


 これこそが、ニコラスが回りくどく三回も陽動をくり返したことによって生じた効果だったのだろう。


 彼らはこちら側が見せた「無意味な行動」に理由を見つけようと躍起になり、結果として、疑心暗鬼に陥ってしまったのだ。


 西側から、敵があらわれた?

 しかし、今回も偽装攻撃かもしれない。

 それなら現在地から動かない方がいいのに違いない。

 そもそも、敵はいったい、なにを考えているのか……?


 予備兵力を指揮していた将は意味のないことに意味を見つけようと思考を巡らせ、判断に迷い、結果、肝心な時になにもできなかった。


 その行きつく先は、彼らの一方的な敗北という結末。

 ソラーナ王国軍の一方的な勝利という形になってあらわれた。


 東の門へ向かったエリアスたちはその途上でようやくこちらに向かって動き始めていた敵の予備兵力を捕捉し、騎兵の機動力を活用して四方から襲って撃破し、次いで、順に東側の守備兵も敗走させた。


 そうなるともう、勝負にもならない。

 門を開き味方を導いたことで陣の中には四千の軍勢が侵入を果たし、決定的な兵力差が生まれている。


 内部に入り込まれて縦横に駆け巡られている以上、陣地に籠もっているという防衛上の優位点は完全に失われている。

 残っていたのは南側の火の民だけで、他の場所から逃れて来た者と合わせて数百もいたが、押しよせて来るソラーナ王国軍の前にはできることもなく、あっという間に壊走していった。


 完勝だ。


「勝ったぞ! 勝った! 」


 誰かがそう叫ぶと、自然に歓声が広がり、兵士たちはこれまでの疲労も忘れて喜びに湧きたった。

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