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獅子令嬢と小指伯爵のレコンキスタ ~婚約破棄から始まる、秘密を共有した二人の再征服(レコンキスタ)~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第7章 「故郷は遠く」

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・7-6 第74話:「襲撃:1」

・7-6 第74話:「襲撃:1」


 火の民が築いた拠点を襲い、退路を切り開くのと同時に、もっとも不足している食料を確保する。

 その重要な役割を、エリアスは担うこととなった。


 ソラーナ王国軍の敗残兵、一万の命運を預かるのだ。

 生真面目なところのあるリンセ伯爵にとっては大きなプレッシャーになる。


 彼が背負っているのは、それだけではない。

 背後から追跡してきている火の民を一千余りの手勢で食い止めるという任務についたリオン王子の生命も、すべてこの襲撃の成否にかかって来る。

 つまりは、ソラーナ王国の行く末も決まってしまうのだ。


 フェルナンド三世が生きているのか、それとも亡くなっているのか。

 情報が得られていないためなんとも言えないが、もしコレドールの地で戦死しているのならば、その嫡男であり正当な王位継承者としての立場にあったリオン・ドゥラスノが新たな国王として即位し、この国を導いて行かなければならなくなる。


 もしここでエリアスがしくじったら。

 あるいは、———裏切ったら。

 それはすなわち、ソラーナ王国の滅亡を意味していた。


 これまではリンセ伯爵として、自分の家と領民たちのことだけを考えていればよかった。

 それなのに、比較にならないほど大きな、国家の行く末というものも視野に入れなければならなくなった。


 そういう状況に、なってしまった。


 そのことが恐ろしいと感じられ、思わず身体がすくんでしまう。


「エリアス、そう固くならないで下さいませ。

 兵が見ておりますわよ」


 少しだけ村で休ませてもらい、翌日に接近し、明後日の早朝に奇襲をかけて一気に敵陣を陥落させる。

 リオン王子が立てた作戦に従い行軍する途上で、エリアスの緊張の大きさを見て取ったリアーヌが声をかけて来てくれる。


「敵は陣地に籠もっているとは言っても、元々は一万の兵員を収容するためのもの。

 一千程度の数ではすべてを守り切れないはずですし、必ず、つけ入る隙があるはずですわ。

 大丈夫、ミシェルたちがきっと、それを見つけてくれるはずです」


 獅子令嬢に仕えている女中、その正体は諜報を生業とする者であるミシェルは、この追い詰められたなかでよく働いてくれている。

 彼女たちは様々な有用な報告をもたらしてくれたし、西に逃走経路が残されていることも教えてくれた。


 いつ休息をとっているのかと心配になるほどの活躍ぶりだが、今はその力に頼らなければならない。

 無理をしてでも、情報を持ち帰ってもらわなければならない。


 彼らにはあらためて敵陣の様子を探るべく先発してもらっている。

 敵陣近くで合流する手筈となっているが、その時にはきっと、リアーヌが言う通り敵陣を詳細に調べ上げ、攻略の糸口をつかむきっかけを与えてくれるだろう。


(帰りつけたら、きちんと礼をしなければだね……)


 そういう契約、主従関係を結んでいるから、というのがあるのだろうが、ミシェル達の献身には相応に報いなければならないだろう。

 「ありがとう、リアーヌ」と、気づかってくれた妻に礼を述べつつ、リンセ伯爵はそう思っていた。


 同時に、彼らのような存在を正式に雇い入れるべきだとも痛感している。

 リアーヌの実家、ジルベール家では[人材こそが最大の財産]というのをモットーにしているそうだが、真理を突いていると思わざるを得ない。

 ミシェルたちがいなければ、エリアス達もコレドールの地でどうなっていたか分からないのだ。


 行軍するリンセ伯爵家の手勢の足取りは重いものだった。

 十分な食事も休息も取れてはいないのだ。

 他の部隊に比べれば損害が少なく、指揮系統が機能しているため統制が取れているとはいえ、その戦闘力は十全には発揮できないだろう。


 それでも、彼らの表情にはまだ明るさがあった。

 戦地から故郷に手紙を出せるようにしてくれたり、負傷兵をなるべく見捨てずに連れて来てくれたりした領主の下で戦っているということを前向きに考えてくれているからだ。


(確かに、リンセ伯爵様はお若いし、頼りないところもある……。

 けれど、いつでも、末端の兵卒まで気にかけて下さる。

 そんな領主様の下なら、無事に故郷の土を踏めるかもしれない……)


 エリアスは優しい性格をしていて、時に優柔不断とも取れる部分を露呈(ろてい)することもあったが、少なくとも配下の全員のことを真摯(しんし)に考えて来た。

 そのことがある種の信頼感を醸成(じょうせい)し、将兵の心のよりどころとなり始めている。


(その期待に、応えたい)


 リンセ伯爵はそう思わずにはいられなかった。


 正直に言って、自身の本来の性別を偽って生きて来ることは、彼、いや、彼女に取って、多くの辛い経験をもたらして来た。

 優しすぎるその性格は、そもそも、伯爵家の当主という立場を担うのには向いていなかったのだ。


 それでも様々な苦難に耐えて現在でも[エリシア]としてではなく[エリアス]として存在しているのは、そうせざるを得なかった、というのもあるが、すべて、こういう時に伯爵としての責任を果たすためだ。

 彼は、優しいから。

 自分に与えられた役割、期待されていることを果たしたかった。


(大丈夫。

 僕たちなら、やれる……)


 リオン王子から託された一千余の兵力を加えて、リンセ伯爵の手元には二千六百名の戦力が結集している。

 これに、火の民を攻撃すると聞いて参加を志願してくれたソラーナ王国軍の敗残兵も加わり、合計で四千ほどにもなっている。


 五倍、とは言えないが、四倍。

 柵と土塁などの障害で防御を固めている程度の陣地に籠もった一千の敵であれば、打ち破れるだけの力はあるのに違いない。


 後は、どのように襲撃を実行するのか。

 エリアスの采配次第だった。

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