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獅子令嬢と小指伯爵のレコンキスタ ~婚約破棄から始まる、秘密を共有した二人の再征服(レコンキスタ)~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第6章 「決戦」

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・6-16 第67話:「救出」

・6-16 第67話:「救出」


 エリアスもリアーヌも、リオン王子のことを過小評価してしまっていたようだ。


 元々、高い評価はしていたつもりだった。

 彼は理知的で思慮深く、公明正大な人物と見なせる要素を度々示してきており、フェルナンド三世のような力強さ、剛勇さこそ感じられないものの、将来は良き王として君臨するだろうと考えていた。


 だが実際は、それ以上であるのかもしれない———。


 ソラーナ王国軍が決定的な敗北を得ている戦いの最中で、リオン王子は、この状況から巻き返すことを考えている。

 彼は勝利を諦めてはいなかった。

 目の前で起こっている出来事を真正面から受け止め、その現実に絶望せず、自身にできることはなにかと、思考を巡らせ続けている。


 普通はこんなことはできない。

 まずは危険な状況を逃れ、生き残ることを第一として、その後のことはまずは逃げ延びてから考えようとする。


 事実として、エリアスもリアーヌもそうだった。

 我先にと逃げ出すようなことこそしてはいないが、基本的にはこの場を生き延びることを優先して考えていた。


 この敗北の後に生じる状況を見すえ、今の内からできるだけの手を打っておこうなどとは微塵(みじん)も頭にはない。

 激変する事態に翻弄(ほんろう)され、そんな余裕など完全に失ってしまっていたのだ。


 リオン王子は、違っていた。

 彼は自分自身を見失ってはいない。


 王子として。

 彼がなすべきことに向き合っている。


 こういうのを、どう表現したらいいものであろうか。

 肝が据わっている。

 あるいは、諦めが悪い。

 根性がある。

 そんなところだろうか。


 いずれにしろ、エリアスもリアーヌも、リオン王子が示した王子としての覚悟に感銘を覚えたのは確かだ。

 実現できるかどうかはともかくとして、この場でこうした姿勢を見せることができている時点で、並みの人物ではない。


 この人なら、もしかしたらやり遂げるかもしれない———。

 そう感じさせるだけのものがあった。


 王国が生き残るためには、王権に力を与えている源、すなわち、侵略者である火の民に対抗するための戦力が必要だ。

 だから、この戦場で殲滅されつつあるそれを、できる限り救出する。


 そう目標を立てた時、リオン王子やエリアスたちがするべきことは、自ずと決まって来る。


 まずは、退路を確保し続けること。

 西に抜ける道は安全な様子だったが、その入り口に当たる部分は常に敵の攻撃にさらされている。

 これをはねのけ、脱出可能な状態を維持しなければ、味方を救うことはできない。


 そしてもうひとつは、西に逃げ道があるということをできるだけの者に知らせることだった。


 コレドールの地から山間部を抜けて通行できる道が存在することは、軍議に参加していた諸侯は知っていることだったが、それ以外のほとんどの将兵はあずかり知らないことだった。

 この場にいる多くの者は国中から集められてきた、土地に詳しくない者ばかりだ。

 地元の者しか知らないマイナーな抜け道の存在など知るはずがない。

 だから彼らは北に真っ直ぐ向かい、後方を遮断した火の民の迂回軍に阻まれて大損害を出している。


 彼らに、北ではなく西へ向かうように伝え、導かねばならない。

 そのために。


「ご加勢、心より感謝申し上げる!

 これより、私は配下の騎士と共に、再び戦場を往復し、まだ生き残っている友軍を西へ誘導する!

 エリアス殿、共に! 」

「はい!

 我らも共に! 」


 歩兵たちを分離し、先にエリアスたちが切り開いて来た道を通ってリンセ伯爵家の歩兵部隊に合流するように命じたリオン王子は、騎士たちと共に戦場へ引き返そうとしていた。

 逃げ惑っている味方を一人でも多く救出するため、西へ向かう様に教え、そしてその退路を作り出そうというのだ。


 エリアスたちもその蛮勇とも言える行為につき従った。


 敵によって制圧されつつある地に戻るのだ。

 取り囲まれ、全滅する恐れさえある。

 火の民がまた[魔法]を用いて来ることだってあり得た。


 それでも。

 この危険な賭けには、乗る価値がある。


 王子と合流したことで、騎士だけで四百以上、旗持を含めれば五百に及ぶ騎乗兵の集団ができあがっていた。

 そして彼らは西へ向かう歩兵隊と別れ、馬蹄(ばてい)で大地を踏み鳴らしながら敵の海の中に突入していく。


 そしてこの行動には、確かに意味があった。

 引き返した者の内、少なくない者が倒れたが、それ以上の将兵を救い出すことができたからだ。


 総崩れとなったソラーナ王国軍は、コレドールの各所で自らの生存をかけた死闘を繰り広げていた。

 なりふり構わず、武器を捨てて逃げようとする者もいれば、少しでも身を守ろうと生き残りで寄り集まり、隊列を形作って防戦している者たちもいる。


 単独で逃げ惑う者たちが生き残れるかどうかは、多分に運の要素に依存していた。

 敵と遭遇すれば死、遭遇しなければ助かるという二者に別れたのだ。


 ただ、前者の方が圧倒的に多かった。

 北へ向かうとその先には火の民の迂回軍がおり、運よくそこまでたどり着けても討ち取られてしまったのだ。


 身を寄せ合って抵抗していた者たちもやがては同じ運命をたどるはずであった。

 敵は多数であり、周囲を囲まれてしまえばなす術も無く押し切られてしまう。


 しかし、リオン王子とエリアスたちが彼らを救った。


 数十、多くても数百単位で即席の方円陣を組み戦っていたソラーナ王国軍の残存兵力を発見しては突撃するのをくり返し、掃討戦に夢中になっていた火の民を追い散らしては、「西へ向かえ! 」と教えて駆け去っていく。

 一時的に虎口を脱することができても脱出路へたどり着く前に再度捕捉されて全滅する集団もいたが、辛うじて戦場からの離脱に成功する者たちも確かに存在した。


 こうして。

 ソラーナ王国軍はこのコレドールの地で大敗し、壊滅するという事態に陥ったが、退路を塞がれるという状況からすると僥倖(ぎょうこう)と言えるほどに多くの兵力が脱出に成功することとなった。


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