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獅子令嬢と小指伯爵のレコンキスタ ~婚約破棄から始まる、秘密を共有した二人の再征服(レコンキスタ)~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第6章 「決戦」

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・6-15 第66話:「王権の源」

・6-15 第66話:「王権の源」


 敵中を突破して味方との合流に成功したエリアスは、すぐにリオン王子の姿を見つけることができた。

 彼はリンセ伯爵と同様に先頭の集団付近を率先して突き進んできていたために眼前におり、それだけでなく、その鎧には金を使った装飾が施されているのでよく目立つ。


「リオン王子、戦場ゆえ馬上から失礼いたします!

 リンセ伯爵・エリアス、お迎えに参りました! 」

「ああ、エリアス殿か!

 感謝申し上げる! 」


 戦闘の喧騒(けんそう)の中での会話。

 お互いに言葉が届くよう、自然と声が大きくなる。


「当家の者が申し上げました通り、西に退路がございます!

 我が手勢が確保しておりますので、そこからお早く、撤退なさってください! 」

「お心づかい、重ねて感謝申し上げる!

 しかしながら、エリアス殿!

 貴殿らの方こそ、先に逃れられよ!

 退路の確保は我が手勢で引き継ぐゆえ、ご心配なきように! 」


 その言葉には、戸惑いを覚えずにはいられなかった。


 リオン王子は、———この場に残ると、そう言っているように聞こえたからだ。


「お待ちくださいませ、リオン王子! 」


 エリアスは慌てて説得を試みる。


「殿下は、王権を引き継ぐという使命をお持ちの、大切なお体!

 そしてそれを支えるが我ら臣下の責任でございます!

 我らが殿を務めますので、何卒、王子は先にお下がり下さいませ! 」


 父であるフェルナンド三世のことや、行方の分からないシモン伯爵を心配してのことであるのかもしれない。

 しかし、王族である王子には、この場を生き残る義務があるはずだった。


 彼は王家の嫡男であり、ソラーナ王国の正当な王位継承者だ。

 もしこの地でフェルナンド三世が倒れていた場合は、国王に即位することとなる。


 コレドールでの決戦に敗れたことで、王国は甚大(じんだい)な損害を被っているはずだった。

 そこから態勢を立て直し、火の民に反撃していくためには、国家をまとめ上げるリーダーが必要で、その役割を務められるのは王冠を戴(いただ)く者だけだ。


 だからこそ、リオン王子はなんとしてでもこの窮地(きゅうち)を脱し、どんな手段を用いても生還しなければならない。

 そしてそのためには、エリアスのような臣下は、踏み台になることだって受け入れる必要がある。


「我が身の重責は心得ている!

 だが、そうであるからこそ、私はここに残らなければならない! 」

「それは、何故でございますか!? 」


 その時、いてもたってもいられなかったのか、リアーヌが声をあげていた。


 もしここでリオン王子が失われることがあれば、それは、ソラーナ王国が滅亡するということとイコールに等しい。

 反撃もままならず火の民によって制圧され、支配されてしまうか、他国によって侵略を受け、乗っ取られてしまうか。


 そんなリスクを冒す理由は、いったい何であるのか。

 理解し難いことだった。


「これは、伯爵夫人!

 本当にエリアス殿と共に戦っておられるとは! 」

「恐縮でございます!

 それより、殿下!

 敵を食い止めるのは私(わたくし)たちにお任せになって、お早くお引きくださいませ! 」

「ありがたいご配慮だが、やはり、そうすることはできぬ! 」


 リオン王子はなおも戦場から率先して逃走することを拒否する。

 それから兜のバイザーをはね上げ、素顔を見せる。


 エリアスもリアーヌも、彼に対しては温和で理知的なイメージを抱いていた。

 戦場にいる今は別として、普段の王子の口調は臣下に対しても丁寧なもので、偉ぶることはなく十分に尊重する姿勢を示してくれる。

 それに細やかな気配りができ、他の者が見逃してしまうような事柄にも気づく思慮深さがあった。


 だが、今、その顔に浮かんでいる表情は、そういった印象とはかけ離れている。

 絶対に譲れないという決意のこもった、凄絶なものだ。


「私が守るべき王権とは、いったい、なんであるのか! 」


 驚いている二人に向かって、次世代の王位を担う者は言葉少なに己の考えを説明する。


「王子などと言っても、ご覧あれ!

 私は、ただの一人の人間に過ぎない!

 王権などと言っても、私だけでは、村の農夫と変わらない!

 王の力とは、仕える臣下、従う民草あってのこと!

 然るに、このコレドールの地で、今、まさに、多くの臣下を失いつつある!

 王国の力は、失われつつある!

 火の民に勝つためには、その力を失うわけにはいかぬ!

 それゆえに、私は最後まで踏みとどまり、一兵でも多くを救わねばならぬ! 」


 国王、国家元首といっても、従う者が一人もいないのであればなにもできない。

 王権の源は、臣下と、民草である。


 火の民に勝利し、王国を立て直すために。

 そのためには、ここでその力を完全に奪われることは許されない。

 できるだけ多くを救い、取り戻さなければ———。


 王子は、父親への愛情や、他の友軍に対する情けで戦うと言っているのではなかった。

 この先のことを見すえ、火の民に対して反撃することを考えているのだ。


 ここで自分が身一で逃れたところで、なにもできはしない。

 ゼロから失われた力を回復するためにいったい、どれほどの時間がかかることか。


 いや。

 そもそも、そんな時間は得られないかもしれない。


 なにしろ、このコレドールの地でソラーナ王国軍は殲滅されつつある。

 フェルナンド三世がかき集めた主力、二万五千が失われようとしているのだ。


 消滅したのは、兵力だけではない。

 ベルトラン伯爵を始めとし、参陣した多くの諸侯が討ち死にしているのに違いない。


 そんな状態から態勢を立て直すのは、国家を最初から建国するのと同じだけの手間暇をかけなければならない。

 おそらく、自身の生涯を捧げる必要があるだろう。

 兵を集めるのも大変だが、それを統率し、各地で円滑に行政を担える人材を、となると、そう簡単に見つけられるものではないからだ。


 だが、敵はそうやってこちらが力を取り戻すのを待ってはくれないはずだ。

 決戦で得た勝利を最大限に活用し、戦果を拡張するため、積極的に行動して来る。


 戦力を立て直す時間など、与えてはもらえない。

 王国は、———滅亡してしまう。


 そんな事態を回避するためには、[負け方]を考えなければならなかった。

 戦力を完全に喪失するのではなく、余力を持って敗北するのだ。

 せめて、国家を立て直すだけの時間的な猶予(ゆうよ)を得られる程度には。


 リオン王子は、この惨憺(さんたん)たる敗戦の中で、どうすれば逆転し、勝利を取り戻せるのかを考えている。


「でしたら、我らリンセ伯爵家も最後まで戦わせていただきましょう!

 殿下と共に! 」


 そのことを理解したエリアスは、そう決心していた。


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