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獅子令嬢と小指伯爵のレコンキスタ ~婚約破棄から始まる、秘密を共有した二人の再征服(レコンキスタ)~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第6章 「決戦」

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・6-13 第64話:「救援:1」

・6-13 第64話:「救援:1」


 敵によって包囲されてしまった状況から抜け出すことのできる、唯一の経路。

 コレドールの西側の山地を越えて行く、地元の者以外には知られていない小さな抜け道。


 そこは火の民の迂回軍およそ一万が通過して来た場所だった。

 本来ならば、危険なはずだ。

 敵が通ったということはつまり、その占領下にあるはずで、兵が配置されているのに違いないからだ。


 しかし、そこは安全だった。

 迂回軍は戦場に到着するとそこで[火の魔法]を用い、そのまま、総力を挙げてフェルナンド三世の親衛軍へと襲い掛かったためだ。


 戦いながらここまで移動して来たリンセ伯爵の軍勢は、わずかに休息することができていた。

 コレドールの西の端までたどり着いたために敵に四方を包囲されるという心配はなくなり、背後に退路を確保した状態で、正面の敵とだけ戦えば良いという状況になっていたからだ。


 後は、尻尾を巻いて逃げ出すだけ。


「他の味方が後退して来るまで、この退路を確保する!

 ニコラス、部隊を再編し、防衛態勢を固めて欲しい」

「はっ!

 承知いたしました! 」


 しかし、エリアスはその場に踏みとどまるように命令を下していた。


 このコレドールの戦いは、ソラーナ王国軍の敗北という結果で終わろうとしている。

 正面からは火の民の主力軍、後方からはその迂回軍によって挟撃を受け、総崩れとなり、逃げ道を失って殲滅されつつある。


 たった二千しかいないリンセ伯爵家の戦力だけでは、巻き返すことなどできはしない。

 損害を最小に抑えて再起をはかるためには、さっさと逃げ出してしまうのが一番だった。


 そうは言うものの、戦場にはまだ、逃げ惑っている友軍がいる。

 彼らを見捨てて我が身の安全だけを図ることは王に仕える臣下としては絶対にできないことであったし、エリアス個人の心情としても受け入れがたいことだった。


 それに、リオン王子やシモン伯爵を誘導するため、ミシェルに依頼して連絡を取っている最中だ。

 その結果が分かるまでは、ここで耐えなければならない。


 新たな指示を受けたリンセ伯爵家の手勢は、その場で陣形を整え直した。

 前列、後列という二段構えの形は変えずに、エリアスの中隊を中心とした半円形の配置を作ったのだ。


 西へつながる退路を背後に守る形の防御陣だ。

 いわゆる方円陣などと呼ばれるものの亜種で、部隊を半円形に配置することでどの方向から敵が来ても側面や背後をさらすことなく戦闘を行えるようにするものだ。


 この形で、敵の追撃を防ぎとめる。

 盾持ちの槍兵の戦列で火の民の突撃を受け止め、弓兵の射撃で勢いを削ぎ落し、隊列の隙間から騎士を出撃させて戦場の隙間を疾駆し、敵の側面や後背を攻撃して撃退する。

 そんな戦いをくり返し、前列の中隊が疲労して来たら後列の中隊と交代して戦い続ける。


 反撃して敵を積極的に撃破しようとは微塵(みじん)も考えていない。

 とにかく、他の味方が逃れて来るまでこの場を維持し、自分たちの身もできるだけ守ることに徹する。


 ただ、あまり長くとどまっていることはできないはずだった。

 戦い続けているから、将兵に段々と疲労の色が濃くなってきている。


 ずっと戦っているのは、敵も同じだった。

 しかし、数が大きく違う。

 リンセ伯爵家は二千の手勢でやりくりするしかないのに対し、火の民は総数で四万とも五万ともいう数を持っているから、まだ疲弊(ひへい)していない元気な部隊が次々と出現して来る。

 このままではやがてこちらの体力が尽き、敵に叩き潰されてしまう恐れがあった。


 それに、矢の数が不足し始めている。

 優勢な敵を撃退するために積極的に矢を放っているために着々と残弾が減っており、それが無くなってしまえば白兵戦だけで敵を撃退しなければいけなくなってしまう。

 寄せては退く波のように、リンセ伯爵家の防御を崩せなかった火の民が眼前から消える瞬間があるため、その隙に放った矢を回収して再利用する、という工夫も行っているが、ほどなくして弓兵も接近戦に参加しなければならない状況に陥りそうだ。


 いつまでも味方が逃れて来るのを待っていることはできない———。

 そう思いながら戦っていると、コレドールの地を埋め尽くすような勢いになりつつある火の民の間をぬって、ミシェルが戻って来た。


「ミシェル!

 よく戻ってきました! 」

「はい、リアーヌ様。

 なんとか、リオン殿下とお会いすることができました」


 白馬のネージュから降りたリアーヌに出迎えられたミシェルは、ずいぶんと煤(すす)けた格好をしている。

 敵に支配されたコレドールの地を横断するのにかなり苦労させられた様子だ。

 だが傷ひとつない、というのは、やはり彼女たち陰に生きる者ならではの[ノウハウ]というものがあるのだろう。


「ミシェル殿。

 リオン王子は、どちらに? 」

「あちらに! 」


 ミシェルがリアーヌから渡された革袋から水を飲み、呼吸を整えるのを待ってからエリアスがたずねると、東の方向が指し示される。


「手勢を率い、敵中を突破して向かって来ておられます」


 そこには確かに、ソラーナ王国の旗を掲げた一団の姿があった。

 戦場の反対側から、こちらまで。

 溢れ出て来た火の民の軍勢をかき分けるように、一丸となった部隊が向かって来ている。


 そしてその中には、リオン王子の所在を示す旗もあった。


「ニコラス騎士長!

 各中隊から騎士を集めよ!

 リオン殿下を支援するため、こちらからも打って出る! 」

「はっ!

 直ちに! 」


 今なら、あの友軍を救えるかもしれない———。

 そう考えたエリアスはこちらからも出撃して王子の軍を助けると決め、手勢の中から騎士だけを集めた臨時の精鋭部隊を編成していた。


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