↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獅子令嬢と小指伯爵のレコンキスタ ~婚約破棄から始まる、秘密を共有した二人の再征服(レコンキスタ)~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第4章 「エリアスの初陣」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/54

・4-10 第34話:「リオン王子:2」

・4-10 第34話:「リオン王子:2」


 ソラーナ王国のリオン王子。

 そのフルネームを、リオン・ドゥラスノという。

 現在の王家がドゥラスノ家であり、彼はその嫡子で、次世代の王になるという使命を背負う十九歳の青年だった。


 その外見は、あまり父親とは似ていない。

 身長は1アルティトゥードーと2ヴェスティージャと5デシマエ(約百七十六センチメートル)と高いが、身体の輪郭線が細く繊細な印象で、よく、母親に似たのだと言われている。


 洗練された金細工のような容姿をしている。

 髪は金髪、瞳はブルーグレイで、どこか物憂げな雰囲気をまとい、いつも眉根を潜め、なにかを考え込んでいる風に見える。


 父親は戦場の勇者としての威厳と風格を持っていたが、リオン王子に戦いの場は似つかわしくなかった。

 大学で多くの書籍に囲まれて研究に没頭しているか、大理石で作られた神秘的な部屋で月光を浴びながら思索にふけっている方が似合う。


 ただ、———戦機には聡い様子だった。


 彼が、先ほどエリアスたちが火の民と戦っていた方向からやって来た理由。

 それはリオン王子自身がその手勢を率いて出陣し、火の民の先鋒部隊の討ち漏らし二千余りを単独で撃破して来たからであった。


 ベルトラン伯爵が王の反対を押し切り、自ら出撃し、エリアス伯爵も王の要請でそれに従った。

 そのことを聞いた王子はソラーナ王国の先鋒軍と協力するために自らの手勢三千余りを率いて追従し、別動隊的な立場で戦っていたのだ。


 彼にとっても今回が初陣であったが、なかなか見事な指揮ぶりであったらしい。

 先にベルトランとエリアスが敵と接触し、散在していた火の民の軍勢の中央を打ち破り、右に旋回して敵を求めて進んだと斥候から知らされたリオン王子は、自らが援軍に駆けつけずとも勝利できると即座に見抜いた。

 分散した敵を順番に各個撃破して行ける状況にあると、敵状を分析して理解していたからだ。


 そこで王子は、エリアスたちをこのまま追いかけるのではなく、反対側、東側の敵を攻撃すると決めた。


 勝ちが確定している戦場に後から駆けつけても、何の手柄にもならない。

 すでに勝敗が決した戦場に遅れて到着した、「間の悪いのろまな王子」との悪名さえ得てしまうかもしれない。


 それよりも、残りの二千の敵、他と同じように小部隊に分散している敵を襲った方が良い。

 自身の手元には三千の精鋭がおり、敵は一千程度、二つに分裂しているのだから、奇襲攻撃という要素に数の利点が加わって、容易に打ち破ることができるのに違いない。


 そうして敵を撃破すれば、ベルトランやエリアスと並び立つ戦功をあげられるだけではなく、先走って行ったソラーナ王国の先鋒軍の後方の安全を確保し、悠々と引き上げることができる。


 エリアスは、戦場から野営地に帰る途中で敵と遭遇しなかったことを喜んでいたが、それは、リオン王子が片付けておいてくれたおかげであったのだ。


「いやぁ、これは、驚きましたぞ!

 さすがはフェルナンド三世陛下のご嫡子!

 実に見事な初陣でござった! 」


 そのいきさつを聞いたベルトランは、声を大にして王子の戦いぶりをめたたえ、しきりに称賛した。


 主君の子供だからとおべっかを使っているわけではなさそうだ。

 ボルカン伯爵と言えば剛勇で知られており、今回の出撃の一件からも分かる通り、時に王の意向を無視して突っ走る猪突ちょとつさを持っている。

 そんな性格の人間がお世辞を言うはずがなかったし、近くで見ていると、彼は本心から嬉しそうであった。


 それも、そのはず。

 ベルトランはマンサナ伯爵と並んでリオン王子の後見人としての役割を担っており、幼いころから知った中で、特に剣術や馬術などの武芸の師匠でもあったからだ。


 弟子が自らの頭脳で考え、こちらの都合もいいように巧妙に立ち回り、上手に敵を倒し、しかも生きて戻って来たのだから、嬉しくないわけがない。


 ———そういう訳で、その日の晩はささやかな祝宴がもよおされた。

 初戦の大勝利を祝ってのことだ。


 周辺に逃れていた村人たちが、ソラーナ王国軍の活躍によって村が無事であったことに感謝し、ワインなどを献上して来てくれた、ということもある。

 兵士たちにも少しずつだが酒が振る舞われ、あちこちで歌声や笑い声が絶えない、賑やかな夜となった。


 もしリオン王子が参戦しておらず、打ち漏らした火の民の先鋒二千と、それに加わった敗残兵たちが健在であったのなら。

 当然、復讐ふくしゅうに燃える彼らの反撃、たとえば夜襲などを警戒しなければならず、酒を飲んでなどいられない。


 火の民の姿は一時的にこの地域からは駆逐されてしまっていた。

 五千いた先鋒部隊が完全に撃破され、部隊としての体裁を保つこともできずに数少なくなった生き残りが敗走してきたことを受けて、後続していた軍勢も一時後退した、という知らせが斥候から入っている。


 侵略の危機が過ぎ去ったわけではなかった。

 火の民の主力は健在であり、ソラーナ王国の奥深くへ侵攻する意図を捨てていない。

 だが、この二、三日の安全は確保されていた。


 これは、想定していた以上の大戦果だ。

 ベルトランの狙いはまずは一勝して敵の勢いをくじき、同時に、二十年ぶりに起こった[大噴火]に不吉さを感じ、恐れを抱いている人心を立ち直らせることであったが、その目的は完全に達成されていた。


 これからどんな恐ろしい事態が起こるのだろうと、誰もが内心で不安を抱いていた。

 しかしこの初戦の勝利によって人々からその懸念は完全に払しょくされ、今回の戦争も勝利できるに違いないと自信に満ちている。


 少量ではあるものの、アルコールが入ったおかげもあるのだろう。

 上から下まで、誰もが陽気で、負傷者でさえも楽しそうに笑っていた。


 ———ただ一人。

 大きな戦果をあげたはずの、リオン王子を除いては。


(なにか、ご懸念があるのだろうか……? )


 その様子に気づいたエリアスも、他の者と同じように笑っていることができなかった。

 物憂げな王子の表情を観察していると、胸騒ぎがして仕方がなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。