116回目 ソドムとゴモラ
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカ
「神よ、あなたは正しい者を悪い者と一緒に滅ぼされると言うのですか?あの町に正しい者が五十人いるとしても、その者たちのために、町をお赦しになろうとは思わないのですか?」
旧約聖書『創世記』18章で、アブラハムが神に問いかけた言葉です。
アブラハムは、神がソドムの町を滅ぼそうとしていることを知り、神に問いかけました。
「三十人なら?」
「二十人なら?」
「十人なら?」
神はそのたびに「その人数の正しい者がいれば、町を滅ぼさない」 と答えました。
「一人なら?」
「その一人のために町を赦そう」
アブラハムは正しい者を探しに、ソドムの町へと赴きました。けれども、彼はそこで一人としてそのような者を見つけることはできなかったのでした。
あなたは言いました。
「正しい者が誰もいませんでしたので、私がその町へ行って暮らします」
神は答えます。
「いや待て。なんで“正しい者ゼロの町”に自ら突っ込んでいくんだ」
「私が行けば、正しい者が一人はいることになります。私が住めば町は救われるんですよね?」
「いや、理屈は分かるけど……あの町、朝の挨拶だけで三回は魂が削られるレベルだよ?」
「大丈夫です。私、環境には強いので」
「その町、夜中に三時間おきに住民が叫ぶんだが」
「慣れます」
「慣れるな。あとWi‑Fiもないぞ」
「……えっ」
「急に動揺するな。正義よりWi‑Fiのほうが大事なのか」
「……ちょっと考えます」
「考えろ。むしろ今まで考えてなかったのか」
「でも、私が行けば滅ぼさずに済むんですよね?」
「いや、君が行った瞬間、“正しい者が一人いるから滅ぼせませなかった”って私が言う羽目になるんだよ。完全に計画が詰む」
「……じゃあ、行かないほうがいいですか?」
「そうだ。頼むから行くな。 君の善意が一番の災害だ」
「善意が災害……。神様、それはいくらなんでも言い過ぎではないでしょうか」
「事実だから仕方ない。だいたい、なぜ君はそこまでしてあの町を救いたいんだ。あそこはもう、鍋の底に焦げ付いてカチカチになったカレーみたいな状態だぞ。洗うより鍋ごと捨てた方が早い」
「カレー……は存じませんが、ではこうしましょう。私が毎日、町の境界線の外からメガホンで『正しく生きよう!』と呼びかけます。これなら町には入っていませんし、その声を聞いて誰か一人が改心すれば……!」
「近所迷惑だ。間違いなくお前が真っ先に石を投げられる」
「石くらい避けられます。私、反復横跳びには自信がありますから」
「そういうフィジカルの話をしてるんじゃない。……いいか、お前がそこまで言うから『五十人』からわざわざ『一人』までハードルを下げてやったのに、結果ゼロというのが目に見えているんだぞ? もうどう考えても無理ゲーだろう」
「待ってください! 甥のロトがいます! 彼ならきっと……!」
「あいつか。あいつ、確かにギリギリ『正しい者』枠に入ってはいるが……町全体を救うための『たった一人』としてカウントするには、ちょっとカリスマ性が足りないというか」
「カリスマ性? 正義にフォロワー数が必要なんですか?」
「なんというか、『流されやすい』んだよ。周りが朝まで騒いでたら、ちょっと困り顔しながらも端っこでウーロン茶飲みながら混ざってるタイプだろ、あいつ」
「……否定はできません」
「だからロト一家だけは特別に、滅ぼす前に避難させる手はずになってる。私が直々に天使を派遣してな」
「なんと! では、私もその天使の救助隊に加わります! 救助の際、ついでにロトの隣人も小脇に抱えて走ります!」
「『ついで』で人をさらうな。誘拐犯になるぞ」
「正義のための誘拐です!」
「言葉が完全に矛盾してることに気付け。もういい、頼むから君は大人しく自分のテントでお茶でも飲んでてくれ。……あ、おい、どこへ行く!」
「ロトの家に引っ越しの段ボールを送らねば! ついでに町中の家のポストに『明日滅びます!引越しはお早めに!』ってポスティングしてきます!」
「やめろ! スムーズな滅びの邪魔をするな! あーもう、ミカエル! ミカエルー! こいつを物理的に押さえとけ!!」
おわり
※ゴモラはソドムの隣町で一緒に滅ぼされたらしいですね。自分ではお笑いネタが書けないので、全面的にAIさんにお手伝い頂きました。




