117回目 シュレディンガーの箱の中の蛙
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカ
蛙は箱の中で生まれ育ちました。
彼にとっては、湿った土と、跳ねれば届く天井と、囲む壁だけが世界のすべてでした。その世界を疑う必要などありません。世界とはこういうものだと、ただ受け止めていたのです。
人類もまた、地球という箱の中で生まれました。
青い空と、地平線と、夜空の星々だけが世界のすべてだと感じていたのです。宇宙という言葉を知っていても、それは手の届かない物語のようなものでした。
蛙は箱の外を知りませんでした。人類は地球の外を知りませんでした。どちらも、境界を疑うことすらできなかったのです。
ある日、蛙の箱の天井に小さな穴が開きました。その瞬間、光が差し込み、風が流れ込んできました。蛙はそこで、箱の外には別の世界が存在することを知ったのです。
ある日、人類は空を破りました。ロケットが大気圏を抜け、宇宙の闇に触れたのです。人類はそれを技術の進歩として受け入れました。
しかし、その出来事の意味は同じです。蛙は初めて箱の外を知覚しましたし、人類は初めて地球の外を知覚したのです。
蛙は思いました。世界が変化したのではなく、ただ、私が知らなかっただけだったのだ、と。
人類もまた思いました。宇宙は突然広がったのではなく、ただ、私たちがようやく触ることができただけだったのだ、と。
蛙は箱を跳び出しました。人類はまだ飛び出せていません。地球という箱の縁に手をかけたまま、外の広さを見つめているだけなのです。
蛙にとって箱は世界でした。人類にとっては地球だけが世界でした。ですが、世界は、知覚され、触れることで初めて意味を持つのです。そして知覚される前から、世界は静かにそこに在り続けていたのです。
ようやく外の世界を知覚し始めた人類ですが、いつか箱の外に何かを見つけられるのでしょうか。
蛙は外の世界で、自分が何も知らなかったことを恥じることになるかもしれません。それでも虚勢を張って、自分は何でも知っていると言い張るでしょうか。あるいは謙虚さや協調性を身に付け、いろいろな事柄を学ぼうとするのでしょうか。
人類が宇宙に旅立つときは、どのような心構えでいたらよいでしょうか。
まだ箱の縁に立つだけの私たちは、蛙と同じように、知らない世界に向かう覚悟を育てていく必要があるのかもしれません。
おわり
※井の中の猫‥‥‥‥‥‥助けてあげてください。




