106回目 脈動する時間
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカ
月曜日の朝、街はゆっくりと動き始めます。
通勤電車の窓に映る景色は、まるで深呼吸をするように、静かに、長く流れていきました。
「今日の1秒は、1.2秒だってさ」
駅前の掲示板の脇に設置されている時計と相対時計を見比べて、彼女はつぶやきました。彼女は陸上部の短距離選手で、月曜日が大好きでした。
時間が伸びる日は、足が地面を蹴るたびに、世界が少しだけ待ってくれるような気がしたからです。
放課後のグラウンド。彼女はスタートラインに立ち、深く息を吸いました。
パンッ。
スターターが手を叩くと同時に、世界がゆっくりと傾きます。走るたびに風が厚くなり、足音が遠くで反響しました。百メートルが、いつもより長く、優しく続いていく感覚がありました。
ゴールした瞬間、顧問の先生がストップウォッチを見て目を丸くしました。
「自己ベスト更新だ。月曜補正を入れても、これはすごいぞ」
彼女は照れくさそうに笑いました。ですが、胸の奥では別の感情が揺れていたのです。
(この記録は、本当に自分自身のものなのだろうか……)
週が進むにつれて、時間は縮んでいきます。
金曜日には1秒が0.8秒になり、土曜の午後には0.7秒。そして日曜の夕方、世界は最も速く脈打ちます。
その時、彼女は家のベランダで夕焼けを眺めていました。太陽が沈む速度が、まるで誰かが早送りしているかのように速く感じられます。
「……あっという間ね」
隣で洗濯物を取り込んでいた姉が言いました。
「日曜の夕方は嫌い。時間が逃げていくみたいで」
彼女は黙って頷きました。
時間が縮むと、心までせわしなくなります。走っても、勉強しても、遊んでも、すべてが指の隙間からこぼれ落ちていくようでした。
夜、彼女は布団の中で目を閉じました。
月曜日の長い1秒と、日曜日の短い1秒。その差は、ただの数字ではありません。
時間が伸びる日は、世界が自分を受け止めてくれる。時間が縮む日は、世界が先へ先へと進んでしまう。
(けれど、どちらも同じ「一週間」という呼吸の一部なのだわ)
彼女はそう思いました。「私自身も、そのリズムで生きていけばいい」と。
月曜日に記録を伸ばし、週末には焦らずに身体を休める。時間の波に逆らうのではなく、そのリズムに乗っていくのです。
翌朝、再び月曜日がやってきました。
街はゆっくりと動き出し、世界はまた長い1秒を彼女に与えてくれます。
彼女は走り出します。世界の呼吸に合わせて、自分だけのリズムを刻みながら。
おわり
※地球の自転との相関関係が気になります。




