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106/125

106回目 脈動する時間

ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。  パカ

 月曜日の朝、街はゆっくりと動き始めます。


 通勤電車の窓に映る景色は、まるで深呼吸をするように、静かに、長く流れていきました。


「今日の1秒は、1.2秒だってさ」


 駅前の掲示板の脇に設置されている時計と相対時計を見比べて、彼女はつぶやきました。彼女は陸上部の短距離選手で、月曜日が大好きでした。


 時間が伸びる日は、足が地面を蹴るたびに、世界が少しだけ待ってくれるような気がしたからです。



 放課後のグラウンド。彼女はスタートラインに立ち、深く息を吸いました。


 パンッ。


 スターターが手を叩くと同時に、世界がゆっくりと傾きます。走るたびに風が厚くなり、足音が遠くで反響しました。百メートルが、いつもより長く、優しく続いていく感覚がありました。


 ゴールした瞬間、顧問の先生がストップウォッチを見て目を丸くしました。


「自己ベスト更新だ。月曜補正を入れても、これはすごいぞ」


 彼女は照れくさそうに笑いました。ですが、胸の奥では別の感情が揺れていたのです。


(この記録は、本当に自分自身のものなのだろうか……)



 週が進むにつれて、時間は縮んでいきます。


 金曜日には1秒が0.8秒になり、土曜の午後には0.7秒。そして日曜の夕方、世界は最も速く脈打ちます。



 その時、彼女は家のベランダで夕焼けを眺めていました。太陽が沈む速度が、まるで誰かが早送りしているかのように速く感じられます。


「……あっという間ね」


 隣で洗濯物を取り込んでいた姉が言いました。


「日曜の夕方は嫌い。時間が逃げていくみたいで」


 彼女は黙って頷きました。


 時間が縮むと、心までせわしなくなります。走っても、勉強しても、遊んでも、すべてが指の隙間からこぼれ落ちていくようでした。



 夜、彼女は布団の中で目を閉じました。


 月曜日の長い1秒と、日曜日の短い1秒。その差は、ただの数字ではありません。


 時間が伸びる日は、世界が自分を受け止めてくれる。時間が縮む日は、世界が先へ先へと進んでしまう。


(けれど、どちらも同じ「一週間」という呼吸の一部なのだわ)


 彼女はそう思いました。「私自身も、そのリズムで生きていけばいい」と。


 月曜日に記録を伸ばし、週末には焦らずに身体を休める。時間の波に逆らうのではなく、そのリズムに乗っていくのです。



 翌朝、再び月曜日がやってきました。


 街はゆっくりと動き出し、世界はまた長い1秒を彼女に与えてくれます。


 彼女は走り出します。世界の呼吸に合わせて、自分だけのリズムを刻みながら。



おわり

※地球の自転との相関関係が気になります。

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