102回目 告白の前に
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカ
彼女はといえば、かなりきっちり時間を守るタイプです。それを承知の上で、約束の四十分も前に待ち合わせの場所に到着してしまうとは。
我ながらどれほど心に余裕がないのでしょう。己の小心ぶりを改めて突きつけられ、情けなさが込み上げてくるのでした。
今夜プロポーズを決めようという、張り詰めた緊張感と高揚感。そして、逃げ出したくなるような焦燥感と無力感。それらを持て余した結果、無意識のうちに足が早まってしまったのかもしれません。
街灯がぽつりぽつりと灯り始めた広場の片隅で、落ち着かないまま、僕はいつの間にか、うわ言のようにどのような言葉で切り出すべきかシミュレーションし始めていたのでした。
「俺と結婚してください……ヤバイ、『俺』なんていつもは彼女の前では使わないし、不自然極まりないよな。僕と結婚をして、って……『を』は入れるべきだろうか、抜いた方が自然かな。わからなくなってきた」
ぶつぶつ呟きながらプロポーズのシミュレーションをしている最中、思わず触れたポケットに、硬質な膨らみを感じたのでした。
心を落ち着けようと手を差し込むと、中指に指輪ケースの感触が伝わってきます。
ベルベットのような滑らかな質感と確かな重みが、自らにまもなく訪れる運命の瞬間を、現実として突きつけてきたのでした。
「僕と結婚してください。……何度考えても、結局この言葉に行き着くんだけど、どうにもシンプル過ぎるんだよな。もうちょっと気の利いた言い方ってのがないもんかなぁ。個性が足りないっていうか……ん?」
その時、背後に人の気配を感じ、彼は弾かれたように振り返りました。
「き、き、君! いつからそこにいたの!?」
そこには、どんな表情を浮かべれば正解なのかを測りかねているような、困惑と慈愛の混じった苦笑いを浮かべる彼女の姿がありました。
「一分くらい前から、かな」
彼女の優しい声が、夜の広場に静かに溶けていきました。
おわり
※サプライズを喜んでくれるタイプと、そうでないタイプが世の中にはいるのです。




