#26 ナニモノ
一行は八王子の手前の河原で飛び下りる。
「やっと目的地に着いたのかにゃ?」
一同、その声に目をやりビクッとして、やんのかステップ姿になった。
「お前、誰や?」
手を舐めながら、朝日を浴びたフワフワな毛を味わっている。
「ん-?わたしはタマだにゃ。人間にはそう呼ばれていたにゃ。あんたたちがあまりにも面白そうだったもんで、ついてきたにゃ。何か?」
「お前さん、一緒に電車に乗ってきたんか?」
「そうにゃ。暇だったから。もう新宿は飽きたにゃ。ドン・〇ホーテやヤ〇ザの事務所のおっちゃん達には悪いけど、エサだけもらって同じルートを歩いて縄張りを守って・・・。そんな毎日を過ごすのに飽きたのにゃ。」
何食わぬ顔をして、舐めた手で顔を撫でている。
「全く気付かんかった。お前さんは一匹でついてきたんか?」
「そうにゃ?それは重要かにゃ?猫なんて、自由にしてるのが当たり前にゃ。子供が生まれたらきっと違うのだろうけどー。好き勝手してるだけにゃ。迷惑だったかにゃ?」
一同、唖然としている。
誰も気づかなかった。その存在に。カレンやヨカゼ、アドカやバッチさえも。
「むむ?なんでみんな喧嘩腰にゃ?わたしのこと、嫌い?」
バッチが、いの一番に口にする。
「い、いやいや、いいや違う。こ、これは・・・おそらく分からない事への恐怖や。何故こいつの存在を察知できんかったんや・・・。」
「あはは!猫はそういうもんにゃ。」
「いいや!ちゃう!わしゃ思念を読み取る力がある。カレンやアドカさえもや!存在を察知できないわけないわい!」
「んー?んー・・・じゃあきっとその思念だかなんだかは、何もなかったんじゃないかにゃ?何も考えず、寝てただけにゃ。ドン・〇ホーテのおっちゃんからもらったスルメをたらふく食べてー幸せな気持ちでいつものルートを歩いていたら、ちょうどヤクザ事務所のあやしい男と何故か戦ってる猫たちを目にして、わたしはふるえたにゃ。おもしろい!って。なんでこいつらは、人間に逆らおうとしてるんだろう?って。ただそれだけの事にゃ。たぶん。」
タマは、「んー!」と、全身を蹴伸びして、気持ちよさそうに、それはそれはでかいあくびをした。
三毛のミッケにそっくりな、三毛猫の鮮明な姿を、朝日が照らす。
佐吉は愕然とした。今までこんなことは無かった。
「お前さん、・・・心を無にできるんかえ?そんなこと、お釈迦にもむりだったことやで。」
「おしゃかさま?なんにゃそれ。人間のこと?人間は考えすぎにゃ。考えるから面倒な気持ちになるだけなのに、なんでいちいち考えちゃうのにゃーーーーーーーはああーーーーー!!」
タマはもう一発、でかいあくびをかました。そして、砂のある草むらに朝一小便をして、砂をかきかきした。
「あっはっはっは!気に入ったわい!タマとやら!あの恐ろしい人間との殺し合いを目にして、面白いときたか!」
「うん、おもしろかったわい!にゃ!あはは!」
佐吉とタマは、じっくり上る朝日の下で、高らかに笑った。
そんな中、他の一同は恐怖した。まさか、あの星の一味ではないかと。
「安心せえ!こいつは猫や。まぎれもなく猫!それはそれは純真無垢な、正真正銘の猫や!」
ぐうううううううう!
とてつもない空腹音がこだまする。
「はあ、やっぱりスルメはたらふく食べても、腹持ちがわるいにゃ。。。昨日、カリカリとかウェットフードの廃棄があったらにゃー・・・でもあの味にも飽きてたにゃ。もしあれが出てきてもきっとまたこのにおいか・・・としか思わず、口にできなかったにゃ・・・だから、新しい食と冒険を堪能したくて、つい、ついてきちゃったにゃ。でも、迷惑だったら去るにゃ。」
次第に一同のやんのかステップが解けてゆく。こいつはただの馬鹿だ。何も考えていないだけの。
なんだか、空のアレを見ながら四の五の考えているのが馬鹿らしくなってきた。
ふふっと笑いながら、ヨカゼが近寄ってくる。
「そうだね。考えすぎだね。でもね、死ぬのは嫌だろう?」
タマのそばに近寄り、優しくくっついてくるヨカゼの温もりを感じたタマは、ビクっとした。
「や、やめろにゃ!なにするにゃ!」
母の温もりを鮮明に思い出す。しかし冬の冷たい雨の中、母は自分を抱えながら、だんだんと冷たくなっていったことも同時に思い出す。
思念がヨカゼに伝わってくる。
「安心しな。辛かったね。私はちょっとやそっとじゃ死にはしないよ。あとね、あんたの母猫はきっと、冷たくなりながら死んでしまったけど、今も、あんたを見守って、願ってる。幸せな猫生を歩んでほしいって。」
ヨカゼはタマの背後の、母猫を見ながら、微笑んだ。
逆にタマはたまらず、泣いてしまった。
「うっうう・・・おかあさん・・・なんで置いて行ったにゃ・・・!わからないにゃ・・・!一匹で、辛くて辛くてたまらなかったにゃ・・・!死んでしまった?死って、なあに?わからない!」
「それはね、肉体が滅ぶってこと。でも、魂は、まだ生きているよ。お母さんの為にも、強く生きなさい。私たちはね、この空の上にいる、宇宙人と戦おうとしているの。分からないと思うけど。」
「せや。まだ純粋なタマ。まだ何も知らないタマ。余計なことを考えることを止めたタマ。実に猫らしい。わしゃ、佐吉ちゅーねん。ほんで、あったかいそれは、ヨカゼちゅーねん。なんで考えるのかちゅーと、そら、ワシらがきっと人間の生まれ変わりやからやな。」
「生まれ変わり?にゃんにゃそれ。」
やさしい、朝日に染まる黄色い佐吉のその目で真っすぐな視線に、タマは落ち着きを取り戻す。
きっとタマよりもまだまだ子供の末っ子ワミコもヨカゼの腹の中に納まる。
「ねえ、タマさん。あたい、タマさんのことねーちゃんって、呼んでいい?似てると思うの。あたしたち。できれば、なーんも考えたくない。こうやって、かーちゃんの温もりを感じながら、難しいことを考えずに、幸せなひと時を感じたいって、そう思わない?」
ぬくぬくと温まるワミコのうつろな目をみて、タマも次第にゴロゴロと喉を鳴らしながら、目がうつろになる。
「はあ、何年振りにゃ。こんなに落ち着いたのは。やっぱりついてきてよかったにゃ。迷惑かもしれないけど、ちょっとだけ、お邪魔するにゃ。無理にゃ。うごけにゃい。」
次第に子供たち全員が、疲れをいやしに、ゴロゴロと、よたよたと、ヨカゼの方へくっつきに行く。
ああ、なんて幸せなんだろう。暖かくて、心地よくて、わたしもこの家族の一員になれたらなあ。
タマは久しぶりに、ひと時の癒しの時間を堪能したのだった。
うつろうつろしだした30分後くらいだろうか。
ごごごごご・・・
遠くで、轟音が鳴り響く。
UFOの中心の方だ。細かい光の線が、雨のように降り注いでいる。
!!!
一同、響き渡る振動と音に気付いて、むくっと立ち上がる。
「や、やりよった・・・!!奴ら、新宿を・・・!」
すぐに、そこから煙が立ち上る。
タロも目覚めた。
「なにが・・・あった・・・?」
「とーちゃん!!!」
ごんっ!!!!!
真っ先にワミコが強烈な頭突きを父にかますも、跳ね返ったのはワミコの方。
「痛ったーーー!!!」
「おい、何が起きたんだ?」
「お前を貫いたあの光の線で、し、新宿が、崩壊しちょる!!」
新宿?!
タマが悲鳴を上げる。
「い、いやああ・・・うわああああ!ドン・〇ホーテが!ヤ〇ザの事務所が・・・!!優しいおっちゃん達があああ!!!こんなの・・・!なんでにゃ?!なんなのあの光!!!!やだ!嫌にゃ!!何が起きてるにゃ?!」
何も知らないタマの鳴き声が、八王子手前の、シンと静まり返る朝の、浅川の河原に鳴り響く。




