#24 コウソウ
「昨夜未明、新宿3丁目の雑居ビルの屋上で爆発音のようなが音が頻発するといった騒ぎがあり、暴力団組員と思われる40歳男性の1名の遺体がその場で発見されました。警視庁の調べによりますと、現在暴力団組員同士の抗争である可能性が高く、何らかの爆薬を使用したものとして、捜査が進められています。関係筋によりますとーーーー」
「はぁ、警部。やっと来てくれた。一応調べたところ、一番おかしな点なんですが・・・どこかわかりますか?」
「シュポッ・・・フ―。。。」
警部は煙草に火をつけるとそのまま、辺りをキョロキョロと険しい顔つきで見渡す。
「爆発跡が無いんです。ほら、普通火薬がさく裂すると普通、焦げた跡が放射状に残るじゃないですか。でも、不思議なことにどこにも無いんです。犯人が綺麗に洗浄した、というのも考えずらい。聞き込みだとなんども爆発音がしたという証言が絶えないんですがねぇ・・・。確かに小さな陥没と細い穴とひび割れはいくつかあって、よくわからない細い穴のとこにある血液なんですが・・・。
あと、あの上の看板裏の血痕と、この男の血痕は一致していました。他にもちらほら血痕が散らばってますが、そっちは現在鑑識が調査してます。これはなにか、火薬を使ったのではなくて重機みたいなものを使ったんじゃないですかね?この小さな亀裂はその重機の足の跡で・・・って、警部聞いてます?警部ははどう見ますこれ?」
「フー・・・。
うーん・・・ 彦根の件といいこの件といい昨晩からなーんかおかしいからな。あそこで見つかった黒い塊は特殊な合金でできていて、地球上に存在する素材ではないらしいんだ。そして驚いたことに、電気を通すと透明化する。」
「えっ!そんなこと言ったら何でもありになっちゃうじゃないですか!」
まいったな・・・
そんな顔をする警部。
「・・・あ!宇宙人の仕業とか?俺そういうオカルトっぽいの好きなんだよ(笑)」
「警部・・・。いっつもそうですよね、おちゃらけて誤魔化すというか。現場じゃすぐそうやってたばこ吸って。鑑識に何度も怒られてるのに。やる気っちゅーもんがないんですか!」
「ふんっ。いいんだよ、俺は偉いから。フー・・・」
朝のニュースが流れるように、まだ薄暗い朝にプカプカと、警部のタバコの煙が舞う。
ーーーー。
「ふ、ふは・・!!ゼゼ、ゼニス・・・?!そ、そうか・・・きさま・・・カカ、か家畜に寝返るととは・・・。何故?ここここ、後悔するぞ・・・ここここ、この体はもうダメだが、かっ、かか、代えは、いく、いくらでもあるのだ・・・。ここここ、この精神が、お、脅かされない限り、私は無敵だ・・・・!!ぶはぁ!」
その場でエロヒムの精神は体から抜け出して上空へ消え、肉体は絶え、人の肉の塊に戻ったそれは力なく倒れこんだ。
「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ・・・」
「怖いながらも、とおーりゃんせーとおりゃんせー・・・おや、終わったんかい。」
「ああ。その歌を歌いきる前にな。」
「ほうか。やつぁ、この歌の意味も分かってないやろから、きっとしょーもない代えの何かだか連れて仕返しに来るで。惑星だかなんだかのよお。ふう。帰ってマタタビでもやろーや。」
タロは空の遠くを眺めながら、その時がもう少し、子供たちが成長するあと2,3年後にならないかと願った。
その顔をみた佐吉がさらに声を掛ける。
「なあ、わしゃあな、ゆいはんとハチロク親分のおかげで未来が見えちょる。安心せえ。この運命の線は綺麗に一本や。家族の事を考えてんねやろ?だーっはっはっは!」
ピカッ!ヒュン・・・
「ああ。こいつらを守・・・」
その時、空から雷とは違う、一瞬見えた糸のような、光の雨のような、一閃の光がエジプト座りのタロの耳の、付け根と肩から下を突き刺した。
「ぐはぁ・・・!!!!」
その声に、一同が慌てふためく。
「あんた!!!!」
「おい!タロ!」
「に、げろ・・・だめだ・・・て、手に負えないかもしれん・・・ぐふぅっ」
口から溢れる血。
肺を貫いているようだ。
佐吉とヨカゼのひげが光りだす。
開く瞳孔に映る目線の先は空だ。夜だが、視界があの霊の舞う白銀の世界と化す。
人の霊も鳥の霊も、あらゆる宙を漂う霊達が、慌てふためいている。
「なんだ、これは・・・奴らは既にこの星に・・・?これは一体・・・」
透明なもやのような、空全体が何かに覆われているようだった。先ほどは無かった。
ヨカゼはまだ、状況を理解できていない。
「こりゃ・・・乗りもんや。ルミネスの乗っていた円盤よりも何百倍も大きな・・・・」
超巨大な未確認飛行物体。少なくとも半径5キロはあるだろう。
新宿の多くの建物で地平は見えないが、ざっとこの雑居ビルから地平までの距離は5キロ程度だ。
その空をすべて覆いつくしている。
「・・・惑星オラムの住人は、はあはあ・・・さらにその住人の上に立つ者は・・・んぐっ・・・はあはあ・・・皆、あ、あんな奴らばかり・・・だ・・・る、る、ルミネスは、はあ、はあ」
「あんた!しゃべるんじゃないよ!ラレン!おいで!治療だよ!」
「は、はい!母上!」
ラレンの周囲から、何やら異様な機器が湧き出でる。
ううぃーーーー・・・うぃいんうぃん・・・
じゅうう・・・
心臓に近い皮のあたりの毛を焼いて取り除く。
赤く回る円盤は光る刃のようなものに変わり、精密な動きで心臓あたりの皮膚を切り開く。
「ビームメスで開けました。血がすぐに出てくるであります。
リュウ殿!!!ジム殿たちに止血をお願いできませぬか・・・!」
「ああ、分かってる。」
「ぐぎいいああああ!!!」
タロが悲痛に叫ぶ。声を絶え絶えにも、周知しようとする。
「わ、あああ、はあ、はあ、・・・わ、惑星オラムの技術は、はあ、はあ、想像を超えている・・・。ま、まだ知らないんだ。はあ、は、ヨカゼよ。・・・こ、子供たちはまだ・・・成長過程だ。」
分かっている、しゃべるな。とヨカゼは伝わる相槌を打つ。
蚤の霊達がタロの体を覆いつくす。
「・・・・warera mo iru tedasuke siteyarou omaera niha nai gizyutu de(我らも居る。手助けしてやろう。お前らに無い技術で。こいつの言うとおりだ。惑星オラムには人知を超えた技術がある。」
「おお、ルミネスの霊かいな。頼む!お前らの技術とやらでこいつを直したって!」
「omaetati niha wakusei oram izyouno mirai wo kanzita(お前たちには惑星オラム以上の未来を感じた。不思議なものだ。何十万年と仕えてきた星よりも、希望を見出せるとは。)」
ルミネスたちが蚤たちに重なり、まばゆい光を放つ。
「おお、これは、なんと。」
「daga kono gizyutsu ha hukanzen da(だがこの技術だけでは不完全だ。何らかの後遺症を残すかもしれない。)」
「それでもええよ。そう簡単に死なんやろ。こいつぁそんな軟やない。」
「syouchi sita(承知した。)」
物凄い速さで、しかし力強いが雑居ビルの下の道行く人には分からない程度の、光を放つ。霊なのに。その光景をワミコが凝視する。
「とーちゃん。宇宙ってなんなのさ・・・?もっと、教えてよ・・・!」
ふっ、と、タロが笑った気がしたと思ったら、そのまま意識を失った。
光はタロの心臓も貫いていた。ちょうど、つまようじほどの穴が右心房の上下にあった。
右脳も貫いている。さすがに脳の治療までは出来ない。止血が精いっぱいだった。
その他に肺と肝臓、膀胱を貫いて、右足のかかと辺りを負傷。しばらくは動けないだろう。
夜が明ける前に、一行は中央線に乗って、新宿を発った。
巨体のタロはそれに次ぐ巨体のマシンが、ヒョイっと父のうなじにかじりつき、反動で背中に乗せ、ビルからビルへ一同もひょいひょいと飛び移りながら、ほど近い大ガードの線路上へ運んだ。
タロはいまだに意識はない。
タロがここまで傷つくとはなぁ・・・筋肉バカのくせしてから、ほんま。
そして空を覆う、憎き船体をに目をやる。
ワイらが資源・・・?家畜やて・・・?笑わせる。
「これも運命なのかのぉ?ざっくりとした未来しか見えへんねん、わしゃ。でも結はん。ワシャ信じとんで。オモロイ猫生が待っちょるちゅーことをな。」
「ええ。」
結はそれだけ口にしてそれ以上は何も口にしなかった。
何も誰にも声が届かないのに、佐吉はしゃべり続ける。
「全身全霊で、わいの周りの奴らだけは守ると決めとるんがよ、ところでおんのかいね?神っちゅーのは。ホンマに。」
空を仰ぎながら。
一行は中央線の上で、元気な父の姿が目の前に再び現れることを、切に祈っていた。
その祈りに包まれた中で、タロは夢を見ていた。
オラムでの、遠い昔の夢。
幼少期、オラムに住んでいたゼニスの記憶。
ーーーー。
「母さん!俺、やりたいことが出来たよ!」
「ゼニス。どうしたの?そんなに慌てて。」
日課の医療・美容ポッドから出てくる母だ。ちょうど二十歳くらいの容姿を保ち続けている。
「俺、、、寿命について研究しようと思うんだ。」
「寿命?そんなの安全に生きていれば大丈夫よ。だってほら。畑があるでしょう?」
「でも、その畑の1つ1つにも、心や理性や知性があって、反乱する可能性だってあるでしょ?」
「馬鹿ね。タンパク質よ。ただのタンパク質。貴方も美味しいお肉を食べるでしょ?それと一緒。安心なさい。ここに居れば何でも手に入る。」
「例えば、この星に、未知の技術で他の星から戦争を仕掛けられたとしたら?死んでしまう可能性がないわけじゃないでしょ?」
「この星ほど、発展している星は無いわ(笑)どこにあるって言うの?そんな星。」
「それは分からないけど・・・・ でも遠い宇宙のどこかの星で、この星よりも何億倍も何兆倍も早く時間が経つ星もないわけでもないじゃない。この星の技術が漏れて、その畑の生命がそれらを理解して発展させたなら。もはや今この時すら、オラムの技術を凌駕する技術が培われていてもおかしくないよね?」
「まーた、変な事言って。・・・あー!さてはまたオネイロイ系の思考を覗いたなー・・・?」
オネイロイはありもしない未来を夢見た人として有名だ。
この人は遠い昔に地球に目を付け、自分の夢を実現するために、自分の承認欲求を満たすためにエロヒムを地球に向かわせ、その星に住む生物の繁栄と監視を行わせていた。オネイロイは「地球」そのものを悪の象徴として話を描いた上流階級だ。歴史の教科書にその名を刻んでいる。
彼の話によると、『かの地は時間の流れが違い、かの地の技術は我らの想像を凌駕する。いつか災いをもたらすであろう。』というのだ。
世界中に不安を煽った彼は、そんな本をオラムに蔓延させ、そして非難され、何十もの罪刑を受け、結局、処刑された。
俺はそんな彼が荒唐無稽なことを言っているとは思えなかった。
確かに筋は通っている。ひとたびオラムから離れれば、重力によって、時間の流れは速くなっていたり遅くなっていたりしても、おかしく無いからだ。
「そう。参考にしたのはオネイロイの話だよ。」
「じゃあその、オラムより時の流れが早い星の生物が本当に存在するとして、果たして彼らはこのオラムに来ようとするかしら?文明初期ならおそらく、他星人がいるなら接触したいと思う者もいるでしょうが、そんな生物はまだまだ知性が足りてない。来れるかどうかも怪しいでしょう。
他星への干渉は、ある程度知性や理性がある生物からは、一般的に行われないでしょうね。これは、どの星の生物にも該当するのよ。これは真理の一つ。」
「何故、行われないの?」
「その理由は、遺伝子という設計がそもそも、存続が危ぶまれた際にそれを『恐怖』として機能するように、植え付けられているからよ。多くの星の生物は、『他星人はいるのか?接触できるのか?』と、考えを巡らせているの。
『他星人は存在し、すでに自星に接触しているけど、一般認知されていないという仮定』
『他星人は存在し、過去に自星に接触していたという仮定』
『他星人は存在し、何らかの理由で地球に接触しないと仮定』
『他星人は存在し、何らかの理由で自星人を認知しておらず、接触しないと判断していると仮定』
『他星人は存在し、技術的な制限により自星に接触できていないと仮定』
・・・と、ちょっと知性が芽生えた星の生物は様々考えるけど、結局のところその星人がどういった存在か、どう干渉することでどう行動するのか。
それらが明確に分からないので、自星の生命がそれらを危ういと、恐怖から、どの星の生物も、ある程度知性を持つと干渉しないようにふるまう。これが一般論よ。
恐怖が先行し、宇宙には自星以外に生命体が存在しないと決め込むのもいるけどね。
その可能性も、他星人を確実な情報として確認できなければ、ぬぐえないわ。」
「では、他星人の存在と、この星の存在について、エロヒム様を経由して知り、それをも理解した地球人がある程度の知性と理性が培われた存在になっていたとしたら、疑問は解消され、攻め込まれる可能性もあるのではないですか?」




