6ー5 山の掟
6ー5 山の掟
「なんだって?」
翌朝、朝食の時に俺が山の民に会いたいと伝えたらアイダさんが驚愕していた。
アイダさんは、口にしていたクムカの煮汁でむせるとしばらく咳き込んでいた。
ちなみにクムカの煮汁というのは、この辺りで飲まれているクムカの木の実を煮込んだ汁で前世のコーヒーとよく似ている。
俺は、甘党なので苦手だがミルクや砂糖を入れたら美味しいのではないかと思う。
クムカの煮汁は、山の民の飲む気付け薬のようなものらしいのだが、この宿屋のように山の民も使っているような店では扱っているのだとか。
俺は、アイダさんが落ち着くのを待っていた。
アイダさんは、激しく咳き込んでいたがやがて1、2度深呼吸をしてから俺をじっと見つめた。
「山の民に関わろうとしない方がいい。あいつらは、排他的で俺たち外の人間を信用しない」
「そうなのか?」
俺は、ちらっとルーア君とライザを見た。
2人ともうつ向いて無言で朝食の穀物粥をスプーンでつついている。
「俺は、もう、山に戻れなくてもかまわない」
ルーア君が口を開いた。
「姉ちゃんは、返してやりたいけど俺は、かまわない」
「でも!」
俺は、自分と対して年も変わらないだろう幼いルーア君の決意に驚いていた。
「もう、両親にだって会えなくなるんだぞ?」
「俺たちの父ちゃん母ちゃんは、俺がまだガキの頃に死んじまった。俺の家族は、姉ちゃんだけだ」
ルーア君の言葉にライザが弾かれたように応じる。
「なら、あたしも!ルーアが戻らないならあたしも山には戻らない!」
「姉ちゃんには、コーザがいるじゃねぇか」
ルーア君に言われてライザが少し頬を赤らめる。
「それは……」
「許嫁のコーザが待ってる。姉ちゃんは、山に戻れ」
「でも!」
ライザが頭を振った。
「もう、コーザは、あたしのことなんて受け入れてはくれないかもしれない。だって、あたしは、人買いに拐われた女だ」
そう言うとライザはうつむく。
「たとえ無理矢理連れていかれただけとはいえ、一度山を離れた身だ。もう、受け入れてはもらえまい」




