5ー10 記憶
5ー10 記憶
アイダさんの悲しみが俺の中にあふれ出す。
俺たちは、過去を共有していた。
当時、ライズの町で商人をしていたアイダさん一家。
決して裕福ではなかったが幸せだった。
それがすべて失われたのは、12年前の冬だった。
ライズの町で『ローム病』が流行ったとき、町の人々は、山の民を疑った。
ライズの町は、山の民との取引もしており、アイダさんの一家も山の民との付き合いがあった。
しかし。
疑心暗鬼にさいなまれた人々は、山の民を狩り始めた。
そんなときのことだ。
町で暮らしていた山の民の親子をアイダさんの両親がかくまっていたことがわかった。
抵抗虚しく山の民の親子は、連れていかれて。
その時、両親と弟は、すでに『ローム病』に罹患していた。
アイダさんは、町の人々に助けを求めた。
しかし。
山の民をかくまっていた家族を町の人々は、助けようとはしなかった。
涙が。
溢れて。
いつしか俺は、嗚咽していた。
それは、誰かの鳴き声と重なって。
低い鳴き声は、アイダさんのものだった。
「……アイダさん……」
俺は、アイダさんの肩にそっと触れた。
びくん、とアイダさんが体を強ばらせる。
どうすればいい?
俺は、涙を拭きながら考えた。
この人の悲しみは、深い。
どうすれば癒せる?
俺は。
小さな子供の体で精一杯、アイダさんを抱き締める。
「辛かったね、苦しかったね」
俺は、アイダさんを抱き締めたまま囁いた。
ほとんど泣いている子供がしがみついている感じだったけど、俺は、必死だった。
どうにかしてアイダさんの心を癒したい。
「でも……もう、過去は変えられない。不幸を繰り返さないことしか俺たちにはできないんだ」
「クロウズ君……」
アイダさんが俺を抱き締めて涙を流した。
「わかっているんだ、俺にも山の民が悪い訳じゃないってことは、わかっている。でも……」
俺は、アイダさんの心に触れた。
冷たく刺々しい記憶。
俺は、それはそのままでアイダさんの記憶の中から楽しかった記憶を掘り出していった。
山の民の親子。
その子供と仲良く遊んだ記憶。
(どうか……憎しみの連鎖に囚われないで)




