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第6話 居場所は脆くも

ーーーーーーーーーーーーーーーー




少年との交流に失敗した俺は、馬車で暇を潰す手段を失ったが目的地へは直ぐに到着したためあまり問題にはならなかった。


担がれて、運ばれて、下ろされて。

今俺を見下ろすのは恰幅の良い中年男性。

あつらえの良い服や、金に輝く腕輪を身に付けた姿からは彼が持つ財がこれでもかと強調されている。



彼の背後には灯りがあり、暗い室内では顔がよく見えない。

雰囲気は正に悪い金持ちのそれだ。



部屋は広く、何人かの護衛と...あの少年もいた。



連れ去りの原因は分かっている。

それしか身に覚えが無いからな。




「単刀直入に聞く。これの製法が欲しい」




そう言って凄むのはあのおっさん。仮称成金と呼ぼうか。実際成金かは知らないが。



手に持つのは丸いフラスコ。ゲームで生成する薬系アイテムの入れ物だ。

やはりか。そうは言っても口は猿轡をされている。




何も言えないけどね。




「ぶっ」





首を傾げていると視界が思い切りブレた。

体ごと転がった事でやっと理解する。

顔を蹴り上げられたのだ。




「いきなりの提案だ。気持ちの整理がつかないだろう。存分に考えると良い」




(ああ〜そういう感じね)




取り敢えずボコるからやめて欲しかったら情報吐いてねと。

やはり製法が目当て...と言っても俺のアイテム製法はゲームのシステム依存である。

教えたところで他の人には作れない。




どう言ったものかと考える暇もなく、直ぐ数人で囲まれ袋叩きが始まった。




見知った顔だ。この街の来てから俺に返り討ちにされた奴ばっかり。

拳にも熱が入っている様だが、やはり大したダメージにはならない。ただ視界は動いて慌ただしい。



成金は見ているだけ。

その側には、俺の周りにいる奴とは比べものにならない雰囲気の護衛2人とあの少年。



ドアは後方だ。抜けるだけならそこが手薄だろう。

全員殺した方が早い場合もあるが、立場がある人間相手だと面倒臭いことになりがちだ。



ただ対等に交渉せず、まず暴力からとはちょっといただけない。

情報を取れるだけ取ったら思い知らせてやりたいところ。



その場合問題はあの少年の拘束技だ。

正攻法なら大概負けるとは思っていないが、あの技で動けなくなればあっさりとやられてしまう可能性がある。


発動条件は正確に把握していないが、アレに捕まったらそこまで。殺されなくても、他の奴には逃げられるだろう。




「どうかね。話す気にはなったかな」




その後も暫く殴られていたが、唐突に声をかけられた。

今度は丁寧にも髪の毛を掴んで顔を上げてくれている。見上げる労力が必要ない点だけは有り難かった。



「あー製法知りたいんやったら教えてもええけど、目的聞かしてくれんとなぁ。俺は自分の命より納得を大事にする人間なんで」




「ほう。骨があるな。なら話したくなるまで...」



「ああならええけど、これ俺にしか作れんねよね。そうは見えんと思うけど俺固有の能力持ちでさ。やる気になるような話なら頑張ろうかと思ったのになぁ〜残念残念」



「...」



めんどくさそうに顔を歪めた後、何か隣の護衛に耳打ち。

少し話した後にまたこちらに向き直った。



「ふん。知りたいなら話してやるとも。事は1ヶ月前の王都。王族の娘が1人長い間床に伏せっておってな。元々体が弱く家族は国中の薬をかき集めていた。そう、片田舎の...得体の知れない流れ者の薬すら集める徹底ぶりでな...」



チラリと俺を見やる。

いや見られてもそんな大口契約取った記憶は無いが。誰かが勝手に買って行ったのだろう。



「私も随分稼がせてもらったが、1ヶ月前遂に熱が下がらなくなりおってな。もはや保たんかと思ったが、これが意外にも持ち返しおったのだ。その娘に言わせれば、この容器に入っていた薬を飲んだ途端体が楽になったらしい」



コンコンとフラスコを叩く成金。

あいにくどの薬も入れ物のフラスコは同じだ。

これは予想だが、状態異常回復の薬だろう。



風邪を引いた時に自分で使った事があった。

その経験から病気にも効くことは知っていたが、そのような末期的な症状にも効くとは知らなかったな。

俺の店から持って行った薬がそんなところまで届いたのか。



店は開店してまだ2ヶ月ほど。

薬が使用されたのが1カ月前の出来事だとすれば、開店後直ぐに購入されていないと説明が付かない。輸送にも時間がかかる筈だからだ。



大した情報収集能力である。

目をつけるのが本当に早い。



「私は商人ではあるが、この辺りの薬師ギルドのトップも兼任していてね。それでも突き止めるのには手間がかかったぞ。これを作ったのは、どこにも所属していない流れ者だとな」




声が大きくなる。

興奮して来たみたいだな。




「困るのだよ。作れるのが君だと。ついに解決策を見つけた両親は大層喜んで、この薬をとんでもない金額で定期的に買い取って下さるそうだ。その金額は、残念ながら君の命より重い。君が好きに出来るには重すぎる金額なのだよ。この薬の作成難易度についてはこちらの研究部門に任せる。君に決められるのはそれを話すか話さないかだけだ」



(この口ぶりだと、俺だけが作れるって所は信じて無いらしいな。まぁお薬である以上材料と配合が分かれば大体の製法に心当たりがつくやろし...それが異世界技術でさえなければ合ってるんやけどな)



成金の後ろから護衛の1人が何か持って来た。

その形状に背筋がぞわりと震える。




(うわ爪剥ぐやつやん。わざわざ器具持ってくるってことは初めてじゃないな?)




「さぁ思う存分やってやれ」



「へへ、準備がいいや」




全員が嬉々として俺の指を嵌めようとする。ため息を吐いて床を舐めていたが、いきなり静かになった。




「あら」




見上げるその時まで、彼らの体は繋がったままだった。

遅れて崩れ落ちる体と、飛び散る血潮。

彼らの体は例外なく斜め一直線に切り裂かれ、切断された断面からは様々な臓器と糞が垂れ流されている。



俺は寝かされていたので当たっていないが、周りの奴は一目見て全員死んでいると分かった。

音も無い斬撃、見事なお手前だ。




「ガハッ!」



ドゴっと何かが壁にぶつかる物音。

見るにもう1人が棒状の武器で少年を吹き飛ばしたらしい。



少年は壁にめり込んでおりどんな威力だったかよくわかる。大層効いた様子でそのままズルズルと座り込んだ。




「ひ...どいなぁ...ぼく....は....」




口から出血してるが、その血を見ながら一言ひどいなと。

とりあえず生きてはいるらしい。




「この話が広まると困るのでね。君が聞かなければ彼らも死なずに済んだのだが」



そう言って少年を一瞥。



「殺せ」



「待った!」



すんでのところで槍が止まる。

危ない。もう少しで顔が串刺しだった。俺の幸運か、あの子の悪運か。

あのゴロつき達はともかくさっきダチになろうとまで言った少年が目の前で死ぬと目覚めが悪い。



「いや味方ちゃうの」



「誰が黒髪など本気で雇うものか。不吉の黒髪にさえ生まれなければ、有能さに免じて生かしてやっても良かったがね」



黒髪か。少年も言っていたし、俺もこの歳まで生きてきたから知らないわけではない。この世界では黒髪は不吉の象徴とされていて嫌われるらしいと。

だが、それだけで死ぬ理由になるのはちょっと不憫すぎる。





(かぁー村のこと思い出すわ。あー嫌な気分。そもそも子供には優しくしろよな)





「見て分からん?子供やでまだ。良心とか痛んだりしませんか?」



「君も変わらない年頃に見えるがね。心意気は殊勝なことだが...ふむ。まぁ余興としては面白いか」



やや声色が上向いている。

興味なのか本気でこれが好きなのか...



「なら爪を全て差し出したまえ。小僧の命に比べれば安いものだろう?製法はその後ゆっくり聞くとしよう」



(えぇ...さすがに痛そう。でもこの距離じゃあ助けるって難しいし...)



「...どうぞ」



「はは、面白い!黒髪風情にそこまでするとは。良かったな黒髪の。このような者は滅多におらぬぞ」



器具を運んだ護衛は、もう必要ないとばかりに手の拘束を外す。

俺はため息を吐きながら自ら手を差し入れて器具にセットした。



爪の間にものが入って、それだけでそこそこの不快感がある。

器具は鈍く灯りの炎を受けており、固定する革部分の痛みは過去の使用者の名残だろうか。



後は誰かが取っ手を思い切り押すだけで…




「え?」




そう思っていたら、振り上げられたのは手ではなく足だった。



(あーなるほど地面に器具ある時点で想像しとくべきやったか。南無三...)




手足が縛られて無ければ天を仰ぎジーザスとでも呟いていたであろう気分だ。

当たり前だが、俺が心配だからってこの足は止まったりしない。





....もちろん、心配なのは俺の指では無いが。





バチィン!!!




「オボッ!?」




(かかった!)




足を器具に叩きつけた瞬間、重力に逆らう様に眼前の男が真上に弾き飛ばされる。



(器具触るの足じゃ無く手ならもっと痛くない方法があったんやけどな。残念)



使用したのは発動タイミングを攻撃に合わせる事でカウンターを発動するスキル。盾弾きだ。

器具へセットした左手の上に小盾を出した。

器具の取っ手を蹴り入れた瞬間取り出した小盾をそのまま踏んでジャストガード。カウンターダメージで吹き飛んだというわけだ。




「テレポート!」




すぐさま少年の方へ魔法を発動し移動。

移動する場所の確認は倒れていた段階で念入りにしておいた。ドンピシャ。魔法での座標移動の為拘束も外れ、少年と槍使いの間に入り込んだ。

狙い通り。だが...



(!?)



呆気に取られて動かないのかと思ったが、護衛の槍使いは目の前に現れたこちらをしっかり見据え、微動だにせず槍も少年に構えられたままだ。



(味方からあの音して全く無視!?マジかよ。いや使いたくなかったが...!)




こうなると仕方ない。少年を助けるためだ。




(脚撃!)




瞬間俺の体は自動的に上段の蹴りを放ち、周囲の音を置き去りにした。

脚撃は近接戦魔法使い...対人向けジョブのスタン技だ。

相手の動きを止めることを目的とし、短い射程とそこそこのクールタイムを代償に全てのスキルの中でも最速クラスの発生速度と基礎値で100%という脅威のスタン確率を持つ。



これを使いたくなかった理由は2つある。

脚撃はビタ詰めされた時に敵の足を止めて状況を仕切り直せる切り札の立ち位置。クールタイムがある関係上おいそれと使いたくなかった。

もう一つは....




(...やっぱりか。ああやってもた...)




一拍遅れての破裂音。

蹴りを終えて一回転男に向き直ると、予想通りの光景が広がっていた。



蹴りは男の下顎に命中。

その結果...男からは、下顎が消えていた。



脚撃は名前の通りの物理属性と、雷属性のオマケが付いている混合攻撃だ。

対人向けジョブのため物魔どちらかの対策がされてもある程度ダメージが通る様に設計されている。



スタンも強いがそれはオマケだと言わんばかりにダメージ倍率も高い。

これまで遊びで使っていたアイテム屋の投げ、なんてスキルと違いこっちは<ガチスキル>なのだ。




そんな攻撃を元々想定されていたプレイヤー...各装備でガチガチに固めた存在ならまだしも、何の魔術、物理対策をしていないこの世界の人間に当てればどうなるかと。答えはそのまま目の前にある。

これでも半歩下がり顔面直撃コースは避けたがこの通り。スキルの殺意が高すぎるのだ。





(下顎飛ばされてまだ倒れんか。死ぬぞお前...)




動かないということはスタンは通っている証だ。

手心を加えたいが、槍先が少年にある以上躊躇えばそちらが危険に晒される。スタンしている今のうちに追撃が必要だ。


左手の小盾を木製のスタッフに取り替え、スキルを発動。

杖の先に炎の魔力を圧縮した球体が現れる。



「爆げ....ん?」



その球体を手に取り、そのまま構えようとしたところで違和感に気付く。目がこちらを向いていない。それどころか上転している。


何かおかしい。

男の体を確認するため足元まで視線を下げていくと、少年の手が見えた。

あの針の様な短剣で、男の影を縫い付ける様に地面を突き刺している。



瞬間可能性に思い至る。

俺の時と同じだ。もしかして対象の影をあの短剣で固定する事で動きを止められるのか?

この部屋唯一の灯りはあの偉そうな成金の背後にあって、少年は壁際だ。本人より早く影が少年に到達するのは道理。

殺せと言われた時に動きが止まったのは、自分で止めたのではなく少年に止められたわけか。



バックステップでスキルの発動を中断し、周囲を見渡す。

やはり槍使いは動かない。大丈夫そうだ。



もう1人の護衛は...ああ。



(あちゃー思ったより脆かったか。まぁ高攻撃紙装甲は剣士職の定めよね。どんまい)



盾弾きで真上に飛んで行った所までしか見ていなかったが、それで意識を飛ばした結果か単純に着地が悪かったか。

いずれにせよ頭から落ちてきたのだろう。首がおかしな方向へ曲がっている。ひゅーひゅーと呼吸をするのがやっとらしく動かない。




「な、なにが...」



残るは1人。

あの偉そうな成金のおっさんだ。




「まぁ見たら分かるやん?形成逆転...ってね」





ーーーーーーーーーーーーーーーー

不定期更新ですからね。


こういう事もあります。

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