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第5話 初めてそう言ってくれた人

ーーーーーーー



移動している。

恐らく馬車の荷台だろう。ガタゴト揺れているからそれは分かる。

風もあまり感じない。布か何かで荷台を覆って周りから見られないようにしているのかもしれないな。



俺を縛った後殆どの足音はゾロゾロと何処かへ行ったが、どうやら1人だけ同乗者がいるらしい。



息遣いも、音も無い。

だがなんとなく感じるのだ。

少し前から気になって、猿ぐつわをようやく外した。




「こんばんはー」



「...」




声をかけてみたが無反応だ。

だが蹴られたり黙ってろとは言われない。

攫われて運搬中に袋の中から話しかける...相応にふざけた行動である。




何か注意があってもよさそうだがそれがない。





これは予想が当たったかも?




何故か知らないが気配?のようなものであの少年ではないのかと薄々思っていたのだ。

こんなことは始めてだ。何か俺と繋がりでもあるのかと袋詰めされてる内に気になって仕方なかった。

あの拘束技といい、この少年に対しての興味が尽きない。




「君やろ?お話ししようや」



「...何故僕だと?」




ビンゴ。当たりだ。




「なーんか気になってさ。見えんけど、感じるねん。君ちゃうかなって」



「...」




何故か少し間がある。

困惑しているんだろうか。

まぁこうやって話しかけるやつも少ないか。




「...なぜ話しかけたんですか?」




「だからおしゃべりしたくてって。なんか縁を感じるんよね」




「おしゃべり、ですか。黒髪と?」




「髪の色なんか関係ある?」




「ッ......不吉、と皆さんは」




「不吉ね。みんな迷信信じすぎちゃうかなぁ。ゲン担ぎだけでその人が実際どうとか全然分からんのにね」





村の事を思い出して声に呆れが混じる。

信仰自体を否定する気はないが、あの件で信心深さも過ぎれば毒だと学んだ。

なんだよ悪魔の技って。ゲームの技だわ。




「....」




ふぅーっと息を吐いてるみたいだ。

何か地雷でも踏んだか?




「俺は黒猫と目おうても普通に撫でに行くで。可愛いし。ま、逃げられるけど」




微妙な間に耐えきれず、またこちらから話しかけてみた。

ここからまだ長いだろうに暇になるのもつまらない。こんな縛られた状態では眠れもしないだろう。




「...僕も好きですよ。猫。貴方から逃げる気持ち、少し分かるかもしれません」




「えぇ...俺そんなに怖いかな」




少しショックだ。

生前...前世から何故か動物には好かれない。撫でさせてくれる犬や猫は本当に一握りで、それだけに一部の懐いてくれる子らにはとても愛情を注いだものだ。



だが殆どの場合は触ることさえ避けられてしまい、怖がらせないように俺が無害、無関心を装う横で無遠慮に触れて懐かれる人々を見ては歯痒い気持ちを味わった。



ある意味で懐かしく、過去の思い出を振り返っている内俺も黙り込んでしまい、暫く静かな時間が流れる。





「月の導き、ですかね」




ポツリ。彼がつぶやく。

やや落ち込んだ気持ちのまま、俺も返答した。




「月の導き?」




「ええ。ふふ....」




「月の...ああ、君も夜目きくかんじ?」




「そうなんですが、あの...いや....そうですね」




彼から振られた話題だったはずだが、何故だか少し答えあぐねている様子だ。

声がどんどん小さくなっていく。




「.....僕も貴方と居ると、仄かに存在を感じます....目を閉じていても、そこにいるように」



掠れて、本当に微かに聞こえるような声でボソボソと話している。

先程対峙した時の妖しい雰囲気や自信に溢れた声色はどこへやらだ。




「月...月かぁ、なんか運命的な響きやんね。友達にでもなっとく?」




「う、運命って...縄は解きませんよ」




「そんなこと言わんよ。俺はね、本当に大切にしたいと思ってる人には極力何か要求したりせんの」




「...じゃあ何故僕と友達になるんですか」




「なりたいから」




「なりたいだけで?僕と...?」




声が震えている。

先程から当たり前のような返答しかしていないが、何かこの子にとって良くない話題を踏み抜いている気がする。

なんて言ったら良いんだろう。いや、とにかく友好的にだ。そうするしか思いつかない。




「そんな理由とかいらんでしょ。俺のこと嫌いじゃないよな。会話してくれてるし」




「貴方が何をしたか知りませんが、きっとこれから酷い目にあいます。その時、連れてきた僕を恨むでしょう。なれませんよ。友達なんて」



「なれるよ。だって今さ、こう目を閉じるだけでさ、君の存在感じて、声聞いて、すごい安心してるもん。心地ええもん。その導きってのあるんならさ、君も同じちゃうの」



「....」




「導きが何か知らんけどさ。これも縁やろ?後のこと思うなら馬車が着くまで限定でもええよ。友達になってさ、色々話そや。君の事聞きたいねん」




「もう、もうやめてください。貴方と話していると辛い。僕は居場所を守らないといけないんです。いまさら...」



「いまさらってなんも遅いわけないよ。きっと好きになれると思うねん、君の事」



「....」




「なぁ。ダメか?なぁ....」




ダメだった。

それからはどう話かけても返答がなく、目を閉じて感じる存在感も希薄になってしまった。



また、ダメだったか。

村を出てからこの手の会話は成功した試しがない。

ただ無性に話したい気分だっただけに、残念だ。




本当に...残念だった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






あんまり関係ありませんけれど




この世界で月の女神は一途の象徴で

想いを誓い合う男女に広く用いられるみたいですね。


月の女神に誓って、君を幸せにする。みたいな。


転じて月の女神が云々と続ける言葉には、それは運命だった、みたいな意味があるそうです。



うげーお前と運命?みたいな反応期待してたんでしょうね。

ほらこの人も同じだ。みたいな。



誰とは言いませんけれど。

関係ありませんけれど。


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