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第3話 その散歩はいつもと違って

ーーーーーーーーー







揺り椅子でそのまま寝てしまった体を伸ばして整え、販売所に降り、自動販売機の残数確認を行う。




所謂日課である。




最近は設備を人目に触れさせることへの忌避感も薄れ、今俺はゲーム産の回復薬を販売するアイテム屋を経営していた。



理由は簡単。

今の俺のジョブが<アイテム屋>だからだ。



思い立って4年。

既に足を使う作業は終えていた。




準備は最終段階。

壁にかかる大きな紙には、それまで取り組んだ思い出の文字がある。

達成ごとに塗りつぶし、残る項目の二つの内一つ。

今横線が引かれ、強調されている文字はそう。




<集めた素材で一気に役立つアイテムを生成しちゃおう!>





これが終われば次は<鍛冶屋>での武器厳選。

その次は遂に...世界中を飛び回る旅の始まりだ。





「〜♪」




誕生日よりも、目的達成が近付いてきている事に俺は上機嫌だった。

回収と生産の必要があるために工房を離れられない今は中々に暇だが、夕方までに戻ればその限りではない。



いつも通りの作業を終えて、裏口から外へ繰り出した。




店の自動販売機はプレイヤー間の使用を元々想定されたものだ。

つまりは不壊。

建物が消しとばされても自販機だけは傷ひとつつかないだろう。



防犯機能に気を配らなくて良いなら店番をする必要もない。

工房での回収、生成セット、自動販売機の補充作業。

その後暇な時間に街の外へ繰り出すまでが俺の、毎日のルーティーンだった。





「ちょっと散歩するかぁ...」





街を歩く俺に声を掛ける人物はいない。

いるとすれば物取りか、薬の製法を聞き出しに来た商売敵だ。



店は開いてまだ2ヶ月。

それまで俺はこの街になんの縁も無い流れ者。

加えてとびきり効き目のいい回復薬を定価以下で売っている。




商人にも、薬師にも良くは思われなかったのだろう。

その事で悪評を流されているらしかった。





掲げた通行証をろくに確認もせず、門番は早く行けとアゴをしゃくる。

年季の入った外壁と門は補修作業の真っ最中らしく忙しいのだろう。



素早く通したのは、俺がよくここを通るお得意さんだからというのもあるかもしれない。

薬売りなのは知られているし、薬売りが外へ材料集めに出ることはおかしいことじゃ無い。




ま、最初はそう思われていなかったらしいが。悪評を真に受けて外での同行を申し出た彼らに薬草回収と普段の散歩を見せたらかなり態度が軟化した。



良いことだ。

それでも話しかけられたりはしないが。




そのまま続く道にそって奥へ奥へ。

森へ入り<エンカウント>するまで進んでいく。


途中何個か拾った石を手でカロカロと弄びながら歩いていると、不意に背後に気配を感じる。




来たか。




「グルルルルル.....」




狼だ。

魔獣化しているな。




「ほい」




指で石を弾く。

指先程度の小石。狼は避ける事もせず....



パァン!!



...弾けた。




「やりぃ。指弾きうまなったな」




今のジョブ...アイテム屋の攻撃手段(スキル)はこれだ。

アイテムを<投げる>事でその等級と自身のレベルに応じたダメージを与える。




小石程度であればダメージは知れているが、アイテム生成で経験値を得られるアイテム屋のレベルはこの2ヶ月でかなり上がっている。

狼くらい、わけはなかった。





パァン....パァン......






見かけた魔獣を片端から弾く。

魔獣の体は跡形もないように見えるが、素材は勝手にアイテムBOXに溜まっていく。

ゲームには手ずから解体なんて仕様はなかったからな。




2ヶ月間繰り返してきたその行為に、見慣れた林道に、最大限楽しもうと努力する。

その努力が続いたのは、おやつの時間までだった。




昼前に出てきたはずだ。

かなり歩いたつもりで、だが日はまだ強く落ち切るのに時間がかかりそうだった。

今日は狼の出が悪いな。




正直この辺りの敵は定期的に俺が掃討するのもあって歯応えのある奴がもういない。

地方の田舎都市といえど秘境と言えるほどでも無く、街を築けるくらいには周りに危険な生物もいないのだ。



その端数すら借り尽くす俺の掃討は何のためかと言われれば、答えは簡単暇つぶし。

散歩のついで。それだけだ。




やがて完全に飽きてしまい口笛を吹きながら帰路に着くため振り返る。

考えるのは晩御飯。<キッチン>で作成した料理でも良いが、せっかくの誕生日だ。




今日くらい洗い物をせずに寝たい。

帰ってもまだ夕方、何処か開いてるだろう。




そう思った所で視界の右側に赤い印が出る。




「んー?」




攻撃マークだ。




(気づかんかった。なんか使ってたか)




僅かに体を逸らす。服を掠めるように、細い針のような短剣が通り過ぎた



回避体制のまま石を弾くが、短剣の持ち主はそのまま走り抜けて森へ消えていった。

掠れる草木の音はすぐに消え、やはり気配も無い。

黒い影にしか見えない速度。当然石は当たらず、効果を失って地面に落ちる。




商人連中め。また誰か雇ったか。

考えてみれば街中で襲うよりこうした方が隠蔽しやすい。

最近来ないと思ったら気を見計らっていたと。

そういうことか。




「サーチ」




周囲の敵対者を表示するゲームの汎用魔法だ。

直ぐに反応があった。左側面...




「そこか!」




右手に握っていた石を全て<投げる>

数にして5、6個。

だが全て真っ当な人間に当てるには過剰な威力だ。草花どころか木々ですら耐えられず当たった部分が消し飛ぶ。

だが舞い散ったそれらの間に見えたのは、人形の生物ではなく今まさに千切れ飛んだウサギ型のモンスター...



(誘導!?)



やられた!そう思うと同時空いた右手へ剣を取り出す。

直ぐ来るか、もしくは間に合わないかもと思い構え直したが、予想外に追撃は来ない。



暫く待っても同様で、サーチにもかからず俺は剣を下ろした。

先程確かに別の反応もあった気がしたが、ウサギの誘導で完全にやられた。

今からでは追えないだろう。




「やるやん」




この距離なら如何にウサギ型の小型モンスターと言えど今の今まで俺が気付かないなんてあり得ない。意図的に設置されたデコイだ。



当たりはしなかったものの、一方的に攻撃を許した挙句やり逃げされた。姿も黒い服装である事以外は把握できていない。



つまり次会っても分からない。

以前の奴らとは動きが違う。




(はぇーテンション上がるな。久々にちゃんとした対人できるかもね)




ゲームでも1対1の闘技場と呼ばれる対人戦やクラン戦という集団戦があった。この世界に来てからも当然覚えはある。

新しい敵を、新しい動きを見るのは、そして手応えのある敵を倒すのは楽しいものだ。



アイテムBOXから剣、盾、杖と取り出しては戻し感覚を確かめる。

<投げる>で遊ぶつもりだが、これが命懸けの遊戯であると忘れてはいない。

いざその時のための手慣らしだ。




「よし」




どれを取り出すかだけ決め、装備を仕舞う。



左手の石をグッと握り歩みを進める。

帰り道は2時間ほどだ。



今日の散歩は当たりだな。

何気ない日々に生じた少しの変化。

退屈の終わりを期待しながら、俺は硬い地面を踏み締めた。




ーーーーーーーーーーーーーーーー

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