14話 購入/売る←(ピッ)
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アルセアが店の奥から出てきたのは、しばらく経っての事だった。
1度おずおずと奥から出てきて、ひょっこりと通路の奥から定員さんを呼び、また2人で奥へ消えたあと、やっと服選びが済んだようだった。
2回目はとても上機嫌の定員さんと一緒に出て来て、手には大きいアタッシュケースの様な鞄。どうやら服が何着も入っているらしい。内容に関しては、定員さん曰く秘密なんだそうだ。アルセア君も黙って俯くだけだった。
「じゃあお支払いの件ですけど、さっきの品揃えでお望みの個数言うて貰ってええですか。一個一個の金額に関しては言い値でええですから」
「ええさっきの...はい?なんて言ったの?もう一回聞いて良いかしら」
「個数ですよ個数。俺の分も服こんだけ買いたいんで、それに見合う金額分だけさっきの品物と物々交換しましょうてことですわ。レートはそっちに任せますんで」
「何個も、持ってるの?そ、そう...」
カウンターには俺が購入したい服を何着か並べてある。その上に、先程の糸や属性が宿った魔石をじゃらじゃらと置いた。
言い値で良いとは言ったのは、値段交渉が面倒なこととは別にもう一つ理由がある。
簡単に言えば次回以降の取引のためだ。
俺だってカモられると良い気はしないため、大体の市場価値は把握している。極端に低い金額で買い叩かれそうなら引っ込めるが、そうでなければ次もお世話になるし価値がわからないものも持ち込める。いわゆる信用が置ける卸先と認定するということだ。
万年ソロプレイな俺と、真面目に取り引きしてくれる人は多ければ多いほど良い。
入店時アルセア君を何も言わず受け入れてくれた事だけで優良認定はしてる。今後この街に来た時にはここで素材も売れると助かる、故の唾つけだ。
「...持ってきてもらって申し訳ないけど、幾つもは貰えないわね。特に色付きの魔石なんて私の服より高くなっちゃうもの」
「んん?いや服の性能見たらそんなこと無さそうですけどね」
「そう言って貰えるのは嬉しいけれどね。ああ、お気持ちならいつでも歓迎よ?」
「はは、お気持ちね。ええですよ。元々奮発するつもりでしたけど、早い目にサービスといきますか」
普通に買い物をさせてくれて助かった。そして内訳は分からなかったが、あの大きい鞄を見ればアルセア君へも数着できかないほど服を詰めてくれたのが分かる。
お礼の気持ちは最初からあった。上手く会話で誘導された訳だし、ご要望通りお気持ちを差し上げよう。
何個も並べた魔石を回収し、今度は更に大きな魔石を取り出す。
市販で流通しているものは小。指先程度。
先程出した属性付きの魔石は2指分ほどだ。
しかし、今回のものは更にワンランク上の魔石。大きさは、拳大。
赤、青、緑、黄、茶、灰、透...などなどの単色以外に混合色もあり、同じ色でも配色が微妙に違う。
全てネームド...固有の名前で呼ばれるまでに被害を広げた強敵の名残り。全てが一点ものの激レアな魔石だ。
ここまで大きいものは相当稀な筈。狙って狩っていた俺ですら数スタック程度しか持っていない。
「こちらの中からどれか一つ。お持ち頂いて結構です」
「...本物、よね」
「どうでしょうね?まぁタダですから気楽に選んで下さいよ。代金とは別にお譲りしますんで」
「.....」
一番近くの魔石に指先を近付け、一度こちらを見る。頷くと、そのまま触れた。仄かに魔石が光り、指先を話すと元に戻る。他にも同じように繰り返し行う。
表情は真剣そのもの。
恐らくだが、付帯効果を見ているのだろう。
この魔石で装備を作ると属性以外に特殊なパッシブスキルが乗る。俺がネームドを狩り、魔石を沢山集めている理由はこれだ。
防具向きの効果の付いている魔石は明らかに触れている時間が長い。俺はアイテム欄で見るだけだが、この世界ではああやって見るのか。
良い知識を得た。覚えておこう。
「これね。お願い」
「勿論。良い選択ですね」
選ばれたのは無色の魔石。物理防御に強く補正がかかる代物だった。
そつなく、無駄にならない良い選択だ。持っていたのはとある遺跡に居たゴーレムだったかな。
「じゃ、そろそろ本当に代金の方決めましょか。換金の手間もあるでしょうし、市場の値段より安く考えて貰って大丈夫ですから。心配せんで、自分の良いように計算して下さい」
「...知ってて言ってると思うけど、あえて聞くわね?あなたこんなに品質が良い素材をそこらの市販品より下の値段で売って良いの?魔石はサイズも大きいし均一だし...糸も体液や解体時の傷でもっと少ないのが普通でしょ?一匹から取れる最大量じゃないのあれは」
「そう思うなら次も僕から買ってください。明日から暫く留守にはしますが、この街で薬屋を営んでるんですよ。今でもストックは沢山ありますし、糸吐く系の魔物見つけたら追加で狩っておきますから」
「ハァ...エドが贔屓にするわけね。分かったそう言うことなら遠慮しないわよ。糸と魔石買えるだけ買うからお代は結構。服代以上は私が払う。金貨で良い?白金貨もあるけど」
「白金貨は使えないとこ多いんですいませんね。いやー助かりますわ。現金も最近少なくなってきた所やったんで」
(やりぃ。旅立ち前に助かるね)
交渉成立だ。
購入費用の足しになればと思ってはいたが、俺自身には使い道の無いアイテムでお金がむしろ増えた。良い取引である。
オカマさんには素材の限りがあるように伝えたが、ジョブ<狩人>のパッシブスキルで一体倒せばこのようなアイテムはボロボロドロップする。
一回腰を据えた地域の魔物の素材数は、もう数えることすら億劫なほどだ。
今後も定期的に引き取って貰おう。
「ちょっと重いわよ」
「まいど!ご贔屓に」
紙帳簿と睨めっこしているオカマさんに詳しい計算は任せて、糸や魔石を指示された個数袋に詰めた。ネームドの魔石の方も、もう一つくらい購入するかと思ったがこっちは欲しいと言われなかったな。
実際こちらは市場に出ている所を見た事が無いのでこれだけは価値が分からない。ワンランク下の魔石の値段を見るに買えない金額でもなさそうではあるが...他の素材を優先した結果だろうか。
少しだけスッキリしたアイテムBOXの代わりに店の奥から出てきたのは、箱にそこそこ詰まった金貨だ。
良い輝きだぁ。
何回でも、幾らでも売るのでいつでも言って欲しい。
数も数えずじゃらじゃらと袋にしまい、そのまま後ろ手に回してアイテムBOXへ。アイテムBOXの表示で枚数は確認できる。
「300枚、しっかり頂きましたわ。街に帰ってきたら顔見せますんで、またそん時はお願いしますね」
「ええ。待ってるわね」
いいと言ったのにこの値段はだいぶ色がついているように思う。
定員さんが思う適正価格なのだろうか。
続けて彼女はこれで...と小さく何か呟いたが、それ以上は聞き取れなかった。
そろそろ退店なのでチラリとアルセア君を見るが、隅っこの方で鞄を抱きしめる様にして小さくなっている。
出てきてからずっとああだ。
「じゃあ行こっか、アルセア君」
「...え、あ、はい!」
あんなに大事そうに抱えているのだから良さげな服を選べた筈だが、些か反応が妙で気になる。
(...まぁ他人の服のチョイス中身なんて気にする方が無粋ではあるか。一緒に暮らしてたらその内分かるやろし)
浮かんだ興味を悪い癖だと振り切って、俺の分の服をアイテムBOXへ回収。そのまま出口へ向かった。
「ありがとうございましたー」
ヒラヒラと手を振るオカマさんに、軽く挨拶をして店を出る。
浴びる日差しが心地よく、少し伸びて太陽を見上げた。
もう昼時だ。
「...お腹減ってない?なんか食べに行く?」
「...あの」
「ん?」
「い、いえ、なんでも無いです」
入店前までは元気だったのに、控えめアルちゃんに戻ってしまった。
明らかに何か言いかけたが...
(んー、行きたいところあったか、はたまた別の相談事か。まぁどれにせよ、下手に突っ込まず自然におるのがええよね。多分)
「食べたいもん無かったら家でええかな?疲れちゃってさぁ。昼寝してゆっくりしよや」
「!...はい!」
帰路の道は、行きより少し明るい気がして。
足取りも、少しだけ軽かった。
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