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13話 ヴィオラの仕立て屋<菫の針>

ーーーーー




「ほんまに行くの?もうええんちゃうん」




「いえ、アルフィーさんがせっかく目をつけて下さったお店なのでしょう?こちらは見たところ人通りが少ないお店ですし、服は必要ですから」




「そっか。そうかぁ....」





気乗りしない。

気持ちが落ち着いて、さてこれからどうするかと相談した時のことだ。

俺はテンションダダ下がりだし、帰ろうかと伝えたがそこにアルセア君が待ったをかけた。




元々行くつもりだったもう一つのお店...服屋に行ってみたいと彼からから提案して来たのだ。




アルセアから提案して来たのも驚きだし、あの仕打ちを受けて次の店に行く選択肢になるのも更にビックリだ。



アレくらい普通で、言葉で退店を促されるだけまだ優しい方ですとはアルセア君の言葉だが、俺は次もああなったら心が保たない。



やる気のアルセア君にそうは言えなかったが、俺はもう先程の出来事で心の許容値を完全にオーバーしている。

気分はゲンナリ。もう今日は何もしたくない。



対照的にアルセア君は朝より元気に見えるほどだ。

心には日にち薬かとさっきも感じたが、1日も経っていないのにこれは些か効果覿面過ぎでは?案外心が強い...もとい、切り替えが早い方なのかもしれない。




「ここですね」




頭を掻きながら歩いていると、アルセアが立ち止まった。

少し入り組んだ道の先にあるらしく、行った事のないお店だと聞いたアルセアが案内をしてくれたのだ。



俺はここに来る前知り合った商人から聞いたのだが、どうやらこの街だけでなく他方でも有名な知る人ぞ知る名店らしい。貴族も利用するが、平民でもお断りされないからと一押しされていた。



驚くことにこの店の事はアルセアも知っていたようで、しかし高級店との噂らしく行ったことは無いのだと。俺も服にはこだわりがなく、聞き流すだけで行ってはいなかった。



なので来るのは初めてだが、店構えは服屋より魔法店のようだ。魔石を使った洒落た装飾が所々に見受けられる。

建物内のデザインも、俺の記憶にある服屋よりはアンティーク店と言った方が近いだろう。

服屋の顔としてこれが良いのかどうかは分からないが、これが店主のセンスなのだとしたら俺は確かに好きかもしれない。だが...



「はぁ....」



いくら店が好みでも店員の反応がアレでは楽しめるわけがない。だが、先程の負い目もある。今他でもないアルセア君の希望を断れるわけはない。

足取りは重いまま、アルセア君を庇うように立って店のドアを開けた。



チリンチリンと、控えめな呼び鈴が鳴って奥の人影が動く。

展示品や内装に気になることもあった。

しかし何よりも先に、俺の視線は店員に奪われた。



「わぁ。キレイな店員さんやねぇ...」



嘘偽りは無いが、言葉を選んだ結果の呟きだった。



彼は...女装していた。



かなりの美形だ。

それは間違いないが、肩幅と胸筋から脱いだらかなり引き締まった体格をしていることが分かる。

短いが手入れされているであろう赤髪や、艶やかな紅は間違いなく様になってはいる。

しかし紛れようもない男らしさの...物凄く綺麗な、お兄さんだった。




「あらありがと。あなたは...外見には無頓着なタイプかしら?一式買うなら、私の店は正解よ」



「ああいや、俺のもええけど今日はこの子の分を何着か」




そう言って俺の後ろに立っているアルセア君を、半身で見せる。

先程の件で警戒した足先はまだ片方店の外にあった。黒髪について何か言われたら即帰るつもりで、だがその警戒は無駄に終わる。




「あらぁ!可愛い女の子ねぇ。この子の服ぅ?もうたっくさん候補はあるんだけど予算はどれくらいなの?」



「あえ?」



軽くずっこけるところだった。

驚いて店員さんを見るが、間違いなくアルセア君へ視線を向けて、黒髪を視認して今の言葉を言っている。

困惑は強く、だが直ぐに嬉しくなった。そうそう、こういう反応での買い物がしたくて出てきたんだよと。




「予算は少し隠し弾があって、ちょっと相談させてもらえたらって。あと残念。アルセア君は男の子っすよ」




思わず綻ぶ顔を隠す事もせず、上機嫌で返答する。普通の服を買うだけなら余裕で足りるが、この店のラインナップを見るとどうやらそうではないらしい。



どれもこれも普通の服に見えるがアイテム分類は<防具>。つまりそれなりの防御性能があるということだ。アルセアが言っていた高級店との評価はここから来ているのだろう。

これでは手持ちが足りないかもしれない。そこで、少し素材ストックを崩す事にした。




「可愛いから間違えるの分かりますけどね?なぁアルセア君...」




話題振りのつもりで、アルセア君に視線を戻そうと....





「あらぁそうなの!?こんなに可愛いのにねぇ。ごめんなさい?間違えちゃって」




と、大きな声で謝る店員に視線が引き戻される。

アルセア君が美形である故のミスであれば、責める事など出来るはずもない。

軽く、自分でも何故かと思うほど自慢げにため息で答えた。




「だったら早速採寸しなきゃね?あなた、奥へいらっしゃい」




「...え?は...」




「服のサイズ図るんやってさ。行っといで」




アルセアも俯いてやや言葉に詰まっている様子だ。

俺と同様、彼が自然に黒髪を受け入れていることが意外なのだろう。



俺は嬉しく、笑顔で送り出した。

やはり、たかが髪色だ。

同じ考えの人もいるのだと。





「は、はい...」




「じゃあ貴方はちょっと待ってなさいね。隠し球のことは後で聞くから」






そう言ってオカマさんとアルセア君が奥の通路を横切り、視界から消える。

少しばかり張っていた気を緩め、店内をゆっくりと見渡した。





(....ちっ。せっかく楽しくなりそうやのに、1人になると思い出すなぁ)





だが脳裏に映るのは衣類ではなく、先程の寝具店での出来事だ。

人間力というのは不測の事態でこそ見えると言うが、俺はその点全く成長できていない。その事実を、あろうことかアルセア君に見せつけてしまった。

あの子と過ごした今日。この初日で既に、今後思い出して恥じるであろう思い出が出来てしまったわけだ。



人と過ごすというのはこういうことだ。

ある程度分かって受け入れたとはいえ、自分の中の未熟な部分を直視することは些か辛い。



得てして苦痛とは、羞恥とは人としての成長に必要なことと紐付く。

粛々と受け入れ、今後の糧に出来るように頑張る...しか無い。

だがそう割り切れないのが俺の悪い癖だ。





あんなことしなきゃよかった。

そればかり考える。

もう、過去の事は変えられないというのに。




やや泥沼化しそうになった脳内を無理矢理この場に引き戻し、店内を見回す。

飾られている物はドレスから普段着まで様々だ。服屋の個性としてよくある奇抜、オシャレと評するべき服は少なく、どれも手堅いデザインに見える。まるで着ていくシュチュエーションに合わせて購入してくださいと言わんばかりのバリエーション。

確かに取り敢えず服が必要だから一式、そんな買い方ならここは適任かもしれない。




(そして気になる防具性能は....っと)




取り敢えず近くのダボったい服を触ってみる。

俺が今着ている腰までのチェニックとブレー...長めのシャツと緩い長ズボンの組み合わせと同じ物だ。



この世界の一般的な服装の一つで、外出用から部屋着まで全部これで過ごせる優れもの。恐らく服にこだわりがないと言われた元凶でもある。



(おお、こりゃ驚いた。魔法耐性あるやん...これくらいあったら火球打たれても燃えんかもな。どう見ても布やが、数値的には物理も鎖帷子くらいの硬さはあるか?)



俺が所持するゲーム仕様の装備とは流石に比べられないが、物理的に鉄ほど硬いと来れば十分だろう。

売り物でこれは確かに高性能。しかも見た目はただの服。



これはとても高いアドバンテージだ。重ね着機能によって透かした場合、設定装備は触れられなくなる。つまり俺はその下にこの世界の防具を追加で着込むことが出来るのだ。

ゲームの機能と現実の間を突いたバグ技のようなものだが、このおかげでフルアーマーにフルアーマーを重ね掛け出来る。だが実際のところ完全防備で挑める事は殆どない。街中は流石に不審者すぎるし、森などでは動き辛いことこの上ないからだ。


しかし、この店の服なら自然に着込む事が出来る。布だから動きも軽いし、例え僅かでもステータスが向上するか、しないかならする方がもちろん嬉しい。





これは買いだ。





ゲームなら店の上から下まで購入するくらいだが、現実ではそうもいかない。

アルセアにも買うのだから、自分の分があまり高くなると問題だ。隠し球を受け入れてくれるかも不明だし、優先する目星は付けておかないと。



今触っている普段着のセットは確定。

他にはどうだろう。性能差はあるのかな?



片端から衣服を眺めてまわる。

性能差は僅かにあるが、一定になるよう調整しているようだ。

だが一着、明らかに性能が高いものがある。



見上げれば、煌びやかな黒いドレスだった。

俺の語彙ではゴシック、という括りになるが恐らく他の言い方があるだろうやや透けた箇所のある大胆な物だ。

手堅いデザインが多い中で、明らかに異質な存在感を放っている。



(魔法物理共に高水準...ゲームでも中レベル帯の装備としたら全然あるくらいの性能か。いやこれ強いな)



しかしドレスか....頭を掻く。

俺が着るには犯罪的過ぎるし、アルセア君に来てもらうにも変な誤解をされかねないデザインだ。



コレクター用として持っていても構わないが、ここまで性能が良いと値も張るだろう。

布にここまでの防御効果を仕込むというのは明らかに魔法的な何かが施されている。そしてそのような製品は得てして金額が跳ね上がる。



(んー悩ましいな。使い所は無いんやろうけどこう...掘り出しもの感ある装備は無性に欲しくなっちゃうのよな。なんなんやろね...)



むむむと唸りながら振り向く。



「あら、貴方もコッチ側なの?」



「うぉ!びっくりした...。いやいやちゃいますよ。気合い入ったドレスやなぁ思いまして」



すると眼前にあのオカマ定員さんがいた。

怖い人では無いが流石にいきなり後ろに立たれるとビビる。



「んもぅそんな事言って、自分が着た姿を想像してたんじゃ無いの?もしくは、あの子とか」




「それはだって服って着るもんですからね...ってアルセア君どないしたんです?店員さんだけ戻って来たんですか?」




「採寸の後色々勧めたんだけど恥ずかしがっちゃってね。ゆっくり見てもらってるのよ」




「あー、まぁアルセア君シャイですからね」




なんとなく想像が付く。

ニコニコ笑顔のオカマさんと、焦るアルセア君が目に浮かぶようだ。




と、なればまだ時間がかかるわけだ。

店員さんと話してみるか。





「んんー、話題は変わりますけど凄いですね。どれもめっちゃ自然な感じですけど、ちゃんと魔法防護付いてるし」




「あらびっくり。貴方分かる人なのね。誰かから聞いてきたの?」



「あのーあそこ、名前忘れたな...。蜘蛛系のモンスターめっちゃ多い谷近くの街分かります?森挟んで街2、3個隣なんですけど、そこでエドウィンって商人さんからオススメされましてね。平民でも買えるええ店やよーって」



「エドとお知り合い?貴方もしかして凄腕の冒険者だったりするのかしら」



「いやいやそんな事は全く。冒険者ギルドも素材取られるのが嫌で使ってませんしね。ただ現金もいるもんで、エドウィンさんには色々買い取って貰ったんですわ」




「じゃあ隠し玉も魔物の素材か何か?」




「ご名答。魔石各種と魔力伝導率の良い糸とかどうでしょ。お望みなら他にも色々ありますんで」




試しに会計をするであろうカウンターへ魔石を大小2種類並べる。

そしてもう一つ、エドウィンさんとも取引した巨大蜘蛛の糸玉を手に持った。聞いた話では、あの蜘蛛たちはこれに魔力を通して強度を保つんだそうだ。


エドウィンさんとの取引では主にこれを求められた。

この様な特殊な服を作っていることから、オカマさんがあの商人と交流がある理由も十中八九これだろう。



「貴方...なるほどねぇ」



ぬるり。

気が付けばオカマさんの手に糸玉があり、視認してから取られた事に気が付いた。



「後はこれも付けますわ。詳しく無いですけど、使えん事無いんちゃいます?」



更に別の糸玉を取り出す。

アルセア君の服を買うだけなら先程の分だけでも良さそうだが、自分の分も欲しくなったので追加だ。

こちらは別の地域で狩った芋虫型のモンスターが蛹になる時に吐く糸。あの時は焼き払おうとしたがこの糸が魔法を弾くので、結局物理で潰す事になった。

本来の蚕としている事は同じな筈なので、服に使えないという事はあるまい。



そして先ほどとは別の、属性を纏って結晶化した魔石を並べる。

ただの魔物ではなく、環境によって炎や冷気などを操る中〜大型の魔物から取れる魔石だ。


実際どの様に用いるかは知らないが、ゲームでは装備や武器の作成に用いる。

もしこの世界でも同じならリアクションがあるだろう。




「....ちょっと置いてくれる?」



「はいはい」



声色が変わった。

カウンターに置いてそのまま任せる。


何かの器具に通したり、薄い虫眼鏡の様なレンズで見てみたり、指先から魔力を通したりと色々している。

顔つきは真剣そのものだ。



少し離れ、壁にもたれながらその風景を見る。

元より整った顔立ちだ。澱み無く、小気味良い確認作業はそれだけで絵になる。

ふと気付き、指を合わせて四角を作る。



(おお、意外な所で収穫アリ)



これもまた景色の一つ。



しっかりと目に焼き付けて手帳を開く。

店内には、薄く紅茶の香りが漂っていた。




書いてた部分色々弄る必要があったせいでまぁー時間かかりました。

自分の筆の遅さに嫌気がさしますぜ。ふぁっく!

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