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第11話 些細な、けれど思い出になる朝のパン。

ーーーーーーーー





日差しの眩しさに意識は目覚めたが、目を開けられずに毛布を顔の上に乗せる。



このまま二度寝でも良いかと考え、しかし昨夜のことを思い出し強引に瞼を開けた。




(そういやアルセア君がおるんやっけ。朝ごはんは...そういやちょうどベーコンエッグセットしたところやったか)




「んー」




仕方なく伸びをしながら体を起こし、意識を無理やり覚醒させる。

キッチンは工房だ。いつも朝は食べないが、同居人が居るなら出さないわけにもいかないだろう。



チラリと彼を見たが、寝息が聞こえてそっとしておいた。

そのまま横を通り過ぎてドアから出る。



廊下を進み工房のある部屋に入る。

キッチンの中身はベーコンエッグ×99。

今後のための準備の一つである。




これら料理はいわゆるバフアイテムであり、さまざまな種類がある。だがこの世界で俺が料理を作る目的はバフではない。

メインの役割はそのまま食料としてだ。



しかしゲームと違いこの世界で食用素材は外で確保出来る量が少ない。

手に入れるには街の市場が手っ取り早く、店で小遣い稼ぎを始めたのはそれが理由だった。

昨日お金を取れる方向へ話を持っていた目的も同じである。





次はパンを制作可能なだけセットして調理開始する。




朝食分のパンを待つ間、ついでに隣の工房もチェックする。

大きな釜のような見た目だが、回収も作成もウィンドウで出来ると言うハイテクっぷりだ。




「〜♪」




完成分は回収し、新たに回復薬をセットする。

また一つ、アイテムBOXのスタックが埋まったのを確認し、まだ眠い目を擦った。




あくびをしばがら数分、パンが焼けるのを待つ。


出来上がりそのままのパンを適当な皿に乗せ、その上にベーコンエッグを添える。

彼は細い。この量で十分だろう。




部屋に戻るとベッドのアルセアがビクリと動くのが見えた。





「なんや〜起きてんやん。朝ごはんやで」





アイテムBOXからテーブルと飲み物を取り出し、向かい合う様に置く。

椅子にそのまま座り、いただきますと呟いてそのまま食べ始めた。



サラダが欲しいが、肉に比べて材料の確保が難しくストックが少ないのが現状だ。

料理を大量に作っているのは望んでも食べられない外出用。



最悪買えば済む街でストックの少ない料理を消費していたら本末転倒だろう。

今は節約だ。仕方がない。




俺が食べ出すと、おずおずアルセアもベッドから起きて席に着いた。

俺と料理をチラチラ見ている。




「気にせんと食べぇよ。俺が言うのもなんやけど、美味いで」




ベーコンは若干塩辛いが、半熟の卵とパンに染みたまろやかなバターの甘みがそれを中和し良い塩梅で味が整っている。卵とベーコンはそれぞれ2個。パン1枚には具沢山ではあるが、それがまた嬉しい。



食欲自体はあまりなかったものの、味が良くすんなり入った。

目を覚ますため水もガブガブ飲んで流し込む。



ふと席に着いたアルセア君を見やると、一口齧っただけで固まっていた。




「...本当に美味しいです。良いのですか?こんな高そうなパンを頂いて」




「これ俺のお手製ね。かかってるのは材料費と俺の手間だけよ。遠慮せず食べてや」




「薬屋さんだと思っていましたが、もしかしてパン屋さんなのですか?」




「ヒヒ、もしそうなら今頃この街のパン屋さん全部廃業よ。さぁ冷めるで。はよ食べや」




急かされてもアルセア君は端からチビチビ食べている。

遠慮しているのかお行儀が良いのか。愛嬌はあるが時間はかかりそうだ。



俺が食べ終わっても当然まだ食べていたので、その間にコップをもう一つ取り出し、フラスコからオレンジ色のアイテム...状態異常回復薬を注ぐ。




「これも飲んどいて」




身なりは綺麗に見えるが、言動から察するに育った環境は良くなかっただろう。

何か病気を持っていてもこの性格では言い出せないに違いない。知らぬ間に悪化していたなんて笑えない。



「これは...昨日のとは色が違う...」




「体の悪いもんが出ていくお薬よ。一様飲んどいて」




「では、髪の色が?」




「いや気持ちは分からんでもないけど、君の黒髪は別に悪いもんちゃうからね。綺麗やと思うよ」




「そ、そうですか」




今の受け答えが恥ずかしかったのか、そのまま一気に飲んでしまった。

ほぅと息を吐いて、ポツリ呟く。




「甘い....」




「実は体にかけても効果あるよ」




「な、飲んではいけませんでしたか?」




「じゃあコップに入れたりせんって。俺と一緒におるんなら知っとった方がええかなってな」




笑いながら伝えると、アルセア君は揶揄われたと思ったのか釈然としない顔をして食事を再開した。




手持ち無沙汰なため、視線を動かすと窓の外の青空が目に止まった。

いつもの景色だ。だがまばらな雲と、古風な街並みは今日の青空によく映える。




カシャリ、と心のシャッターを切った。

四角く形作った指の間に見える景色を、頭に強く焼き付ける。



うっとりと窓の外を見ながら、ペンを取り出しゆっくりと手帳へ走らせた。

日付け、天気、場所。

景色を思い出せる情報を順番に残しながら、この先どうするか考えた。




王都にはいつか行くつもりだった。

今行くのは全く問題ない。

暫く工房を留守にするが、最悪帰れなくても新たに居着く街を探せばいい。



そう、俺は問題ない。だがこの子は?

俺は1ヶ所で定住するつもりは無い。過酷...ではないだろうか。この子の将来にとって悪影響ではないだろうか。そんな事を考える。



俺はこの第二の人生の生き方を既に決めている。そう易々と曲げたくないし曲げない。

俺といる間くらい良い思いをさせてやれたらいいとは思うが、どこかで俺にとっての最良と、この子にとっての最良がズレる日がやってくるだろう。

その時がおそらく、別れの時だ。



だが願わくば、その別れが良いものであるようにしたい。

こんな出会い滅多にない。間違いなく今後の人生を左右する思い出となる筈だ。俺にとっても、この子にとっても。




色々考えていると、アルセア君から音がしないことに気付く。

食べ終わったかと見ると、パンを手に持ったまま固まっている。綺麗に乗せたはずの卵もベーコンも皿に落ちているが、こちらを見つめて気付いた様子もない。



「卵、落ちてるよ〜」



惚けているようだ。

そこまでパンが美味かったのか。



「...え、あ!?す、すみません」



苦笑しながら伝えると、あたふたと落ちた具材と格闘し始めた。暫しその様子を楽しむ。

やはりこの子には愛嬌がある。良いことだ。



まぁこれも悪くないのかな。

そう思いながら、ナイフとフォークを差し出した。



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