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第10話 俺はアルフィー。君はアルセア。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




建物の中は俺たち以外居なかった。

あの事情を聞いた時からからそうじゃないかとは思っていたが、本当に漏れて欲しくない情報だったんだなと改めて感じる。

動く金の大きさを想像して、少し身震いした。




「よっと」




建物を出たところで、足に力を込めて<ジャンプ>する。

2段ジャンプで位置を調整し建物の屋根上へ。



馬車があまり長時間走らなかった事からも予想できたが、そのまま街に戻っただけで別のところへ運ばれたわけではないようだ。



普段から散歩に出るので、外壁の位置から大体の帰るべき方角は分かる。



そのまま屋根伝いに<ジャンプ>、<ダッシュ>と飛び移りながら帰路についた。

夜空はすっかり星々が輝いて、少年と見た三日月もまだ煌々と笑っている。



チラッと腕の中の少年を見ると、ガッチリ目があった。

いや、目があったというより俺の顔をずっと見ているらしい。

目があっても目線は関係なくこちらは向き、表情は無に見えて何を考えているのかは正直よくわからない。


だが、先ほど感じたような引き込まれる感覚は依然ある。

この少年を連れて帰ると告げた瞬間壁が取れた様に心へ直接届く感触が心地よく、だからこそ困る。




「んー」




友人、相棒...そんな関係には過剰な感情がとめどなく湧き上がってくる。

だからと言って男と、それもこんな限界ですって状態が簡単に見て取れる少年とそっちの方向で関係を深めるなんてありえない。



連れて帰ると決めたら治るかとも思ったが、むしろ強くなるとは。

幸いまだ自制は効くが、戻ったら手持ちのアイテムでどうにか出来ないか試してみないと...



そんなことを考えながら、屋根から屋根へジャンプ&ダッシュ。

RPGのゲームというモノはいつからかオープンワールドが主流になり、このゲームも例外では無かった。

そしてオープンワールドゲームで度々槍玉に挙げられる問題として、移動に時間がかかるという点がある。それをどう解決するか、というところの工夫が求められるわけだ。



拠点間のワープ...いわゆるファストトラベルや、作品特有の乗り物。プレイヤー自体が機動力に優れる場合もある。



あのゲームには全てあった。

俺自身での移動以外の2つは現状利用不可ではあるのだが、これまでそれで不便したことは無い。

それだけ俺自身の移動能力で満足しているということだ。


空中地上問わずダッシュは早いし長い。

ジャンプ力も高い上に2段ジャンプ完備。

徐々に落下はするものの飛行能力もあり、非戦闘状態ならスタミナすら無限。

多少の高低差ならパルクールもあってあとちょっと届かないという事が無い。



現代のような大都市ならいざ知らず、これくらいの田舎都市なら端から端でもあっという間だ。




「よっと」




到着した。少しの考え事をしていた間に、ボロくも愛おしい我が家が目の前にあった。



ゲームでモーションがある行動を俺は絶対に失敗しない。ダッシュもジャンプもどんな悪路であろうと成功する。家の屋根など問題ではなく、いつも通り到着できた。





「ただいま...」




若干ドアノブを開けるのに苦労しながら店に入る。

2階が俺の家兼工房だ。

気になる事があり、出てきた裏口ではなく店の入り口から入る。

足を止めない程度に販売機の残数をチラ見するが、やはりどれも売り切れだ。



読みが間違っていなければあの成金だろう。

いたぶる余裕があったのは今すぐ情報を引き出せなくても暫くはストックがあったからという事だ。



まぁ日々売れている分を考えてもあの成金おじさんの手に渡ったのは回復薬と状態異常回復それぞれ十数個程度。

購入者があいつだというだけで元々売り物だ。どう使おうがその人の勝手。



(なんかでもやな感じ)



少年の体が壁に当たらないよう気をつけて2階へ上がる。

一軒家とはいえ場末の古屋だ。人を抱えて余裕で通れるほど広くない。



2階に着いたらすぐ寝室へ。

寝具には拘りたいタチな俺は、ベッドにだけは金を使っている。

そこらの寝床よりは居心地が良いだろう。



「....」




服を掴む手が、少し強くなった気がした。




「どしたん今日はもう寝るだけやで。俺は別室やから1人でゆっくりしてや」



「...」



返答はなく、ただただ手だけが震えている。

なんとなく不安なんだろうとは思う。しかしこれ以上くっついていると理性が保たない。



今すぐにでもこの子の存在を自分の生活の根幹に据えたいような、抱きしめて離したくないような気持ちに支配されてしまいそうだ。

そうなってしまった方が心地よい予感があるのも辛い。明らかに普段の俺の思考からは乖離していると訴える理性に、でも別に良いんじゃないかと囁く本能とでもいうべき圧倒的な堕落の誘い。




少なくとも俺はベッドの外だ。それが最低条件。




「甘えたやねぇ。んなら部屋にはおったるから、予備の毛布だけ持ってくるわ。すぐ戻るよ。約束する」



ベッドへそのまま下ろし、中腰からゆっくりと立ち上がる。

細い指は最後まで俺を掴んでいたが、俺が立つのを止めるほどの力はなく、滑るように離れた。



軽く頭に手を置いてからドアへ向かい、そのまま廊下へ出る。




「....」




別室へ歩を進めながら状態異常回復のアイテムを取り出し、一気に煽る。

特殊な状態で無い限りこれが万能薬だ。



あのゲームではこんな異常状態なんてなかったが、ものは試し。



ほんのりと甘い液体を胃に流し込み、瓶の中身が無くなる。

すると、心に蟠っていた何かが引いて思考がスッキリと晴れた。




(効いた!...あぁクソ...)




これで解決。

そう思ったのはほんの一瞬で、コップに水が溜まるが如く瞬く間に、感情が心の底から湧いて出てきた。



(でもこれでハッキリしたな。これはなんらかの効果でもたらされた状態異常。「魅了」...そう言うのがしっくりくるな。あのゲームの魅了はただ攻撃不能になるだけやったが...)



VRゲームである都合上他ゲームのように味方を攻撃するような仕様は難しかったのか、魅了とは名ばかりで下僕にされるような事はなかった。

だが魅了と言うならこの効果の方がしっくりはくる。俺は今あの子に攻撃するなんて言語道断だし、恐らくあの子を攻撃する誰かがいればぶん殴ってでも止めるだろう。



誰が使っているかと言われれば一番怪しいのはあの少年だ。

だが腑に落ちない。そんなわけはないのだ。



だって、こんな力があればあの子はもっと上手くやれたろう。



この世界の人間に、少なくともあの場にいた人達にこれを耐えられる状態異常耐性があるとは思えないし、裏切ったり手放したりする筈がない。

こんな能力、俺ですら悪用が思いつくレベルだ。他人の持つ全てでもっと楽に生きていけたはずだ。



俺だけに効くような効果でもあるまいし、こんなの持っていたならあんなに黒髪だからと遜ることもなかったろう。



そうなるともう誰にも心当たりがない。

いや、もしあるとすれば....月の導き。

あの少年が言っていたワードだ。

俺とあの少年が共通で持っている技能。夜目が効くカラクリ。ここに原因がある可能性がある。



今持っている情報から仮に断定するならば、恐らくはこれだろう。先程も感じたが、夜空の月を見上げる時の安心感や心地良さはこれに似た性質がある。目を閉じると強まるのは正にそれだ。



(そうなると原因調べる必要があって、そもそも夜目が効く理由なんて知らんし多分長丁場。俺は暫くこのまま...いや待てよ?さっき状態異常回復で一回マシになったって事は...)



ハッと思いつき、装備欄を弄る。

今は何も付けてはいないが、これを状態耐性に寄せれば....


魅了耐性に特化した防具で装備欄を埋める。

予想通りだ。一つセットするたびに僅かではあるが気持ちは落ち着いて行き、全てセットする頃にはかなり抑えられた。



仄かな好意は残るものの、これなら日常生活にも支障が無いレベルだろう。

後は装備の重ね着設定を弄れば、神父の様な日常生活で着るには無理がある服装は消え、効果だけが残る。



「よし」



懸念点はなんとかなった。

部屋へ戻ろう。


アイテム欄から旅用の毛布と枕を取り出す。

部屋から出たかったのは対応策を考えたかっただけで、使う可能性のある持ち物は全てアイテムBOXに仕舞ってある。

おかげで家はとても殺風景になっているが、ベッドさえ置ければ何処でも住めるのでとても便利だ。



寝室に戻ると、目の前にビクリと硬直する少年がいた。どうやらドアに手をかけようとしていたらしい。



「おーどうしたん。飲みもんか食いもんでも欲しなった?もしトイレやったら出て直ぐやで」



「あ、いえ....」



苦笑する。薬を飲んで装備欄を弄って、その程度全然時間は使っていない。

何か出る用事はあったはずだが、気を使っているのだろうか。



こうして見ると、黒髪といい遠慮がちな態度は前世で可愛がった祖母の家の黒猫を思い出す。俺にも懐いてくれた数少ない動物で、都度撫でたくなるのはそのせいかもしれない。

また頭に手を置こうとして、ふと指先の痛みに気付いた。



見れば爪が剥がれかけている。盾を出すのが遅くて喰らい弾きになっていたのか。もしくは衝撃で盾が器具に当たってしまったのか?

先程の魅了効果に余程気を取られていたのだろう。今の今まで気が付かなかったとは。



マジマジと見ていると、少年も手に気付いた様で顔色が曇った。




「全然気付かんかったわ。鈍感でいかんね」




見てしまったからかジワジワ痛むが、既に血は止まっていて特に問題は無い。

回復薬で治せば直ぐだが...




(いや、これであのおっさんに嫌がらせしたろ。もう今爪外れかけやし、ほっといても剥がれるやんな。フフフ...)




良いことを思いついた。

平民の俺に何があっても立場は揺るがないだろうが、多少の嫌がらせにはなるだろう。



どうせ爪は生え変わる。

善意であれ悪意であれ、俺はサプライズにかける苦労は苦に感じないタイプだ。気長に待ってやろうじゃないか。



くすりと笑って、床に枕を置いた。

枕の上に毛布を重ね、高くする。こうしないと眠りが浅いのだ。




「俺が床ね」




こちらへ踏み出そうとしているのが見えたため先に牽制する。

これは彼の為というよりは俺の心の安寧のためだ。



「でも僕は」



「今日会った子に床で寝ろとか俺が無理やねん。君も居心地悪いかもやけど、今日は我慢してな。明日君のベッド買いに行こ」




そう言って床に寝転ぶ。

彼はしばらくそのまま立っていた様だが、目を閉じて待っているとベッドに戻る音が聞こえてきた。

本当に渋々。そう思っているのが如実に伝わる間だった。




ふと気になり、最後に尋ねる。




「そういえば、名前聞いてなかったな。俺はアルフィー。君は?」




「僕は...アルセア。アルセアです」




「そっか。おやすみ、アルセア君」




目を閉じるとやはりあの感覚は増すが、思考がおかしくなる様な事はもうない。

むしろ彼の存在から感じる仄かな安心感は、俺の眠りを良くしてくれる予感さえあった。




明日寝る時もこの子がいる。

悪い事じゃないかもしれない。




元来寝付きが悪い俺のこの日の入眠は、とても早く、そして深かった。




ーーーーーーーーー


本気で帰ろうと思えば1人で帰れた筈なので

まぁ自分自身の選択ですよね


よかったね。アルセア君。

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