後輩の家①
須東春斗は、子供のころからモテてきた。
恋人に困ったことはない。向こうから近づいてきてくれるから。
『お前はいずれ、我が社を継ぐ。そのときのために、今から勉強しておきなさい』
父は厳しい人だった。母は父に逆らえなかった。
『はい、お父さん。任せてください』
そして彼は、父の教えに従って生きてきた。それに疑問も持たなかった。大学生になるまでは。
『はじめまして、須東くん』
そのとき、付き合っていた女の子が所属していたサークルの先輩。それが西野秋子だった。
『……はじめまして』
彼氏がいるとは聞いていた。だが、それでも。まったく興味を持たれないのは初めてだった。
『今度、飲みに行きませんか?』
『いいねえ。みんなで行こー。あ、そうだ。今、友達から、須東くんのことが気になってるって相談されてて……。1回だけでも、会ってくれない?』
それは、ちょっとしたからかいのつもりだった。なのに彼女は、自然にかわした。その笑顔を見た瞬間から、他の女性のことを考える余裕は消えた。
――――――
「ちゃんとお金は支払うから、今日だけ泊まらせてくれる?」
そう言った彼女は、少し年を取っていたものの、以前と同じ笑顔を見せる。
「……お金なんて、取りませんよ」
そう言うのが精一杯だった。ドキドキと、胸が高なる。
(秋子さん……。前より綺麗になってる気がする)
本当は、彼女と結婚したかった。けれど、恋人がいたから諦めていた。それなのに。
(どうして、こんなに素敵な人を捨てられるんだ)
細い手を取って、須東は彼女を連れていく。駅から徒歩数分の場所にある、マンションの最上階に。
「……ホントにいいの? ここ、かなり高い部屋じゃない?」
「大丈夫ですよ。土地も含めてこの建物は、すべて僕の物ですので」
「……そっかあ……」
秋子は少し引きながら、クツを脱いで家に上がる。綺麗に片づいたリビングには、大きなモニターとソファ、長机が置かれていた。
「何か見ますか? 映画に、ドラマ……何でも好きなものを流しますよ」
リモコンを持った須東が言う。秋子は困ったように眉をよせた。
「ううん、大丈夫。気にしないで」
ソファのすみに腰を下ろして、彼女は背を丸める。須東は黙って手に持っていたリモコンを置いて、冷蔵庫を開けにいった。
「……なら、せめてお酒をお出しします」
とっておきのワインを開けて、彼はグラスに酒をそそぐ。そして生ハムやチーズと一緒に、リビングに持っていった。
「乾杯しましょう」
「……うん」
2人はグラスを持ち上げて、軽く打ち合わせる。軽い音が聞こえて、透明な器の中で、赤い液体が波うった。
(いい香り。美味しいな……)
秋子はグラスを傾けて、ゆっくりとお酒を飲み始めた。




