後輩
「……こんなところに1人でいるってことは、まだ決まった恋人はいないの?」
「そうなんです。なかなか、これだって人が見つからなくて」
須東は照れたように笑った。通りすがる人たちが、チラチラとこちらを見てくる。そんな状況も懐かしいなと、秋子は思った。
(誰でも見とれるイケメンだもんな……)
当時から彼氏がいて良かった。そうでなければ、絶対に妬まれて、イジメられていただろう。そう思ったところで、彼女はまた涙をこぼした。
「……秋子先輩?」
須東が心配そうに眉を下げる。女の子たちから可愛いとか、庇護欲をそそられるとか言われる顔の出来上がりである。
ちなみに男の子たちからは、レベルが違いすぎて、比べてもみじめになると言われていた。
(相変わらず、キラキラしてるな……)
秋子はただ、まぶしさを感じるだけである。住む場所が違うというのは、学生時代から思っていた。
「……何でもないよ。須東くんは、もう卒業してるよね。お父さんの会社を継いだんでしょ?」
この顔の良さで、親が大企業の社長なのだから、もはや言うことはない。秋子は先輩として、頼られたときに手を貸すくらいでちょうどいいと思っていた。
「はい。今は仕事が楽しいです」
「いいね、そのまま頑張れ」
明るく笑って、須東が返す。その爽やかさに、秋子は心が洗われるような気がした。
「私も君を見習うよ。とりあえず家に帰って、荷物をまとめてこないとな……」
「……何かあったんですか?」
上目づかいで、彼が問いかけてくる。彼女はできるだけ、自然に返した。
「いやぁ、実はフラレたんだよね〜。荷物とか、同棲してる家に置いてて、行き場もないし……。今日ってクリスマスだから、泊まれる場所がなくて困ってたんだよ」
「……へえ」
須東が目を細める。吸いこまれそうな黒い瞳に見すえられて、秋子は硬直してしまった。
「なら、僕の家に来ませんか。先輩にはお世話になりましたし、そのお返しがしたいんです」
そっと肩に手を置かれて、耳もとでささやかれる。女の子たちから羨ましがられるシチュエーションだ。
「……変わらないねえ」
彼は前から、距離がものすごく近かった。彼氏がいなければ勘違いしてしまっていたかもしれないと思うくらいに。
(……いや、今は勘違いしてもいいのか。別れてるし)
そう思って、秋子はそっと目を伏せた。
(でも、須東くんに申し訳ないな。私は可愛くもないし、綺麗でもないから)
釣り合わないのはわかっている。なので彼女は、期待しないことにした。
「ありがとう」
だけど、その提案は素直に嬉しい。だから秋子は、笑顔で返す。
「ちゃんとお金は支払うから、今日だけ泊まらせてくれる?」




