浮気
「別れよう」
雪也からそう言われたのは、付き合って10年目のクリスマスだった。きっかけは、彼が他の女の子と一緒にいたのを見てしまったこと。
「もう、お前のことを女として見れないんだよ」
「……そうなんだ」
心は妙に、静かだった。波だたない。感情が動かない。それは、なんとなく予感していたからかもしれない。
「ごめんなさい、秋子さん……。私のせいで」
彼を奪った女性は、しおらしくしている。悪かったなんて、全然思ってないくせに。
「……もういいです。選んだのは、雪也なので」
そう言わないと、自分が悪者になる。秋子は早口で伝えて、その場を去った。1秒でも、彼らの前にいる時間を減らしたかったから。
(私はどうしたら良かったんだろう)
学生時代から付き合っていた。仕事を理由に、話す時間がなくなって。行為の回数も少なくなって。彼が、中途で会社に入ってきた、若い彼女の教育係になった。
(……わかってた)
街で見かけたのは偶然だ。だけど、その前からおかしいとは思っていた。
(出張の回数が多かったし、ご飯のときもスマホを手放さなかったし。……寝る場所だって、しばらく前から別だったし……)
ポロポロと、秋子の両目から涙がこぼれる。彼女は立ち止まって、ポケットからハンカチを出した。
(でも、よりにもよって、今日か)
クリスマスソングが流れる街。カップルで、並んで歩いている人も多い。そんな中で1人になるのは、心細くて寂しかった。
「……ダメだ、帰ろ……」
と言いかけて気づいた。彼と同棲しているので、自宅に帰るということは、彼と顔を合わせる可能性があるということであると。
「……いや、ホテル……は、無理か」
今は12月24日。ホテルはどこも埋まっているだろう。つまり何か。詰みである。
「ネカフェにでも行くか……」
24時間営業のネットカフェなら、まだ空きはあるかもしれない。そう思って、彼女は肩を落としながらトボトボと歩く。交差点に差しかかったところで、後ろから男の声が聞こえた。
「……あれ、秋子先輩?」
「……え?」
彼女は立ち止まって振り返る。目の前にいる男は、空想の世界から抜け出てきたようなイケメンだった。切れ長の目に高い鼻。外国人とのクォーターで、その金髪は天然なのだと、以前に聞いたことがある。
「……須東くん?」
1度会えば、絶対に忘れない顔だ。大学時代も、色んな女の子から声をかけられていた。
秋子は同じサークルの先輩で、なぜか彼に懐かれていたから、彼女たちから紹介してくれと頼まれたことが何度もある。
可愛い後輩。綺麗な先輩。明るい同級生。紹介した全員と付き合って、すぐに別れていた須東を見て、秋子は恋愛の難しさを感じたものだ。




