後輩の家②
「うう……雪也……。なんでぇ……」
アルコールが回り始めて、秋子はポロポロと、涙をこぼしだした。
「……先輩……」
春斗はその背をなでながら、スッとハンカチで目もとをぬぐう。
「辛かったですね」
「……ゴメンね、須東くん。式には呼ぶって言ったのに……」
「……いいんですよ、僕のことは」
式という言葉に、彼はピクリと眉を動かした。
(先輩が先に結婚するまで、僕も待とうと思っていたのに)
父親から、何度も言われていた。早く結婚して、子供を持てと。だが、彼はそのたびに断っていた。秋子のことが、諦めきれなかったからだ。
(ウェディングドレスを着て、あの男の隣に並ぶ先輩を目に焼きつけて……それから、僕も結婚に向けて動くつもりだった。先輩が幸せになるのを見届けて)
だというのに、結婚式の招待状はいつまでたっても届かなかった。
(その上、探偵を雇って調べさせたら、あの男は先輩を置いて遊び歩いていたからな)
怒りがわき上がってくる。秋子は気づいていなくても、春斗は彼氏の裏切りを知っていたから、よけいに許せなかった。
「……先輩」
だから彼は、懸命に声をかけ続ける。
「僕はあなたの味方です。だからどうか、頼ってください。家が見つかるまで、ここに住んでくださっていいので……」
ウソだ。本当は、ずっと一緒にいたいと思っている。
(だけど、先輩はあの男のことが本当に好きだったから。きっと今は、何を言っても混乱させてしまうだけだろうな)
そう思った春斗の耳に、秋子の声が入りこむ。
「……ホント、ゴメンね。私なんかに、貴重な時間を使わせちゃって。せっかくのクリスマスなのに」
「いいんです。僕にとっては、秋子先輩と一緒にすごす時間が1番楽しいので」
自分を責めるような言葉に、彼はすかさず言い返した。彼女は泣きながらうつむいて、無理やり笑みを浮かべる。
「そんなの、雪也にも言われたことないよ」
「……秋子さん」
涙をぬぐうだけでは足りない。春斗は彼女の心を救いたかった。なのに彼女は、いまだに昔の男のことを考えている。
(……どうして僕は、あいつに勝てないんだ。あんな奴に)
顔も年収も、彼より上である自覚はある。それに、秋子のことを思う気持ちも。なのに彼女は、フラレた今も、過去の男の名前をだす。
(僕なら、あなたを悲しませたりしないのに)
今も静かに泣き続けている彼女を見つめて、春斗は奥歯を噛みしめた。
(秋子さん。僕はあなたが幸せになってくれるなら、喜んで手を離すつもりでした。でも、こんな形で、あなたか1人になるのなら。もう2度と、あの男のもとには帰さない)
大切な女性の横顔を見ながら、彼は心の中で誓う。今度は自分の手で、彼女を必ず幸せにすると。




