帰り道②
(……ウソだぁ)
秋子は信じられなかった。春斗は誰の目から見ても完璧な男だ。
「……須東くんには、他にいくらでも相手がいるでしょ」
「ええ、そうですね。だけど僕は、先輩がいい」
「……どうして?」
「先輩は……秋子さんは、僕自身を見てくれるから」
彼はハッキリと言いきった。その意味がわからず、彼女は首をかしげてしまう。
「……須東くん自身を?」
「はい。僕は自分で言うのもなんですが、恵まれているほうだと思います。でも、本当に欲しいものは手に入らなかった」
彼は目を伏せて言った。周囲の客が、2人のほうを見てひそひそとささやく。
「……ドラマか何かの撮影かな?」
そんな声が聞こえて、秋子はハッとした。彼女は慌てて、彼を連れてレジに向かう。
「……ごめん、須東くん。変なこと聞いて」
「……いえ。僕のほうこそ、すいません」
セルフレジの列に並んで、2人は小声で話を続けた。秋子はうつむいて、ポツリとつぶやく。
「欲しいものって、何?」
春斗は黙って微笑んだ。キラキラと輝く笑みが、とてもまぶしい。
(……うわあ)
彼女は何も言えなくなった。あまりにも、顔が良すぎて。
(絶対わかってるもんな……)
彼は自分の武器を自覚している。正直に言えば、悪い気はしない。
(雪也と付き合ってたときは、考えないようにしてたけど。今はもう、別れてるし)
春斗は優しい後輩だと思う。思う、のだが。
(……だけど雪也も、最初は優しかったんだよな)
結局、秋子は別れた男のことを考えてしまった。会計を終えてから、彼女は品物を袋に詰める。
「あのね、須東くん。私は君が思うほど、良い女の子じゃないと思う」
「そんなことは……」
「あるの」
否定しようとした彼を遮って、秋子は続ける。
「だって今でも、雪也のことが忘れられない。君は、イヤでしょ。こんな女」
「まったく問題ありませんが」
春斗は笑顔で即答した。秋子はポカンと口を開ける。
「……えっ?」
彼女の手から買い物袋を取り上げて、彼はその耳もとでささやく。
「そもそも、10年も付き合った相手を、すぐに忘れろというほうが間違っていると思いませんか?」
低く、甘い声に、秋子は耳まで赤くした。その手を取って、春斗は告げる。
「僕はあなたがそばにいてくれるなら、どんな形でもいいです。他に行くところがないんでしょう? 僕と同棲してください」
「……はい」
彼女はうなずくしかなかった。心臓が、まだドキドキしている。
(……わかんない)
そこまで求められるほど、自分に価値があるとは思えなかった。けれど彼の手は、とても熱くて。
(本当に、私のことが好きなのかな)
春斗に引きずられていきながら、秋子は初めて、彼のことを意識した。




