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第3話「病院、ギャル、同レベル」

「てな感じで吸血鬼になっちゃったみたいなの、私」


「存じ上げております、ご両親から伺っていますので」


「あ、そうよね。輸血まで貰ってるわけだし」



 3話連続で大体同じ入り方をしているところで今日の舞台は馴染みの小児科。


 レンカが3歳の頃から診ているかかりつけの先生は何故か付き添いが親ではなくミハネなのも了承済みである。


 それから楽しげに椅子をくるくる回すレンカを尻目に、彼女はパソコンのモニターにレントゲンやら何やらを映し出した。



「それでは本題から……とはいえ、15年程前にご両親にお伝えしたものと何ら変わりませんが」


「あら、全然良いわよ。だって私聞いてないもの!」


「そうですか。なら、まずは結論から。見た目は大差ありませんが、中身はもう笑ってしまうくらい人間ではありません。例えるのなら、全ての内臓を同(・)じ(・)結(・)果(・)を(・)出(・)力(・)す(・)る(・)全(・)く(・)違(・)う(・)パ(・)ー(・)ツ(・)に置き換えたようなものでしょうか」


「……? ……あ、テセウスの船みたいな? それなら知ってるわよ! ドラマで見たもの!」


「いえ、全く違います。レンカさんは最初からテセウスの船ではなかったということです」


「え……じゃあ、ゴールデンフリースってこと?」


「アルゴー号でもなく」


「つまり今のレンカちゃんは収斂進化のようなもので、この肺のようなものも肺(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)何(・)か(・)でしかない、ということですか?」


「はい、そうなります。この肉体の内、どこかが肺の役割を、どこかが胃の役割を、といったように対応はしているはずなのですが。ブラックボックス化、という表現が適切でしょうか」


「ミハネミハネ、これって褒められてる?」


「うん。すごく褒められてるよ」


「ほんと? やった!」



 可愛い幼馴染のためなら簡単に解釈を歪める、それが徒花ミハネという女である。



「……あ、先生! それで、今後気をつけたほうが良いことってあるの? ほら、太陽に気をつける、とか!」


「いえ、特にありません。はっきり言ってしまえば今のレンカさんは人類の上位互換ですので。日光も普通に浴びて頂いて結構です」


「へえ、上位互k……待って私お日様浴びていいの!? 吸血鬼なのに!?」


「はい。ビタミンDを生成する機能は残っているようなのでむしろ積極的に浴びてください。最近はまた部屋に籠り気味になっていると伺いましたし」


「いやいやいやいや! だって実際、お日様の下出ると気分悪くなっちゃうのよ私!?」


「ノセボですね」


「のせ……?」


「思い込みです」


「思い込み? ああそう、ならよかっ……私思い込みで体調崩してたの!? 吸血鬼だって知らなかったのに!?」


「でも吸血鬼と知る前から吸血はしてたと」


「どこ情報よ!?」


「お隣の幼馴染さんから」


「身内じゃない!!」


「6歳からしてました」


「補足は良いのよ別に!!」


「……ああ、それと不老不死みたいですね」


「そんな重要なのを最後に回さないでもらえるかしら!!?」



 一通りツッコミ終えた後、膝を抱えてうずくまり、ぜぇぜぇと肩で息をするレンカ。


 ミハネはすかさずカバンから酸素ボンベを取り出すと一気に吸い込み、そのままレンカに口移しした。


 なぜ自らの口を経由したのか。



「ふぅ…………、……つまり、今の私は人類を越えたアルティメット姫宮レンカってことよね? そういうことよね!?」


「そうですね。そう称して差し支えないと思います」


「やったやった! 私アルティメットよ! ミハネ!」


「うん。良かったね、レンカちゃん」


「もう明日から「姫宮・A・レンカ」とかに改名しちゃおうかしら」


「UltimateはUですが」


「あ、そうなの? じゃあ「姫宮・U・レンカ」ね」



 顔文字みたいで可愛いね。



「そこはお任せしますが、検査は以上になります。特に処方箋などもないのでこのまま気をつけてお帰り下さい」


「ええ。じゃあね、先生!」


「それでは、失礼します」



 こうして病院にあるまじき騒がしさの面談を終え、彼女達はギリ怒られないかな、まあ競歩でもギリ見逃されるだろうなくらいのスピードで診察室を後にした。



◇◇◇



 その帰り道のことである。



「どっっせぇぇぇぇぃぃっっっっ!!!!」



 気合の入った掛け声とともに帰路についていた2人、というかレンカの背を強襲する一つの影。


 その手に握られているのは現代社会ではあり得ないし持ってちゃいけないし存在そのものもあんま受け入れられないであろう、それはそれはいかついバトルアックス。


 夕焼けにキラリと光る銀細工仕立てのそれは僅かにレンカの横を逸れ、深々とアスファルトに突き刺さった。



「……な、な……な、何よ急に!!? 本当に何!!? 私、私脳天真っ二つにされるところだったんだけど!!?」


「うわぁ美少女!!? やっばやらかした!!? てか騙された!!? やばいやばい!! とりま超絶ごめんなさい!!!!」



 加害者が被害者以上に驚き、焦り、土下座するというこれまたあり得ない構図。


 金髪ロングのポニーテールが特徴的な彼女はしばらくアスファルトに額を擦り付けた後に「あっやば」と我に返り、地面に刺さりっぱなしにしてはいけないサイズの刃物をアスファルトから引っこ抜き、背中のギターケースのようなものに仕舞い込む。


 それから彼女はもう一度土下座した。



「えっと……まず、名前から、よね? あ、私は姫宮レンカって言うのだけど」


「名前……? あ、あたしの話か! 騎西(きさい)イヅモ! 16歳! 今は……その……また騙されたというか、バカやっちゃったというかぁ……」


「……私、死にかけたのよね?」


「はいぃ……殺しかけましたぁ……」


「……何で? 初対面よね? 多分」


「あっ、もうバリバリ初対面です……その、あたし! ヴァンパイア探してて!」


「!!?」


「まあ、どうしてですか?」


「なんかSNSのDM?で、「この辺にヴァンパイアいるらしい」って送られてきて!」



 スパムメールってやつじゃない?


 スパムメールだね。


 2人のアイコンタクトが交差する。


 当たってない?


 当たってるね。


 もう一度交差する。


 答えづらい、しかも嘘をつくのが得意じゃないレンカが考える中、イヅモは少し恥ずかしがりながら告げた。



「その……友達に、なりたくて。ヴァンパイアと。ほら、喧嘩したら仲良くなれる?的な!」


「? それは、どういうこと?」


「あ、えっと……、……ま、いっか! あたし、フランケンシュタインでして!」


「!?!!??!!!!????」


「……?」


「あはは……その……マジ、なんですけど」



 イヅモは上着の袖を捲り、肘関節を2人の方へ見せた。


 そこは確かに人間のそれではないボールジョイントで接続され、脚も同様にくっきりとパーツ同士の境目が見えている。


 彼女は頬を掻き、苦笑いしながら話を続けた。



「その、突然変異?的なやつで、両親は全然人間なんですけど! あたしだけこんな感じで! なんか前のクラスの友達にも言えなかったし、怪物の友達欲しいなって思って!」


「ああ、そういう……なら、騙されたってどういうこと?」


「いや、雰囲気とかで「あ、絶対ヴァンパイアだ!」だと思ったんですけど、いや、こんな美少女が怪物なわけないし、めっちゃ人間襲っちゃったな〜……って感じでして……」


「……なら、合ってるわよ。私、吸血鬼(ヴァンパイア)だもの」


「……へ、え、いや、え? マジで? えっと……レンカ?だっけ。え、ヴァンパイアなん?」


「ええ。ほら」



 小さくしゃがむと、見上げるような体勢で頬に指を引っ掛けるレンカ。


 ぐいっと引き伸ばされた奥には確かに上下揃った鋭い犬歯。


 イヅモは目を輝かせた。



「私でよかったら、SNS交換する? 私も怪物の友達は……いえ、ミハネもある意味怪物だけれど、ともかくこういうお友達は初めてだもの」


「え、ほんとにいいの……? あたし、レンカぶっ殺しかけてるのに……?」


「良いわよ。なんか死なないらしいし。ところであなたどこ高?」


「夏休み明けから滝夜女学院ってとこ転校するの。ここから結構近い!」


「あら、私達もそこよ。ね、ミハネ?」


「うん。これからよろしくね、イヅモ」


「うん! マジでごめん、そして2人ともよろしく!!」



 こうして、ちょっとバカな怪物が一人増えた。

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