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双醒のアルマ ――最弱の少年と、眠れる二つの古代武装――  作者: 白峰ユウ
双醒のアルマ III 記録を喰らう獣

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第54話 街へ出すな

 警報が鳴ったのは、調査室を出て間もなくだった。


 短く3回。


 ギルドの中が一気に騒がしくなる。


「地下区画、隔壁破損!」


 廊下の向こうから職員が走ってきた。


「継ぎ獣が移動しています!」


「どこへ?」


「上です!」


 嫌な言葉だった。


 大型測定晶のある区画から上へ。


 その先にあるのはギルド。


 さらに外へ出れば。


「街だ」


 フィアが立ち上がる。


 俺もベルを背負い直した。


「人は?」


「地下職員は退避中です。ただ、裏手の作業区画にはまだ何人か」


「先に避難させてください」


 考えるまでもなかった。


「継ぎ獣は俺たちが止めます」


 職員が一瞬迷う。


「ですが」


「倒せるとは言いません」


 そこは言えない。


 前に負けている。


「でも、街へ出るまでの時間は稼げます」


 フィアが俺を見る。


「稼ぐだけ?」


「まずは」


 それでいい。


 今必要なのは勝つことじゃない。


 街へ出さないことだ。


 俺たちは裏手へ走った。


 途中でセイルとすれ違う。


「ルカ君!」


「セイルは避難を!」


「分かっています。負傷者は表側へ移します」


「トワも頼む!」


「キュイ!」


 セイルの足元でトワが鳴いた。


 ついて来ようとする。


「今回はダメ!」


「キュイ!」


「危ないから!」


「キュイ!」


「話聞いてる!?」


 フィアがトワを抱き上げ、そのままセイルへ渡した。


「お願い」


「任せてください」


「クルルル……!」


 ものすごく不満そうだった。


 でも今は構っていられない。


 裏手の扉を抜ける。


 そこはギルドの資材置き場になっていた。


 木箱。


 空の樽。


 訓練用の丸太。


 壊れた荷車。


 その奥に、普段使われていない隔離訓練場がある。


「こっちなら街から離れてる」


 フィアが周囲を見る。


「入口も1つ?」


「大きいのは1つ。横に作業用の小扉がある」


「閉じられる?」


「たぶん」


 問題は。


 どうやって継ぎ獣をそこまで連れてくるか。


『来るぞ』


 ベルの声。


 すぐに分かった。


 奥の扉が揺れる。


 ドン。


 もう1度。


 ドンッ!


 蝶番が歪む。


「フィア」


「分かってる」


 俺はベルを下ろす。


 クロも抜いた。


 けれど。


 構えたところで気づく。


 まただ。


 俺が前。


 フィアが後ろ。


 ベルで受けて。


 クロで追う。


「……やめよう」


 フィアが横を見る。


「何を?」


「この形」


 ベルを少し下げる。


 フィアも弓を構えるのをやめた。


 直後。


 扉が吹き飛んだ。


 木片が散る。


 黒い身体が飛び出してくる。


「来た!」


 継ぎ獣。


 さらに大きく見えた。


 背中の甲殻は厚くなり、前脚の長さも左右で違う。


 白い線が胸の奥で薄く光っている。


 継ぎ獣は俺たちを見る。


 一瞬。


 止まった。


 構えが違うからか。


「街側は?」


 フィアが小声で聞く。


「後ろ」


「じゃあ、そっちへ行かせない」


「うん」


 それだけ。


 継ぎ獣が動く。


 俺へ。


 そう思った。


 違う。


 横を抜ける。


「街!」


 フィアが走る。


 俺も追う。


 でも継ぎ獣は、俺たちと戦う気がない。


 ただ外へ向かっている。


「なんでだ?」


『知らねえ!』


 ベル。


 でも。


 戦闘記録を食べるためだけなら、測定晶のある場所へ戻るはずだ。


 外へ出る理由が分からない。


 今は考えるな。


「フィア、先!」


「うん!」


 フィアが壁際の木箱へ足をかけた。


 跳ぶ。


 継ぎ獣の前へ降りる。


 普通なら危険だ。


 でもフィアは短剣を抜かない。


 弓も構えない。


 代わりに、横に積んであった空樽を蹴った。


 ゴロゴロと転がる。


 継ぎ獣の前へ。


 一瞬だけ進路がずれる。


「こっち!」


 俺は反対側から声を出した。


 継ぎ獣が俺を見る。


 ベル。


 クロ。


 たぶん、それも覚えている。


 なら。


 俺は攻撃しない。


 そのまま後ろへ走った。


『逃げんのか!?』


「違う!」


 隔離訓練場へ向かう。


 継ぎ獣が追う。


「来た!」


 でも途中で止まった。


「……まずい」


 継ぎ獣の顔が動く。


 俺。


 訓練場。


 出口。


 比べている。


『読まれたな』


 ベルが言う。


「たぶん」


 前なら。


 俺が囮になる。


 相手を追わせる。


 狭い場所へ誘導する。


 何度も使ってきた。


 それも俺の戦闘記録にある。


 継ぎ獣は来ない。


 逆に街側へ身体を向ける。


「フィア!」


「見えてる!」


 矢が飛ぶ。


 継ぎ獣は先に避けた。


 街側へさらに近づく。


「くそっ」


 いつもの誘導は使えない。


 だったら。


 周りを見る。


 資材。


 荷車。


 縄。


 木箱。


 何か。


 決まった形じゃないもの。


「ルカ!」


 フィアが叫ぶ。


 継ぎ獣が走る。


 街側の扉まで、もう遠くない。


 俺は近くの荷車へ飛びついた。


「これ!」


『何すんだ!?』


「知らない!」


『知らないのかよ!』


「今考えてる!」


 荷車を押す。


 重い。


 でも動く。


 フィアがすぐ反対側へ回った。


「どこに?」


「前!」


「雑!」


「俺もそう思う!」


 2人で押す。


 荷車が継ぎ獣の進路へ滑り込む。


 継ぎ獣が跳ぶ。


 予想通り。


「上!」


 フィアが言う。


 俺はベルを持ち上げる。


 受けるんじゃない。


 斜めに出す。


 継ぎ獣の着地点をずらす。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 重い。


 腕が沈む。


 でも正面から受けていない分、耐えられる。


 継ぎ獣が資材置き場の奥へ落ちる。


「そっち!」


 フィアが走る。


 何をするのか分からない。


 でも追わない。


 俺は継ぎ獣を見る。


『右』


 クロ。


「行く」


 右へ回る。


 継ぎ獣がこちらを向く。


 俺はクロを振らない。


 そのまま木箱を蹴る。


 崩れる。


 継ぎ獣の左側が塞がる。


「ルカ!」


 フィアの声。


 振り向く。


 資材置き場の奥。


 隔離訓練場の大扉。


 開いている。


「なるほど!」


「遅い!」


 フィアは大扉の反対側から縄を引いていた。


 吊られていた訓練用の丸太が揺れる。


 継ぎ獣がそちらを見る。


 今だ。


「こっちだ!」


 俺はクロで木箱を斬った。


 中身は空。


 派手な音だけが響く。


 継ぎ獣の視線が俺へ戻る。


 次。


 どうする。


 考えた瞬間。


『左』


 クロ。


 任せる。


 左へ。


 継ぎ獣も動く。


 俺が避ける。


 そこへ丸太。


 フィアが縄を離した。


 ドンッ!


 直撃はしない。


 継ぎ獣が避ける。


 避けた先。


 隔離訓練場の入口。


「入った!」


 フィアが走る。


 俺も続く。


 継ぎ獣がこちらを見る。


 また戻ろうとする。


「ベル!」


『任せろ!』


 大盾を横向きにして入口へ押し込む。


 完全には塞げない。


 でも幅を狭くできる。


 継ぎ獣が止まる。


 その一瞬で。


「閉める!」


 フィアが扉の横のレバーを引いた。


 重い鉄扉が動く。


 継ぎ獣が気づく。


 遅い。


 走る。


「来る!」


 俺はベルを構える。


 今度は受ける。


 衝撃。


「ぐっ!」


 足が滑る。


『小僧!』


「まだ!」


 扉が下がる。


 あと少し。


 継ぎ獣が押す。


 強い。


 ベルが軋む。


「ルカ!」


「大丈夫!」


 大丈夫じゃない。


 でも。


 あと数秒。


『右脚』


 クロ。


「見えた?」


『うん』


 継ぎ獣の右前脚。


 踏み込みが深い。


 俺はクロを振る。


 斬らない。


 床。


 脚のすぐ横を叩く。


 石片が跳ねる。


 継ぎ獣の足が一瞬浮く。


「今!」


 フィアが横から木箱を蹴り込む。


 足元へ。


 継ぎ獣が体勢を崩す。


 俺はベルで押した。


「中へ戻れ!」


 継ぎ獣の身体が後ろへ滑る。


 鉄扉が落ちる。


 ガァン!


 閉まった。


 静かになる。


 俺はベルへ体重を預けた。


「……入った」


「うん」


 フィアが息を整える。


「最初の誘導、完全に読まれてたね」


「見事に」


「でも途中からは遅れてた」


「うん」


 いつもの囮。


 いつもの射線。


 いつもの動き。


 そこは全部避けられた。


 でも荷車。


 縄。


 丸太。


 木箱。


 その場で使ったものには、一瞬ずつ反応が遅れた。


「練習、意味あったな」


「少しは」


『俺様が一番頑張ったがな!』


「はいはい」


『軽い!』


 でも。


 終わっていない。


 鉄扉の向こうから。


 ガリ。


 硬い音。


 俺とフィアが同時に扉を見る。


「何してる?」


『……削ってるな』


 ベルの声。


 継ぎ獣は止まっていない。


「時間はそんなにないか」


「たぶん」


 フィアが弓を握り直す。


 隔離訓練場の中なら、街の人間を巻き込みにくい。


 作業区画の避難も進んでいる。


 ここなら。


 戦える。


「倒す?」


 フィアが聞いた。


 俺はすぐには答えなかった。


 継ぎ獣を止める。


 できるなら倒す。


 でも、無理に勝とうとして街へ逃がしたら意味がない。


「最優先は、ここから出さない」


「うん」


「倒せるなら倒す。でも、無理なら止める」


「了解」


 それだけでいい。


 細かい形は、また中で変える。


 俺はベルを持ち直した。


「ベル」


『おう』


「クロ」


『うん』


「行ける?」


『当然だ!』


『行く』


 フィアも俺の隣へ並ぶ。


 でも。


 いつもの位置じゃない。


 少し前。


 俺より半歩だけ先だった。


「ルカ」


「何?」


「今日は私が前かも」


「そうなるかもな」


 どちらからともなく笑う。


 ほんの少しだけ。


 鉄扉の向こうで、また音がした。


 ガリ。


 ガリ。


 今度は大きい。


 俺はクロを抜く。


 ベルを構える。


 ただし、どちらもいつもの角度じゃない。


「開けるぞ」


 継ぎ獣を街へ出さない。


 それだけを、全員で共有して。


 俺たちは鉄扉の前に立った。

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