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双醒のアルマ ――最弱の少年と、眠れる二つの古代武装――  作者: 白峰ユウ
双醒のアルマ III 記録を喰らう獣

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第51話 決めない練習

 練習場所に選んだのは、ギルド裏の小さな訓練場だった。


 普段は新人冒険者が武器の扱いを覚える場所らしく、木製の人形や低い障害物、吊り下げ式の標的がいくつか置かれている。今日は端の区画を借り、俺たち以外は入らないようにしてもらった。


「それで、何するの?」


 フィアが弓を持ったまま聞く。


「中央の標的に触れれば終わり」


 俺は訓練場の奥を見る。


 丸い木板が1枚、柱から吊り下げられている。そこまでの間には木箱、低い柵、古い丸太が適当に並べられていた。


「倒すんじゃなくて?」


「触れるだけ」


「簡単そう」


「そう思うだろ?」


 だからこそ、ちょうどいい。


 敵の強さを考えなくていい分、俺たちの動きだけを見られる。


 ベルとクロの秘密を知っているセイルにも来てもらった。戦闘には加わらず、端の椅子に座って観察している。


 トワはその足元だ。


「キュイ」


「お前は見てるだけな」


「キュイ」


 分かっているかは怪しい。


「始める?」


 フィアが聞く。


「うん。まずは普通にやってみよう」


『普通にって言ってる時点で嫌な予感するぞ』


「うるさいな」


 俺はベルを構えた。


 中央まで行く。


 それだけ。


「フィア、右の木箱まで。そこから奥の標的を見る。俺は左の柵を回る。ベルは前を塞いで、クロは」


『小僧』


「何?」


『もう細けえ』


 始める前から言われた。


「でも最低限だろ」


 フィアが少し笑う。


「続けていいよ」


「なんか腹立つな」


 合図を出す。


「行く!」


 俺が左へ走る。


「フィア、今右!」


「分かってる」


「その箱の横から矢を」


「ルカ」


「何?」


「前」


 言われて振り向く。


 木製の棒が横から飛んできた。


「うわっ!」


 ベルで受ける。


 訓練場に取り付けられている仕掛けだ。一定の位置を踏むと、横から丸太が振れてくる。


『ほら見ろ!』


「今のは見えてなかっただけだ!」


「フィア、そこ動かないで! 俺が先に」


「もう動いてる」


「え?」


 フィアは別の箱へ移っていた。


「なんで?」


「そこからだと標的見えなかったから」


「あ、そうか」


 俺も進む。


「じゃあ、そのまま左から」


「ルカ」


「今度は何?」


「クロ」


『右』


「右?」


『今、右』


 クロに言われ、反射的に身体をずらす。


 足元を紐が走った。


 引っかかっていたら転んでいた。


「危なっ」


 そこから先も似たようなものだった。


 俺がフィアへ指示を出している間に自分の足元を見落とす。ベルの向きを細かく考えている間に、クロが別の道を見つける。


 しかも俺が「次はこう」と言う頃には、フィアはもう別の判断をしている。


 結局。


「止めよう」


 半分も進まないうちに俺が言った。


「早いね」


「分かってる」


 最初の位置へ戻る。


 セイルが何かを書き留めている。


「何書いてる?」


「ルカ君が忙しそうだった、と」


「それ記録する必要ある?」


「ありますよ」


「ないだろ」


 フィアが水を飲みながら言う。


「全部見ようとしすぎ」


「だよな」


「私の位置までずっと見なくていいよ」


「でも、フィアがどこにいるか分からなくなったら困るだろ」


「必要な時に言う」


「……それで大丈夫?」


「やってみないと分からない」


 それもそうか。


「じゃあ次」


 俺は少し考える。


「今度は好きに動こう」


「好きに?」


「中央に触る。それだけ」


「本当にそれだけ?」


「うん」


『極端だな』


 ベルの言葉が刺さる。


「まずやってみる」


 2回目。


「行く!」


 今度は何も指示しない。


 俺は右へ。


 フィアは左へ走った。


 クロが何か言いかけたけれど、俺は自分で考えようとしてそのまま進む。


 木箱を越える。


 丸太を避ける。


 次の障害物。


「ルカ!」


 フィアの声。


 見る。


「そっち危ない!」


 どっちだ。


 迷った瞬間、足元の板が沈んだ。


「しまっ」


 横から丸太。


 ベルを上げる。


 間に合った。


『だから情報まで捨てるな!』


「分かってる!」


 その間にフィアは先へ進んでいた。


 でも、俺とは反対側。


 距離が開きすぎている。


「フィア!」


「何?」


「遠い!」


「ルカがそっち行ったんでしょ!」


「そっちが左行ったんだろ!」


「先に動いたのルカ!」


「どっちでもいい!」


 全然よくない。


 俺が中央へ向かう。


 フィアも同時に方向を変える。


 今度は同じ通路へ入った。


「狭い!」


「ルカが来たんでしょ!」


「またそれ!?」


 2人で止まる。


 その瞬間、上から吊り下げられていた袋が落ちてきた。


「うわっ!」


「きゃっ!」


 砂の入った袋が俺とフィアの間へ落ちる。


 直撃は避けた。


 でも完全に足が止まった。


『ひでえな』


「言うな」


 ベルの声が楽しそうなのが余計に腹立つ。


「戻ろう」


「うん」


 2回目も失敗。


 今度はセイルが、口元を隠しながら何かを書いていた。


「笑ってる?」


「いいえ」


「絶対笑ってるだろ」


「興味深いなと思いまして」


「何が?」


 セイルが眼鏡を押し上げる。


「ルカ君は仲間を使うのは上手い。でも、任せるとなると急に不安になるんですね」


「使うって言い方ひどくない?」


「では、役割を組み立てるのが上手い」


「そっちで」


「ただ、今度は任せることを意識しすぎて、必要な情報まで渡さなくなった」


「……それは自分でも分かった」


 さっきは極端だった。


 細かく言いすぎた次に、ほとんど何も言わなくなった。


 それじゃ連携じゃない。


「必要なことだけ言えば?」


 フィアが言う。


「例えば?」


「危ない。右。下がる。そのくらい」


『大きい危険は俺様が言ってやる』


 ベルが胸を張る。


『右』


 クロも言った。


「今は何もないだろ」


『練習』


「紛らわしい」


 フィアにはクロの声は聞こえていないけれど、俺の反応で察したらしい。


「クロも参加するんだ」


「本人はそのつもりみたい」


「じゃあ、次はそれで」


 3回目。


 中央の標的へ触れる。


 目的は同じ。


 今度は誰がどこから進むかも決めなかった。


「行こう」


「うん」


 走り出す。


 フィアが先に左へ寄った。


 俺は反対へ行こうとして、前方の丸太を見る。


『左、危ねえぞ』


 ベル。


「フィア、左危ない!」


「見えた!」


 フィアが急に前へ出た。


 弓を構える。


 撃つのかと思った。


 違った。


 弓の端で垂れていた紐を引っかけ、そのまま横へ引く。


 丸太の仕掛けが先に作動した。


「そんな使い方する?」


「今思いついた」


 それでいい。


 俺は空いたところへ入る。


『右』


 クロ。


 俺は考えず、右を見る。


 狭い隙間。


「こっち行ける」


「行って」


「フィアは?」


「別から行く」


 それだけ。


 俺は右へ。


 フィアは左。


 今度は離れても不安にならなかった。


 前に集中する。


 低い柵。


 越えようとした瞬間。


「ルカ、止まって!」


 止まる。


 目の前を木の棒が通過する。


「助かった!」


「次行って!」


 進む。


 標的まで残り半分。


『小僧、前』


 ベル。


 吊り下げられた袋。


 俺はベルを前へ出した。


 受けるのではなく、横へ押す。


 袋の軌道が変わる。


 その空いた場所へ、フィアが飛び込んできた。


「そこ使う?」


「空いたから」


「なるほど」


 いつの間にか、今度はフィアが俺より前にいる。


 普段なら俺が前だ。


 でも、戻そうとは思わなかった。


「フィア、そのまま!」


「分かった!」


 フィアが走る。


 俺は後ろからついていく。


 その時。


『左』


 クロの声。


 左に、小さな隙間。


 そこからなら標的へ一直線だ。


「クロ、そっち?」


『うん』


「分かった」


 フィアへ声をかけようとする。


 でも。


 やめた。


 フィアはもう別の障害物を越えている。


 俺はクロが選んだ道へ入った。


「ルカ?」


「別から行く!」


「了解!」


 それだけで通じた。


 狭い。


 ベルを正面に構えると通れない。


『俺様どうすんだ!?』


「横!」


『雑!』


 ベルを横向きにして押し込む。


 盾というより、完全に壁板だ。


『俺様はもっと格好よく使え!』


「今は我慢して!」


 通路の先。


 標的が見えた。


 でも同時に、フィアも反対側から来ている。


「どっち?」


 思わず口から出た。


 フィアが俺を見る。


「早い方!」


「分かった!」


 俺が走る。


 フィアも走る。


 どちらが触れるかは決めていない。


 俺の前へ最後の丸太が振れてくる。


「っ!」


 ベルで受ける。


 止まる。


 その横をフィアが抜けた。


 手を伸ばす。


 パン。


 中央の木板が鳴った。


「……触った」


「触ったね」


 俺たちは少し遅れて笑った。


『俺様が止めたからだぞ!』


「分かってる」


『もっと感謝しろ!』


「ありがとう、ベル」


『……お、おう』


 素直に言うと弱いらしい。


『私も』


 クロが小さく言う。


「もちろん。クロも」


『うん』


 俺たちはスタート地点へ戻った。


 セイルが記録板を閉じる。


「どうでした?」


「さっきよりは、だいぶ」


「うん」


 フィアも頷いた。


「ルカ、途中から私の位置ほとんど見てなかったでしょ」


「見てなかった」


「怖くなかった?」


「少しは」


 でも。


「必要になったら言ってくれると思ってた」


「言ったでしょ」


「うん」


 それで間に合った。


 俺が全部見なくても。


 全部指示しなくても。


 フィアは危険を見つける。


 ベルは大きな攻撃を見る。


 クロは間合いや道を見つける。


 俺は、その全部を自分の頭の中だけで完成させなくていい。


「もう1回やる?」


 フィアが聞く。


「やろう」


「今度は同じ道、使わない方がいい?」


 少し考える。


「いや」


 俺は首を振った。


「それも、その時でいい」


 使えるなら使う。


 変えた方がいいなら変える。


 無理に違うことをする必要もない。


 継ぎ獣に読ませないためだけに戦い方を崩せば、今度は俺たち自身が崩れる。


「目的は同じ」


 中央の標的を見る。


「そこまで行く」


「了解」


『任せろ!』


『うん』


 トワまで立ち上がった。


「キュイ!」


「お前はまだ見学」


「キュ……」


 露骨に尻尾が下がる。


「そんな顔するなよ」


 少し笑ってから、俺はもう一度ベルを持ち上げた。


 次に誰が前へ出るかは分からない。


 どの道を使うかも、その時にならないと分からない。


 それでいい。


 大事なのは、同じ場所を目指していること。


 その途中で誰かが別の道を選んでも、置いていかないことだ。


「行こう」


 今度は、誰にも順番を言わなかった。

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