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双醒のアルマ ――最弱の少年と、眠れる二つの古代武装――  作者: 白峰ユウ
双醒のアルマ I 始まりの迷宮 ~レベル1の少年と眠れる二つの古代武装~』

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第17話 三人の作戦

 暗闇の中で、2つの眼が止まっていた。


 近い。


 灰牙狼はすぐには飛び込んでこない。


 こっちを見ている。


 俺も動かなかった。


 右肩が痛む。


 左足も。


 長くは持たない。


 それでも。


 焦って動けば、また読まれる。


 ベル。


 クロ。


 短槍。


 壁。


 床。


 瓦礫。


 使えるものを、もう1度見る。


 灰牙狼は速い。


 正面のベルを嫌う。


 上を越える。


 壁を使う。


 同じ手には、2度乗らない。


 攻撃した後は距離を取る。


 でも。


 傷は入った。


 そして。


 跳んだ瞬間だけは。


 地面にいる時より、動く先が少しだけ読める。


「……跳ばせる」


『あ?』


 ベルが俺を見る。


「地面にいるから速いんだ」


『そりゃ走ってんだからな』


「違う」


 灰牙狼を見る。


「地面にいる間は、どっちへでも変えられる」


 右。


 左。


 止まる。


 跳ぶ。


 全部。


 こいつが選べる。


「でも、空中なら」


『途中で変えにくい』


 クロ。


「うん」


『前と同じじゃねえか?』


 ベルが言う。


 前にも。


 盾の上を越えさせた。


 そこで斬ろうとした。


「前は偶然だった」


『今回は?』


「待つ」


 ベルを高く構える。


 右肩が軋む。


 痛い。


 でも。


 持ち上げる。


「上を空ける」


『お前を晒すのか?』


「少しだけ」


『少しでも食われたら終わりだぞ』


「その前に斬る」


 クロを見る。


「いける?」


『……分からない』


「それでいい」


 正解じゃなくていい。


 まず。


 試す。


     ◇


 ベルを高く構える。


 正面はほとんど塞がった。


 その分。


 上が空いている。


 俺は大盾の横から半身だけ出す。


 灰牙狼は動かない。


 見ている。


「……やっぱり警戒してる」


『学習してやがるな』


 前に。


 ベルの上を越えた。


 その後。


 壁際で傷を入れられた。


 こいつも覚えている。


 なら。


 ただ待つだけじゃ来ない。


 俺は1歩。


 前へ出た。


「ルカ」


 クロの声。


「大丈夫」


 もう1歩。


 左足が痛む。


 でも。


 顔には出さない。


 灰牙狼の耳が動いた。


 低く。


 身体が沈む。


『来るぞ』


「分かってる」


 ベルを上げたまま。


 動かさない。


 灰牙狼が地面を蹴る。


 速い。


 一直線。


 正面。


 そのままベルへ。


 違う。


『上』


 クロ。


 灰牙狼が跳んだ。


 狙い通り。


 ベルの上。


 俺は黒剣を抜く。


 着地する場所。


 そこへ。


「今――」


 振る。


 でも。


 灰牙狼の身体が途中でずれた。


「え?」


 壁。


 前脚。


 一瞬だけ触れる。


 蹴る。


 軌道が変わった。


『右!』


 ベル。


 遅い。


 灰牙狼が俺の横へ落ちる。


「っ!」


 身体を捻る。


 黒剣を返す。


 刃が灰色の毛へ触れた。


 浅い。


 ほんの少し。


 そのまま爪が来る。


 ベルは間に合わない。


 後ろへ下がる。


 左足。


 痛い。


 踏ん張れない。


 爪が脇腹をかすめる。


「ぐっ……!」


 熱い。


 浅い傷。


 でも。


 また増えた。


 灰牙狼はすぐに離れた。


 追わない。


 距離を取る。


 こっちを見る。


「……外した」


『惜しかったぞ!』


「惜しいじゃ駄目だ」


 右肩が重い。


 呼吸も荒い。


 もう何回も。


 同じ失敗はできない。


     ◇


『俺様を前へ出せ』


 ベルが言う。


『次は全部受ける』


「駄目」


『だが』


「同じことするな」


 ベルが止まる。


「誰か1人で何とかするのはやめた」


『……』


「さっき決めただろ」


 ベルは黙った。


 灰牙狼を見る。


 クロも。


 ずっと同じ場所を見ていた。


『壁』


「何?」


『触った』


「……壁?」


 灰牙狼が跳んだ時。


 途中で。


 1度だけ壁へ足をついた。


 そこで。


 軌道を変えた。


 俺はその壁を見る。


 黒い表面。


 途中に。


 細い亀裂が走っている。


 迷宮で見つけた、あの変な傷じゃない。


 もっと普通の。


 古いひび割れ。


 その近くに。


 灰牙狼の爪跡が残っている。


「あそこを使ったのか」


『うん』


 跳んだ。


 そのまま落ちると思った。


 でも。


 途中で壁を使った。


 だから。


 外れた。


 俺の視線が下へ落ちる。


 短槍。


 ゴブリンから回収したもの。


 投げた。


 杖にもした。


 でも。


 まだ使える。


「……刺すんじゃない」


『何がだ?』


 ベル。


 俺は短槍を持ち上げる。


 槍先を見る。


 違う。


 反対。


 石突き。


 柄。


 壁の亀裂を見る。


「固定する」


『壁に?』


「うん」


 灰牙狼が壁を蹴る位置。


 そこへ。


 短槍を噛ませる。


 突き刺すんじゃない。


 足場を崩す。


 踏む位置を減らす。


 軌道を。


 少しだけ。


 ずらす。


「倒せなくていい」


『何?』


「槍だけで倒す必要はない」


 ほんの一瞬。


 姿勢が崩れれば。


 それで。


 黒剣が届く。


     ◇


 俺はベルを見る。


「ベル」


『おう』


「全部受けなくていい」


『じゃあ何する』


「逃げ道を決める」


『……逃げ道?』


「お前を見れば、あいつは避ける」


 ベルの正面。


 そこへ。


 灰牙狼はもう来たがらない。


「なら、お前を置いた場所は」


『あいつが選びにくい』


「そう」


 正面へ出せば。


 上。


 右へ寄せれば。


 左。


 高く構えれば。


 低い方。


 低くすれば。


 上。


「お前で防ぐんじゃない」


 ベルを見る。


「どこへ行くか、決める」


 ベルが少し黙った。


 それから。


 口元が上がる。


『……面白え』


「できる?」


『俺様を誰だと思ってやがる』


「喋る盾」


『そこじゃねえ!』


「静かに」


『……悪い』


 灰牙狼を見る。


 まだ動かない。


 時間は少ない。


 次。


「クロ」


『何』


「斬るのは最後だけでいい」


『分かった』


「タイミングは」


 言いかける。


 俺が言う。


 そう言おうとして。


 止めた。


 今まで。


 俺が全部決めていた。


 ベルの角度。


 動く方向。


 斬る瞬間。


 でも。


 距離を一番正確に見ているのは。


 クロだ。


「俺が言うまで待つ?」


 クロが少し考える。


『違う』


「え?」


『私が見る』


 黒い瞳が。


 灰牙狼へ向く。


『私が、今を言う』


 俺は一瞬。


 何も言えなかった。


 命令を。


 そう言っていたクロが。


 今は。


 自分から。


 判断すると言った。


「……分かった」


 それだけ答える。


「任せる」


 クロが小さく頷いた。


     ◇


 問題は。


 準備だった。


 短槍を壁へ固定する。


 言うだけなら簡単だ。


 実際には。


 亀裂が細い。


 短槍の石突きを押し込む。


「っ……!」


 右肩が痛む。


 片手じゃ力が入らない。


『ルカ俺様を置け』


「でも」


『俺様は逃げねえ』


「そういう意味じゃ」


『分かってる』


 ベルが暗闇を見る。


『俺様が見てる』


 大盾を床へ置く。


 重さが消える。


 両手。


 使う。


 短槍の石突きを亀裂へ当てる。


 押す。


 入らない。


「くそ……」


『少し上』


 クロ。


 位置を変える。


「ここ?」


『もう少し』


 ずらす。


『そこ』


 押し込む。


 少し。


 入った。


 柄を両手で握る。


 右肩。


 痛い。


 無視する。


「っ……!」


 体重をかける。


 石突きが。


 亀裂へ噛んだ。


 さらに。


 角度を変える。


 壁から斜めへ。


 短槍の柄が突き出す。


 高さ。


 灰牙狼が壁を蹴った位置。


 ちょうど。


 その辺り。


「これで……」


 完璧じゃない。


 蹴れば外れるかもしれない。


 避けるかもしれない。


 気づくかもしれない。


 でも。


 踏める場所は減る。


 ほんの少し。


 それでいい。


『来る』


 クロ。


 早い。


 俺はベルへ手を伸ばす。


「もう?」


『近い』


 大盾を持ち上げる。


 右肩が悲鳴を上げる。


「っ……!」


『お前、その腕で大丈夫か?』


「大丈夫じゃない」


『おい』


「でも、やる」


 ベルを低めに構える。


 短槍を固定した壁は。


 俺の右。


 灰牙狼がベルの正面を避けて。


 上へ。


 そこから壁。


 そう動けば。


 槍がある。


『お前が餌になるのか』


「違う」


『どう違う』


「俺1人じゃない」


 ベルがいる。


 クロがいる。


 すぐそばに。


「逃げないだけ」


『足動かねえもんな』


「そこは言わなくていい」


『事実だ』


 灰牙狼の眼が見える。


 来た。


     ◇


 俺はベルを少し左へ。


 正面を空ける。


 いや。


 空けたように見せる。


 灰牙狼が止まる。


「見てる」


『ああ』


 すぐには来ない。


 警戒している。


 当然だ。


 俺たちが何かしていることくらい。


 分かっているのかもしれない。


 なら。


 見せる。


 俺は1歩前へ出る。


 左足に痛み。


 無視。


 もう1歩。


 ベルは低い。


 上が空いている。


 灰牙狼の身体が沈んだ。


『来る』


 クロ。


 俺は動かない。


 ベルも。


 灰牙狼が走る。


 速い。


 正面。


 ベルを見る。


 直前。


 軌道が上へ。


「……来た」


 跳ぶ。


 狙い通り。


 ベルの上。


 その先。


 壁。


 短槍。


 灰牙狼が身体を捻る。


 壁へ。


 足を伸ばす。


 俺は黒剣へ手をかけた。


 今。


 そう思った。


 でも。


 クロは言わない。


 灰牙狼の足が。


 壁へ近づく。


 短槍のすぐそば。


 クロが目で追う。


 一拍。


『……まだ』

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