↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双醒のアルマ ――最弱の少年と、眠れる二つの古代武装――  作者: 白峰ユウ
双醒のアルマ I 始まりの迷宮 ~レベル1の少年と眠れる二つの古代武装~』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/57

第10話 初めての共闘

 先頭のゴブリンと目が合った。


「ギャッ!」


 短い声が通路に響く。


 もう隠れる意味はない。


 俺はベルを前へ出し、黒剣を抜いた。


 相手は2体。


 前にいる1体は短剣。


 もう1体は少し後ろ。床より高くなった瓦礫の上に立ち、拳ほどの石を握っている。


 通路は狭い。


 俺の後ろには長い坂。


 横へ抜けられる道もない。


 戻ろうとすれば、背中を見せることになる。


「……やるしかない」


『任せろ!』


 ベルの声が頭に響いた。


『正面だ! 俺様を出せ!』


 言われるまま、大盾を正面へ構える。


 ほとんど身体が隠れた。


 同時に。


 敵も見えなくなった。


「見えない!」


『見えなくても防げる!』


「相手の位置が分からないだろ!」


『来る』


 クロの声。


「どっち?」


『前』


「それは分かってる!」


 足音が近づく。


 盾の横から覗こうとした瞬間。


『右!』


『左』


「どっちだよ!」


 ベルとクロの声が重なった。


 一瞬、判断が遅れる。


 右から衝撃。


 ガンッ!


「っ!」


 投げられた石がベルに当たった。


 同時に。


 左側からゴブリンの短剣が伸びる。


 盾をそちらへ振る。


 重い。


 大盾そのものは動く。


 でも、方向を変えるまでが遅い。


「くそっ」


 間に合わない。


 身体を引く。


 短剣の切っ先が服の脇を裂いた。


 皮膚までは届いていない。


 けど、近い。


『前だ!』


『届かない』


「何が!」


 黒剣を振る。


 空を切った。


 ゴブリンは半歩外。


 届いていない。


「そういう意味か!」


 次の石。


 ベルを上げる。


 ガンッ!


 腕に衝撃が走る。


 その間に前のゴブリンが寄ってくる。


『右!』


『近い』


「待って!」


 頭の中へ同時に声が入ってくる。


 ベルは大きい。


 クロは短い。


 どっちも間違ってはいない。


 なのに。


 何を言っているのか整理する前に、次が来る。


 ゴブリンが踏み込んだ。


 短剣。


 俺はベルを前へ押し出す。


 刃が盾へ当たる。


 甲高い音。


 止めた。


 でも。


 その向こうが見えない。


「どこだ!」


『左!』


 身体ごと盾を振る。


 重さに引かれて足がずれた。


 ゴブリンはもうそこにいない。


 瓦礫の上から石が飛ぶ。


「っ!」


 今度は肩を引いて避けた。


 石が後ろの壁へ当たり、乾いた音を立てる。


 ベルが怒鳴った。


『受けろ!』


「全部は無理だ!」


 また短剣。


 盾。


 投石。


 クロの声。


 ベルの声。


 自分の足元。


 敵の位置。


 全部を同時に見ようとして。


 何も見えていない。


 俺は後ろへ下がった。


     ◇


 ゴブリン2体もすぐには追ってこなかった。


 前の1体は短剣を構えたまま、こっちの様子を見ている。


 後ろの1体も、次の石を拾っていた。


 強い敵じゃない。


 少なくとも、今まで何度か戦ったゴブリンと大きく違うようには見えない。


 なのに。


 やりにくい。


 俺は呼吸を整える。


 今までは。


 見るのも俺。


 決めるのも俺。


 動くのも俺だった。


 今は違う。


 ベルが危険を知らせる。


 クロも位置や距離を教えてくる。


 その情報が増えた分。


 俺が処理できていない。


「ベル」


『なんだ!』


「全部言わなくていい」


『なんだと?』


「大きい攻撃と、危ない方向だけ教えて」


『正面は俺様に任せろ!』


「それでいい」


 クロを見る。


「クロは、俺の剣が届く距離だけ教えて」


『……距離』


「うん。敵の位置が変わった時も」


『分かった』


 2人が黙る。


 静かになった。


 俺は通路を見る。


 敵は2体。


 前に1体。


 後ろに1体。


 なら。


 同時に相手をしなければいい。


 大盾を見る。


 真正面に出せば、視界を全部隠す。


 だったら。


「ベル、斜めにする」


『正面の方が安全だろ!』


「見える方がいい」


『俺様の面積を最大限使え!』


「半分で十分」


『半分とは何だ!』


 大盾を少し右へ傾ける。


 通路の半分以上が塞がれた。


 左側には、人1人通れるくらいの隙間。


 前のゴブリンが俺を見ている。


 短剣を握り直す。


 来る。


「クロ」


『うん』


 俺は黒剣を構えた。


 今度は振らない。


 待つ。


     ◇


「ギャアッ!」


 ゴブリンが走ってきた。


 正面。


 そのままでは盾へぶつかる。


 途中で左へずれた。


 狙った通り。


 通れる場所はそこしかない。


『来るぞ!』


 ベル。


 分かってる。


 大盾を動かさない。


 ゴブリンが隙間へ入る。


 短剣を振り上げた。


『届く』


 クロ。


 まだ。


 俺は待つ。


 ゴブリンがもう1歩踏み込む。


 肩が動く。


 斬ってくる。


 盾の端を少しだけ前へ押した。


「ギッ!」


 ゴブリンの腕が盾へぶつかった。


 短剣の軌道がずれる。


 身体も傾く。


『今』


 踏み込む。


 黒剣を横へ振った。


 刃がゴブリンの脇腹へ入る。


 手応え。


 軽くはない。


 骨に当たった感触が腕まで返ってくる。


 それでも止めない。


 最後まで振り抜いた。


 ゴブリンが床へ倒れる。


「……1体」


『見たか! 俺様の防御!』


「まだ!」


 後ろ。


 もう1体いる。


『左』


 クロの声。


 身体をずらす。


 直後。


 石が頬の横を通った。


 壁へ当たる。


「今のことか!」


『うん』


「もう少し早く!」


『……分かった』


 瓦礫の上のゴブリンが、次の石を探している。


 距離はある。


 向こうは投げられる。


 俺は届かない。


 このままでは不利。


「近づく」


『俺様を前へ!』


「いや」


『なんでだ!』


「正面から行ったら、ずっと石を投げられる」


 瓦礫を見る。


 高さは腰くらい。


 その手前まで細い通路が続いている。


 俺はベルを持ち直した。


 正面じゃない。


 さらに斜め。


「押す」


『何をだ?』


「道を」


『……道?』


 走る。


 ゴブリンが石を投げる。


『上!』


 ベル。


 盾を少しだけ上げる。


 ガンッ!


 石が当たる。


 衝撃。


 腕が沈む。


 でも止まらない。


 そのまま前へ。


 ゴブリンが次の石へ手を伸ばす。


 間に合わないと判断したのか、瓦礫から下りようとする。


 俺は大盾を横へ押し出した。


 逃げようとした先を塞ぐ。


「ギッ!」


 ゴブリンが止まる。


 右は壁。


 左はベル。


 後ろは瓦礫。


 前。


 俺。


 逃げ道が1つになった。


『近い』


 クロ。


 ゴブリンが腰を落とす。


 石を捨てた。


 腰から小さな棍棒を抜く。


 振り上げる。


 俺は黒剣を構える。


 距離。


 足元。


 肩。


 棍棒の軌道。


 全部見る。


 ゴブリンが踏み込んだ。


 俺は半歩だけ横へ。


 棍棒が空を切る。


『届く』


 まだ。


 相手が振り切る。


 身体が流れる。


 今なら。


『今』


 同時だった。


 俺もそう思った。


 踏み込む。


 黒剣を振る。


 刃が胸元を捉えた。


 ゴブリンの身体が後ろへ倒れる。


 瓦礫へぶつかり。


 動かなくなった。


 静かになる。


 俺は黒剣を下ろした。


「……終わった?」


『終わった!』


 ベルが大声で答える。


 クロは倒れた2体を見る。


『……動いてない』


「そっか」


 息を吐く。


 腕が重い。


 ベルを持っていた左腕も。


 黒剣を握る右手も。


 力が入りっぱなしだった。


 指を開く。


 少し震えている。


 勝った。


 でも。


 楽じゃなかった。


     ◇


『見たか!』


 ベルが胸を張る。


『俺様の完璧な守り!』


「完璧ではなかっただろ」


『何がだ!』


「最初、服切られた」


『浅い!』


「俺が避けたからな」


『俺様がいたから浅かった!』


『ルカが動かした』


 クロが言う。


『細けえな!』


「クロの方が正しいと思う」


『小僧!』


 少しだけ笑いそうになった。


 でも。


 すぐに息を整える。


「さっきのままだったら危なかった」


 ベルを見る。


「ベルが悪いって話じゃない」


『当然だ』


「クロも」


『……うん』


「俺もだ」


 最初は、2人の言うことを全部聞こうとした。


 それで遅れた。


「俺1人で全部見るのも無理だし、2人が全部言うのも無理だ」


『俺様ならできる』


「俺が処理できない」


『……それは鍛えろ』


「今すぐは無理」


 ベルが不満そうに唸る。


「だから、とりあえず決めよう」


 大盾を指す。


「ベルは、大きい攻撃と危ない方向」


『任せろ!』


 クロを見る。


「クロは、届く距離と敵の位置」


『分かった』


「動くかどうかは俺が決める」


 2人を見る。


 ベルは腕を組み。


 クロは静かに頷いた。


 完璧じゃない。


 たぶん次は、また違う失敗をする。


 でも。


 さっきよりは。


 少しだけ戦えそうだった。


     ◇


 倒したゴブリンから魔石を回収する。


 小さい。


 見慣れた低位個体のものだった。


 俺は袋へ入れ、装備を確認する。


 服の脇が裂けている。


 身体に傷はない。


 右肩の痛みも、さっきまでと大きく変わってはいなかった。


 黒剣にも異常なし。


 ベルは。


『俺様は当然無傷だ!』


「聞いてない」


『聞け!』


 クロを見る。


「クロも大丈夫?」


『うん』


 少し歩いてから、さっきの戦いを思い出す。


「クロ」


『何』


「途中で『左』って言っただろ」


『うん』


「あれ、石が来てたってこと?」


『そう』


「次は、もう少し早く教えて」


 クロが一瞬黙る。


『……次は、そうする』


「頼む」


 それだけだった。


 でも。


 命令を待つ返事じゃなかった。


 ベルにも言う。


「あと、全部受けなくていいからな」


『受けられるなら受ける』


「避けられるなら避ける」


『受けた方が確実だ』


「盾が平気でも、俺の腕が平気じゃない」


『む……』


「今みたいに必要な時だけ頼む」


 ベルは納得していない顔だった。


『好きにしろ』


「そうする」


『ただし、危ねえ時は俺様を出せ』


「分かった」


 完全には噛み合っていない。


 それでも。


 最初よりはずっとましだ。


 大盾を持ち直し、俺たちは先へ進んだ。


     ◇


 しばらくして。


 クロが足を止めた。


『……ルカ』


「何?」


 床を見ている。


 灯具を下げる。


 足跡があった。


 ゴブリン。


 さっき倒した2体と同じくらいの大きさ。


 でも。


 1つじゃない。


 2つでもない。


 俺はしゃがみ込む。


 重なっている。


 向きも1方向だけじゃない。


 この辺りを何度も行き来している。


『多い』


 クロが呟く。


『何体だ?』


 ベルが聞く。


 足跡を数える。


 完全には分からない。


 重なっているし、同じ個体が何度も通った可能性もある。


 それでも。


 少なくとも。


「……5体はいる」


 さっきまでとは違う。


 2体がたまたま歩いていたんじゃない。


 ここを。


 複数のゴブリンが使っている。


 俺は立ち上がった。


 黒い通路の先を見る。


 静かだ。


 まだ。


 何も聞こえない。


 それでも。


 さっきより大盾の取っ手が重く感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。