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隣に住む高嶺の花のクラスメイトは俺にだけ世話焼きな幼馴染のソングライター  作者: 月城曇


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6/7

彼女の歌と夏休みの予定

「今日はお鍋にします!」


 スーパーに着くなり美穂は宣言するように言って、ポンポンと食材を入れていく。そして一通り食材を入れ終わると今度はエナジードリンクとカロリーメイトをカゴに入れていく。


「もしかして、今日は徹夜でもするのか?」


 エナジードリンクとカロリーメイトのセットは美緒が徹夜で作業する時の必須セットだと言っていたことがあった。


「うん、今日で仕上げまでやって音源渡しちゃいたいから」


「……そっか」


 明日は普通に登校日だ、つまり寝ないで作業した後に登校していつもの振る舞いをするということになる。そういうことは過去にも何度かあったが、美緒はもう慣れているのかなんなくこなしてみせる。


 俺は横目で隣を歩く彼女を見る。こういう時、彼女が誰も居ない部屋でパソコンに向き合っている姿を想像してしまう。なにか労いが出来ればいいのだが、直接言うと決まって断られるので頭の中に閉まっておくことにする。





 美緒が曲の骨組みを作っている間、俺は自分の部屋のリビングで鍋の準備をしていた。一通り具材を入れて煮込んでいる最中、スマホを手に取り美緒のチャンネルを開くと動画欄を一番下までスクロールして出てきた動画を再生する。


 雨のち晴れというなんの飾り気のないシンプルな題名の弾き語り曲、一日一回は聴くようにしているのでもはやライフワークと言っても良いかもしれない。


 ただ一人のために作られたこの歌を聴くと今でも救われるような気がする──


「なに、熱心に聴いてるの?」


「あ、いや美緒の曲を復習してたんだ。前回の曲も俺は気に入ってるよ」


「偉い! 流石は私のファン第一号だね。でも前回の曲は他の曲と比較するとあまり再生されなかったんだよ~」


「アルゴリズムのきまぐれじゃないかな、それに百万再生は充分再生されてる方だぞ」


 危ないなんとか誤魔化せたみたいだ。最初期の曲をいまだに毎日聴いているのは知られて困ることではないけど制作背景が特殊であるために気恥ずかしいのだ。




「あー早く夏休みにならないかなー、あちち」


 豆腐を口の中でほくほくしながら美緒は唐突に夏休みの話題を振ってくる。


「確か初めてライブするんだよな」


「違うよ! いや違わないけど私が楽しみなのはそれじゃないよ」


 顔出しなしの音楽ライブ、昔はどうだったか知らないが近年では珍しくなくなってきている。ちなみにチケットの販売は既に始まっていて俺は開始の瞬間まで待機し即座に手に入れている。楽しみだし、どんどん大きくなっていく美緒の姿にワクワクが止まらなかった。


「ええとそれで高野くん、今年は浴衣を着てください」


「お断りします」


「どうしてなの、いいじゃん! 昔は普通に着てたじゃん!」


「んーなんかなぁ恥ずかしくなってきたというか」


「毎年、今年こそはと楽しみにして普段着で来られた時の気持ち考えてみてよー」


「んん、まあそんなに着てほしいなら今年だけ着るよ、花火大会の数日後にライブだしな」


 例年通りなら譲らないのだが、労いに丁度良いかもしれないと思ったのと単純に箸を手放してポコポコと俺の身体を叩いてくる美緒が少し微笑ましかった。


「え、やったーやった」


「あー喜んでもポコポコするんだな」


 今のうちに鍋の中でめぼしい具材を食べ進めておこう、と俺は美緒にポコポコされながら箸を動かした。



 食事を終えた俺たちはリビングのソファに並んで腰掛け、美緒が作ってきた曲のインストを再生する。といってもまだシンプルな楽器構成の音源だ。イントロが終わると同時、美緒が歌い始める。


 声量はカラオケの時よりもかなり抑えめだけど、子守歌を歌うみたいに優しくてどこか繊細な歌声は例えシンプルなバックミュージックだったとしても聞き入ってしまう引力がある。


「どうかな……?」


「文句のつけようがないね。いちリスナーのあれだけど、このまま進めても良いと思う」


「よ、良かった~微妙だったらどうしようかと……私は高野くんの感覚を信じてるからこのまま進めるね」


 俺が「おう、頑張れ」と言うと美緒は「じゃあ戦いに行ってくる」とソファから立ち上がり玄関の方へ向かった。


「明日は朝食作らなくていいからな」


「うん、ねえちょっと」


 手招きされて美緒との距離を縮めると彼女は俺の手を握ってしばらくそのまま立っていた。


「なんか、昔から高野くんの手って頼もしいよね」


「実際は結構なへたれなんだけどな」


「ふふっ知ってる、じゃあまた学校でね夏休み楽しみにしてる」


「その前にテストがあるけどな、まあでも心配ないか」


 美緒はこくりと頷いてからどこか名残惜しさを残すように玄関から出て行った。しんっとした玄関に俺はしばらく立っていた。顔を合わせて話せるのが明日の学校終わりになるかもしれないというだけで俺は少し寂しさのようなものを感じている。


(流石に重症だよな……)


 俺は軽く頭を左右に振って玄関から離れた。

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