第一章 第7話 『 運命に抗え 1 』
瞬間。
世界が”反転”した。
轟音。
空気が裂ける。
黒い雨が止み、崩れかけていたビル群が、軋みながらも静止する。
目の前の景色が、ノイズ混じりに歪む。
空。
黒い腕。
街。
全部が、古いブラウン管みたいに明滅していた。
「――っ!」
頭の中へ大量の”何か”が流れ込んでくる。
知らない言葉。
数式。
観測記録。
終末ログ。
そして、死んだ自分の記憶。
脳が焼けるように熱い。
「ぁ、あぁああああッ!!」
絶叫。
だが、流れは止まらない。
――耐えろ、耐えてくれ。
『 』が祈る。
頭の中に、声が響く。
――抗え。
――運命に抗え。
――運命を、捻じ曲げろ
その瞬間
衝撃波が周囲へ炸裂する。
地面を覆っていた黒い腕が、一斉に弾け飛ぶ。
黒い粒子となって霧散していく。
まるで
”世界そのもの”が私を拒絶し始めたみたいに。
――あかねっ!避けるんだ!
右方向から黒い腕が伸びてくる。
咄嗟に避けるが、頬を掠る。
『おいおい、何をやっているんだ。今更何を抗っている!』
今度はイヤホンから。
奴の怒号が聞こえる。
『もう運命は変わらないんだ!変えることはできないんだっ!』
「黙れッ!お前は私を裏切ったんだッ!!」
腕を掴み、引き千切る。
『やめろッ!それ以上はやめろッ!』
イヤホンから叫ぶ声が響く。
だが、それを無視し、黒い腕を引き千切り続ける。
――あかね、学校の方を見てくれ。
『 』の言う通り、学校に視線を移す。
明らかに”何か”がいる。
――恐らくあれが今回の原因だ。
「でも、遠くてよく見えない……」
目を凝らして見る。
黒い人型の何か、というのはわかる。
だが、それ以上の情報はわからない。
――元締めを潰しに行こう。
私は静かに頷いた。
――――――――――
街は黒い腕に飲み込まれ、崩れかけていた。
――反転して侵食を止めているが、時間が足りない。
少し急ごう。
学校へと駆け抜けながら、腕を処理していく。
人間や動物の姿は、どこにも感じられなかった。
――――――――――
――すまない、あと二十分だ。
『 』は焦るように告げる。
時間がないことはわかっている。
だが、焦ると余計ミスをしかねない。
「ごめん、少し黙っててくれないかな」
私は『 』に冷たく言い放った。
「焦るとミスする可能性があるから。
それこそ意味がない」
――わかった、すまないね。
それ以降、『 』が話すことはなかった。
目的地の学校まであと少し、というところで轟音が響く。
そして、人の声も聞こえた。
人がいる。
学校に、人がいる。
逃げ遅れたのか。
それとも戦っているのか。
それだけでも私の心を安堵させる。
「……早く合流しよう」
私は学校へと足を速めた。




