第一章 第6話 『 壊れた世界で奇跡《すくい》を願う 』
黒い雨が降っていた。
空を埋め尽くす黒い腕。
飲み込まれていくビル。
悲鳴。
爆音。
何もかもが遠く感じた。
もう、どうでもいい。
何度も死んだ。
何度も足掻いた。
その結果が、これだ。
その全てが、間違っていた。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
結局
私は最初から踊らされていただけなんだ。
あの少女に。
運命に抗うとか、そんなたいそうな話じゃなかった。
ただ。
”壊れていく私”を見て楽しんでいただけ。
奴は悪魔だ。
「……もういいや」
力なく呟く。
「疲れたよ」
黒い腕が街を覆っていく。
人が消えていく。
建物が沈んでいく。
何もかもが壊れていく。
脳裏に悪魔の嘲笑が張り付いている。
薄っすら見える深紅の瞳が私を見つめたままだった。
――諦めるのかい?
声が、した。
イヤホンからじゃない。
でも、その声ははっきりと聞こえた。
――君は諦めてしまうのかい?
諦める――しかないだろ。
この状況を見て、奇跡を願う人間なんてもう、いない。
――でも、まだ運命は決まっていないだろ?
何を言っているんだ。
もう決まってるんだ。
世界が滅ぶ運命は、既に決まっているんだ。
――まだ、決まっていないだろ?
……?
――君が諦めなければ、運命は変えられる。
何を言って……
――君が動けば、運命にだって抗える。
――悔しいだろ?悪魔にいいようにされて
悔しい……けど
――なら、抗え
――君なら、運命を変えられる
……ていうかあなたは誰なの?
――僕は『 』。君の味方だ。
疑うしかなかった。
アイツの面影が脳裏に張り付いているから。
慰めの言葉をかけ、奮起を促すようにしておいて落とす。
コイツもそうだ。
――いいのかい?終わっても
……
――何もできずに終わって、後悔しないかい?
……死んだら後悔できる時間なんてないだろ。
――そうだね。でも、死に心地は悪いだろ?
死に心地ってなんだよ。
徐々に沈んでいく街を見ながら、私は考える。
もう、終わってもいいと思っていた。
でも、まだ抗えるなら。
この運命を変えれるなら。
「わかった。この運命に抗うよ」
――OK、ナイス判断だ。
「で、どうすればいいの?」
――合図をする。それまで君は目を閉じていてほしい。
「目を閉じればいいんだね」
――そうだ。合図をしたら、目を見開いて。
そうすれば、あとは運命に抗う力がどうにかしてくれる。
運命に抗う力。
正直のところ、未だに半信半疑だった。
本当に信じていいのか。
また裏切られないか。
その言葉が頭から離れない。
でも、もういい。
これで失敗しても。
裏切られてもいい。
そうなれば、世界が終わるだけだ。
なら、意地でも抵抗してやる。
抗ってやる。
間違っていなかったって、証明してやる。
無様な運命と嗤った悪魔を見返してやる。
あかねは目を静かに閉じる。
ビルの沈む音。
悲鳴。
すべての音が耳の中に流れてくる。
繰り返してきた運命。
脳裏に張り付いた悪魔の嘲笑。
深紅の瞳。
すべての映像が頭に流れてくる。
今からそれを壊す。
この運命に抗ってやる。
一瞬、全ての音が消える。
そして、耳元で『 』が告げた。
――さぁ、時は満ちた!!
運命に抗おうか、『巡火の少女』よ!!
その合図とともに、私は目を見開いた。




