第一章 第5話 『 終わりの終着点 』
何度繰り返せばいいんだ。
何度抗っても
何度泣いても
何度祈っても
同じ運命に辿り着いてしまう。
『残念だが、この運命は変えられない。
何度抗おうが、何度戻ろうが運命は変わらないんだ』
大体、君は何なんだ。
私の味方なのかい?
『……どちらでもないさ、敵でも味方でも。
ただ君の運命を見届ける電脳世界の住人だ』
少女がラジオからコードを抜き取る。
『……これが最後の運命。
正解だといいね、今回は』
そうだね、今回は。
今回そこは、正解だといいな。
■■■はそう言うと、目を静かに閉じた。
――――――――――
また、あの風景に戻る。
今回で何度目だろうか。
屋上から飛び出し、校舎に入る。
廊下には当然誰もいない。
「おいっ!もう授業は始まっているんだぞ、何してるんだっ!」
丁度教室から出てきた先生に見つかる。
「すいません、ちょっと体調が悪くて早退しようかと……」
「そ、そうか。すまんな、怒鳴って」
先生は申し訳なさそうにそう言い、階段を下りて行った。
私は保健室へ駆け込み、早退届を書く。
「はい、受理しました……ねぇ、ちょっと聞いていいかな」
「すいません、時間がないので」
そう言って保健室を出る。
――――――――――
校門を出て、あの展望台を目指す。
今回も何の指示もない。
が、とにかく走る。
――駆け抜けろ、目的地まであと少しだ。
その言葉が聞こえないくらいにただ、駆け廻った。
息も絶え絶えになり、手を膝にかける。
――おめでとう
ラジオからそんな言葉が流れた。
何がおめでとうだ。そんなこと思ってもいないだろ。
彼女は息を整え、顔を上げる。
何も変わらない。
何も起きない。
「……」
――君は運命に抗った。素晴らしいよ
イヤホンから賞賛の言葉が告げられた。
――だからこそ、残念だ
黒い腕が身体を――
貫く前に、ひらりと躱す。
「まず一つ」
黒い腕を掴み、引き千切る。
そこから無数の腕が伸びてくる。
「鬱陶しいっ!」
その腕を避けながら、引き千切り続ける。
何度も逆行ってきたんだ。
腕の動きなど、見切れる。
「ラストッ!」
最後の一本を引き千切る。
腕は黒い粒子となって消えていく。
恐らくこれで大丈夫のはずだ。
まだ安心はできないが。
――素晴らしい
再び称賛の声。
次は手を打つ音まで聞こえる。
そんなのはいらない。
どうなんだ。変わったのか、運命は。
――あぁ、変わったさ。よかったね、正解だ
正直に喜べはしない。
ここからの裏切りを何度も経験してきた。
恐らく
――今回も、とか思ってるんでしょ?
大丈夫、今回は本当に正解だ。これが終わりの終着点だよ
じゃあ、終わったのか?
あのループは。もう、終わったのか?
――あぁ、終わったさ
目から安堵の涙が零れる。
よかった。
これで、いつもの日常に戻れる。
これで運命に抗い続けなくて済む。
これで――
――世界はね
瞬間、空が裂ける。
裂け目から、無数の黒い腕が現れ――
街を包み込み始める。
「な、なんで……!終わったはずじゃ……」
――ああ、終わったよ。世界がね
言ったろ?本日世界は終わりますって。
誰もお前の命は終わるとは言ってない。なのにお前は勘違いした。
自分が助かれば。
誰も死ななければいい。
そんなので世界が救えるとでも?
声は段々と笑みを含んでくる。
――あぁ、無様だ。本当に無様。
君は何に抗っていたんだ?
世界が滅ばない運命か?違うだろ?
君は自分が死なない運命に抗っていただけだ!
耳元で嘲笑が聞こえる。
なんで……
どうして……
じゃあ、今まで失ってきた運命は無駄だったってこと?
――そうさ、ほんと見てて面白かったよ。
君が必死に運命を変えようとしているところ。
滑稽だったよ、何を変えようとしてるんだろうってね。
――ああ、堪らない。君のその悲壮感。
僕の大好物だ。
もう、何も聞きたくなかった。
もう、何も知りたくなかった。
もう
「どうでもいいや」
黒に支配された世界で、一人の少女が涙を流しながら
ただ呆然と、世界が滅んでいく末を眺めていた。




