第一章 第4話 『 謳歌せよ、無様な運命《うんめい》に 』
――カチッ
古いラジオのスイッチを入れたような音がした。
次いで、ザー……という砂嵐。
遠くで誰かの泣き声が聞こえ――
『――テスト、テスト。マイクチェーック』
あの声。
『あーあー、聞こえてるかい?』
瞼が重い。
身体も動かない。
でも、意識だけは妙に鮮明だった。
『聞こえてるのなら返事してほしいなぁ、■■■』
最後、何を言ったのか聞き取れなかった。
言葉に。
音にノイズが走る。
――聞こえてる
『ならOK。■■■、目を開けてみな』
ゆっくりと目を開ける。
真っ赤な空。
――ここ、は
起き上がろうとして、息を呑む。
無数のラジオ。
床一面に、古いラジオ機器が並んでいた。
携帯ラジオ、据え置き型、壊れたものもあった。
それらすべてが赤黒いコードで繋がっている。
まるで機械の墓場のようだ。
その中心。
積み上がったラジオの山の上に、一人の少女が座っていた。
白髪。
ボロボロのパーカー。
片耳にイヤホン。
そして、血のように赤い瞳。
少女は、にぃっと笑った。
『ようこそ■■■。ここは僕と君を繋ぐ電脳世界だ』
――電脳……世界?
『そ、電脳世界。ここで君の運命を操作しているのさ』
――ちょっと理解が追いつかないんだけど……
『ま、そう難しく考えなくていいよ』
そう言うと、一つのラジオからコードを引き抜く。
『これでまた一つ、君の運命が変わった。
さぁ、時間は限られてるんだ』
少女がコードの抜けたラジオを放り投げ、告げる。
『覚醒の時間だよ、■■■』
――――――――――
「――暑っ……え?」
真南に昇る太陽が学校の屋上を照らし続ける。
咄嗟にスマホを手に取る。
日付が――戻っている。
「ど、どういうこと?」
さっきまでラジオだらけの部屋にいて、それで――
――本日、世界が終わります。
イヤホンから、そんな言葉が流れた。
その瞬間、理解した。理解してしまった。
「これ、タイムリープしてる……」
――――――――――
屋上から飛び出し、校舎に入る。
廊下には当然誰もいない。
授業が始まっているからだ。
「おいっ!もう授業は始まっているんだぞ、何してるんだっ!」
丁度教室から出てきた先生に見つかる。
「すいません、ちょっと体調が悪くて早退しようかと……」
「そ、そうか。すまんな、怒鳴って」
先生は申し訳なさそうにそう言い、階段を下りて行った。
「……とにかく早退届を出しに行こう」
私は保健室へ駆け込み、早退届を書く。
「はい、受理しました……ねぇ、ちょっと聞いていいかな」
保健室の先生が、私の目を見て聞いてくる。
「その、目が真っ赤なのは充血してるから?それともカラコンを入れてるの?」
「え……あ、充血だと思います」
先生は「そっか」とだけ言い、また業務に戻る。
――――――――――
校門を出て、あの展望台を目指す。
今回は何の指示もない。
が、とにかく走る。
空を見上げる。
空に裂け目はない。
そもそもあれは、紫苑が出したものだからあるはずがない。
でも、「世界は終わる」と『 』から告げられた。
なら、あれは関係ないのだろう。
――展望台に着けば、知ることができるよ。嫌でも、ね。
また声がした。
今回は指示じゃない。結果の告知だ。
嫌でもわかる、か。
じゃあ急ぐしかない。
あかねはとにかく走った。
――駆け抜けろ、目的地まであと少しだ。
その言葉が聞こえないくらいにただ、駆け廻った。
息も絶え絶えになり、手を膝にかける。
――おめでとう
ラジオからそんな言葉が流れた。
目的地に着いたのだ。
彼女は息を整え、顔を上げる。
何も変わらない。
何も起きない。
「……運命が変わった?」
とにかく、何も起きなかったことに安堵した。
これで誰も死なない。紫苑も私も。
――君は運命に抗った。素晴らしいよ
イヤホンから賞賛の言葉が告げられた。
――だからこそ、残念だ
黒い腕が身体を貫いた。
背後から心臓を一突き。
「な……んで?」
運命は変わったはず。
空に裂け目はない。あの腕も出てくる様子はなかった。
なのになんで、黒い腕が――
――それが運命だからさ。
イヤホンからそんな言葉が流れる。
これが運命……なのか。
こんな運命なら、いらなかったな。
――じゃあ、次の運命でまた会おう。
それまでこの運命を謳歌するといいさ。無様に、ね。
その言葉が終わると同時に、意識がプツンと途切れた。




