表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカネノ天  作者: 司城まか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

第一章 第3話 『 襲いかかる脅威 』

――しまった。


 喉の奥が凍りつく。


 全身の血が一気に冷たくなる感覚。


 ”それ”が、ゆっくりとこちらを向いた。


 黒い。

 いや、黒というより、光を吸い込んでいる。

 輪郭が曖昧で、そこに存在しているはずなのに、目が認識を拒絶する。


 顔らしき部分には、大きく裂けた穴のような口。

 そこから、あの不快な鳴き声が漏れていた。


「ぁ……」


 しのんの喉から小さな悲鳴が漏れる。


 次の瞬間。


 ”それ”の姿が消えた。


「っ!?」


 反射的にしのんの手を掴み、横へ飛ぶ。


 ドゴォンッ!!


 直後、私たちが立っていた場所の地面が爆ぜた。

 土が舞い上がり、砕けたコンクリートが頬をかすめる。


「な、なにあれ……!」


 数メートル先。


 ”それ”が四つん這いのような姿勢でこちらを見ていた。


 速すぎる。

 まるで瞬間移動だ。


 化け物は首を傾ける。

 まるで獲物を観察するように。


 その瞬間、理解した。


 ――逃げなきゃ死ぬ。


「走って!!」


 私は叫び、しのんの手を引いて駆け出した。


 背後で再び地面が砕ける音。


 追ってきてる。

 速い。


 ありえない速度で迫ってくる。


 昇降口へ飛び込み、そのまま廊下へ。

 靴を履き替える余裕なんてない。


「はぁっ……はぁっ……!」


 しのんの呼吸が荒い。


 でも止まれない。


 角を曲がった瞬間、窓ガラスが砕け散った。


「きゃあっ!?」


 ”それ”が外壁を這って追いついてきていた。


 蜘蛛のように。


「うそでしょ……!」


 人間の動きじゃない。

 いや、そもそも人間じゃない。

 化け物が大きく口を開く。


 喉の奥が赤く脈動しているのが見えた。


 まずい。


 理由は分からない。

 でも、本能が警鐘を鳴らしていた。


「伏せて!!」


 しのんを抱き寄せ、床に倒れ込む。


 直後。


 轟音。


 赤黒い何かが廊下を一直線に焼き払った。

 壁が溶け、窓が蒸発する。


「――っ!?」


 熱風が肌を焼く。

 数秒遅れていたら、跡形もなく消えていた。


 なんなの、これ……。


 意味がわからない。

 現実感がなさすぎる。

 その時だった。


『――対象確認。生存者二名』


 声。


 廊下の奥。


 煙の向こうから、一人の少女が歩いてくる。


 黒いコート。


 銀色の髪。


 そして、その手には――長い刀。


 少女は感情のない目で化け物を見つめる。


『脅威度C級。”喰鳴(クメイ)”と判定』


 次の瞬間。


 彼女の姿が掻き消えた。


 ――速い。


 さっきの化け物と同じ、いやそれ以上。


 銀色の閃光。


 化け物の胴体が、音もなく斬り裂かれた。

 黒い液体が宙に散る。


 絶叫。


 化け物が狂ったように暴れ回る。

 しかし少女は止まらない。


 一歩。

 また一歩と踏み込む。


 刀が光る。


 次の瞬間、化け物の身体が縦に割れた。


 ドサリ、と。


 黒い肉塊が床へ崩れ落ちる。


 そして――消えた。


 まるで煙のように。


 静寂。


 あまりにも現実離れした光景に、声も出ない。


 少女はこちらを振り返る。


 冷たい赤い瞳。


『――あなたたち。まだ正気を保っているのね』


 その言葉に、背筋が凍る。


『なら急いで。もうすぐ“境界”が完全に閉じるわ』


「……きょう、かい?」


 震える声で聞き返す。


 少女は短く息を吐いた。


『説明してる時間はないの』


 その直後。


 校舎全体が、大きく揺れた。


 ミシミシと天井が軋む。


 そして。


 遠くから、無数の鳴き声が響いた。


 一つじゃない。

 二つでもない。

 何十、何百という、あの化け物の声。


 少女の表情が、初めて険しくなる。


『最悪ね……”門”が開いたわ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ