第二章 第14話 『 最強 』
湿った破砕音が響き渡った。
上半身が吹き飛び、細かい肉片となって床に散らばっている。
ドクンッ、ドクンッと鼓動を続ける心臓。
私は死んでいなかった。
潰されていなかった。
では、誰が潰されたのか。
「もー、痛いじゃないか!」
散らばった肉片が徐々に集まっていき、
人間の身体を形成していく。
深紅の瞳、
蠍の尾のような髪型。
アンタレスだ。
「なんで動けるのかなぁ……キミ」
アンタレスの背後。
毒に侵されたはずのオリオンが、弓を構えていた。
「……俺があんなカスみたいな毒で死ぬわけねぇだろ。俺様は最強超人だぜ?」
そう挑発した。
最強。
最も強い者。
誰にも負けない、そんな人間に送られる栄誉。
だが、その最強もいずれ朽ち果てる。
今のオリオンがそうだ。
強気なセリフを吐き捨てていたが、身体が小刻みに震えている。
呼吸が荒い。
口から血が零れ出ている。
彼も満身創痍なのだ。
だが、最強だから。
最強を貫かねばならないから。
彼は――オリオンは最強でなければいけないから。
だから彼は立ったのだ。
弓を引いたのだ。
「オリオン……」
冷蔵庫の下敷きとなっていた紫苑が身体を起こす。
「ハッ、何やってんだ紫苑嬢。そんなところで寝てんじゃねぇよ」
「う、うるさいわね!あなたこそ身体が震えてるけどビビってるんじゃないの?」
お互いに煽りあえるくらいには体力が残っているっぽい。
「んーもう、君たちしぶといなぁ。さっさと死んでくれよ」
「いいや、俺たちは死なねぇ。逆にお前が死んでくれや、『アンタレス』」
アンタレスが微笑む。
「いいね、いいねぇ!その眼、その獲物を狩ろうとする眼。
好きだなぁ、いいなぁ、欲しいなぁっ!」
オリオンめがけて黒い腕が伸びていく。
それを確実に撃ち落としていく。
次あの毒を食らえば死ぬ。
毒でなくても、攻撃を受ければ死ぬ。
死ぬなら――全てを出し切ってから死んだ方がマシだ
「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
次から次へと伸びてくる腕を、瞬時に撃ち落とすオリオン。
それに負けじと、レーヴァテインで腕を斬りつける紫苑。
そんな状況をただ眺めることしかできない私。
私も武器を出せば戦える。
でも、出ない――いや、出せなかった。
理由はわからない。
今まで出せていたのに、急に出せなくなった。
『 』に問いかけても返事は無い。
「ハハッ!いいね君たちッ!
そこで突っ立ってるだけのゴミとは大違いだよッ!」
グッと拳に力が入る。
役に立てない。
仲間がピンチの時に限って、何もできない。
ただ、仲間が倒れていくのを見ているだけ。
私は何もできない。
私は――
「あかね嬢はゴミなんかじゃねぇッ!」
オリオンが叫ぶ。
「なんで一緒に戦わねぇのか知らねぇが、何か理由があんだろ?
それにお前がいてくれたおかげで俺はコイツと戦えてるんだ。だから、お前は役立たずでもねぇし、
ゴミでもねぇッ!」
涙が滲み出る。
「そうよッ!あかねちゃんがいなかったら私は今、ここに居なかった!
あかねちゃんがあの時助けてくれなかったら、私はこうして戦えていなかったッ!
だから、あかねちゃんはゴミなんかじゃないッ!」
胸の奥が、熱くなる。
鼓動が、速くなる。
二人が私を肯定してくれている。
こんなところで落ち込んでいちゃいけない。
「あかね嬢は――」
私は
「あかねちゃんは――」
こんなところで
「「「絶対に諦めないッ!!」」」
そう叫んだ瞬間
あかねの目の前に光の粒子が集まりだす。
その粒子は徐々に形を成していき、一本の剣と姿を変えた。
鞘に包まれたその剣を手に取る。
瞬間、何千もの松明を集めたような眩い光を放ちだした。
「……ぐうっ!あ、熱いっ!なんだその光はッ!こ、こっちに向けるな!」
光の一部に照らされたアンタレスの身体から、煙が出ている。
これなら――やれる!
私は剣を握り変え、刃をアンタレスの方へと向ける。
そして大きく息を吸い、こう叫んだ。
「さぁ、盤面は整ったッ!覚悟しろよ、アンタレス。
お前の目の前に立っているのは、お前がゴミと罵った私じゃないッ!
今の私は、神にも勝る『最強』だッ!!」




