第二章 第7話 『 自称最強の狩人 』
「……私を、殺したやつ……」
ゴクリ、と息を呑む。
『ま、それが真実なのか、はたまた嘘なのかはアイツ以外にはわからないだろうがな』
「……と、とりあえず気をつけるよ」
『それが今できる最善の行動だな』
そう言って、コードを引き抜いた。
――――――――――
目を開けると。
私はトイレに立っていた。
「ここからか……」
トイレから出る前。
ここを出た瞬間、私は殺された。
「一か八か……」
ドアノブに手をかけ
扉を開く。
瞬間
何かが高速で通り過ぎていった。
人ではない。
飛び道具だ。
「あぁ?んだよ、仕留め損なったじゃねぇか」
声がした。
私はトイレから少しだけ顔を覗かす。
保健室とは逆方向の廊下。
その奥に、誰かがいた。
「チッ……アンタレスには出会うし、矢は外すし……」
ブツブツと何か言いながら、こちらに歩いてくる。
マタギのような恰好をした男。
燃えるような茜色をした赤髪が、消えゆく陽の灯りと同化する。
「おいっ!そこに隠れてるんだろ?出て来いよ」
男の声が、廊下中に響く。
バレていた。
いや、まぁ扉が開いた時点でいるのはバレてるんだが。
ゆっくりと扉の陰から、身体を出す。
「んだよ、人違いか……って、女かよっ!
よく俺の矢を避けれたな」
「た、偶々ですヨ、ハハハ……」
「偶々ねぇ……」
男が顎をさする。
コイツが、私のことを殺した存在。そして――
アンタレスを躊躇わせた存在だ。
「ま、偶々だな。だって俺、この世で一番強いからな!」
ハッハッハッ、と大笑いする。
「あ、あのぉ。もう、大丈夫ですか?」
「ん?あぁもう行っていいぞ。人違いだったしな」
人違いって……
それで私は殺されたんだぞ?
今回は殺されかけただけだが。
「ねぇー、なんかあったのぉ?笑い声が聞こえたんだけどー」
保健室から顔を覗かし、手を振る紫苑。
男の姿は、トイレの扉で丁度隠れている。
「気のせいじゃなーい?なんもなかったよー」
嘘をついた。
紫苑にはもう、この件に関わらせたくない。
彼女には安全に生活してほしい。
「お?もう一人女がいるのか?」
「あっ、ちょっ!」
私の妨害を簡単に避け、扉の向こう側へ出ていく。
「と、止まってぇ~」
「なんでだよ。別にいいだろ?」
引き摺られる私を無視して、ズンズンと保健室へ足を進める。
顔を覗かせている紫苑の表情が、「誰?」と訴えている。
「よぉ、嬢ちゃん。お前はアンタレスの仲間か?」
「ぇえ?アンタレス?」
紫苑の目の前で立ち止まり、いきなりそんなことを質問しだした。
「嬢ちゃんはアンタレスの仲間なのか?」
「ち、違いますけど……
どっちかって言うと、私たちの敵?的な……」
「そうか……俺と一緒だな。
俺もアンタレスが嫌いだ」
男は私を引き剝がし、持ち上げる。
「じゃあコイツも違うんだな?」
「違いますっ!あかねちゃんは絶対に違いますっ!
むしろ襲われてる側で――」
「もういい。仲間じゃないことが分かれば結構だ」
そう言って手を放す。
勢いよく尻を打ちつけた。
優しく下ろせよ、乱暴すぎるだろ。
私は打ちつけた尻をさすりながら立ち上がる。
そして
「で、あんたはどこの誰なの?」
私は男を睨みつけながらそう言った。
見た感じ、普通の人間ではないのは確かだ。
いきなり矢を放ってきて、
アンタレスのことを知っている。
私たちと同類なのか。
それとも、別の何かなのか。
頭の中はその考えで一杯だった。
男が口を開く。
「俺か?俺は――」
「海神を父に持ち、月の女神を妻に持つ最強の狩人!
名を『オリオン』という!
よろしくな、美しい嬢ちゃんたち」
オリオンはそう言って、にかっと笑った。




