第二章 第6話 『 星は廻る 』
アンタレスが悲鳴を上げる。
空そのものが軋み、黒い腕が一斉に暴れ始めた。
そして。
アンタレスの身体に吸収されていく。
紫檀色の長髪。
腰まで届く神は後ろで束ねられ、まるでサソリの尾のように、毛先が跳ねている。
容姿は私たちと然程変わらない。
だが
その瞳だけは人間のものではなかった。
燃えるような深紅。
覗き込んだだけで吸い込まれそうになる。
アンタレスの身体から黒い霧が溢れ出す。
その霧は地面に落ちるたびに腕となり、口となり、目となる。
まるで、世界中の悪意を無理やり一つの器に詰め込んだような存在だった。
「楽に死ねると……思うなよ」
アンタレスがゆっくりとこちらを見る。
そして。
一瞬にして姿を消した。
裂け目も。
アケボシの姿もない。
逃げたのか?
いや、まだ警戒を……
――彼女はもう、逃げたよ
『 』が小さな声で告げた。
――あかねたちの勝ちだ。よく頑張った
「逃げた……のか。よかったぁ~!」
安堵の表情を浮かべる。
と、同時に。
「……っと」
眩暈がした。
「あかねちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫」
紫苑が心配そうに駆け寄ってくる。
「戻ろう」
私は紫苑の肩を借り、保健室まで戻ることにした。
――――――――――
「で、アレは何だったの?」
お茶を注ぎながら、紫苑はそう聞いてきた。
「アンタレス。さそり座の心臓だよ」
「星座の心臓?があの人なの?」
「ま、そんな感じ。それがあの黒い腕とか、黒い化け物を生み出してるんだ」
「敵なんだね……あ、あかねちゃんもお茶飲む?」
「私はいいかな。トイレ行ってくる」
「りょー」と言いながら、お茶を口に運ぶ紫苑。
今回は誰も死んでない。アンタレスも当分は仕掛けてくることもないだろう。
だからと言って警戒を解くわけじゃない。
そうやって緩んだところを襲われるのが鉄板だ。
「しっかし……あの写真は何だったんだ?」
紫苑が殺されたとき、保健室前に落ちていた写真。
あそこに写っていた人物は誰だったのだろうか。
そして誰が撮ったのだろうか。
「ま、そこは追々考えるとして、今は目の前の問題を解決しなきゃ」
用を足し、トイレから出る。
今はとにかくアンタレス討伐に向けての策を――
――――――――――
カチッ――
ラジオのスイッチが入る音がした。
「えっ……?」
なぜここに居るのか、理解できなかった。
もしかしてアンタレスか?
いや、でも警戒はしていた。あいつの気は感じられなかった。
じゃあ誰だ?
『星は廻るんだよ』
白髪の少女が、ラジオの山から下りてくる。
『その季節が終われば、次の星座が現れる。
そうやって星は廻っていくんだよ』
「それって……」
『あぁ、お前が『さそり座・アンタレス』という答えに辿り着くまではよかった。
だが、そこからを何も考えてなかったんだ』
「考えてなかったって……」
考える余地もない。あそこから違う敵が出てくるとか――
『予想もできない、って言いたいんだろ?』
言い当てられる。
そうだ、予想なんてできない。
せいぜいアンタレスが奇襲を仕掛けてくるぐらいしか考えられないだろう。
『ま、そりゃそうだ。新たな敵が現れることなんて誰にも予想できない』
「だったら……!」
『だが、何故あそこでお前を始末しなかったんだ?』
少女が床に落ちているラジオを手に取る。
『あいつはお前らよりも強いはずだ。でも始末をしようとしなかった。
始末できなかったんだ』
「始末……出来なかった?」
少女がコードを引き抜く。
『アンタレスの目にお前らは映ってない。
映っていたのはもっと強大な。
そう――』
『お前を殺した奴とかな』




