第二章 第4話 『 運命が廻る 』
「ぬふふふ、あかねちゃーん。お着換えの時間ですよー」
全裸の変態の声で目が覚める。
紫苑と目が合った。
「あー……今のは冗談でぇー……」
紫苑が目を逸らす。
がもう遅い。
聞いてしまったものは聞いてしまったのだ。
私は笑顔で
紫苑の頬に平手をぶち込んだ。
――――――――――
少女が言っていた『見落とすな』とはどういうことなんだろうか。
前の私は何を見落としていたんだ?
しかもここまで戻っているということは、ここから先で見落としているということになる。
気を張り続けないとな。
しかし、この椅子座り心地が悪い。
「あ、あのーあかねちゃん?もうそろそろ許してほしいんだけどぉ」
「椅子は喋りませんよ?」
「あっ……Sっ気のあるあかねちゃんもいい……」
この変態野郎が。
こっちはお前が死なないよう頑張っているのに。
――――――――――
「被害状況の確認をしたいので、外に出ようと思います」
サンドウィッチを口に詰め込み、外へ出る準備をする。
「流石に生存者はいないと思いますよ?」
「わからないでしょ。もしかしたらの可能性も考えておくの」
生存者はいた。
ただ、あれを生存者と呼んでいいのかわからないが。
「とにかく行くよ」
「はぁい」
紫苑も着替え、あかねに着いて行く。
――――――――――
「暑い……」
真南に昇る太陽がアスファルトをじりじりと照らしつける。
あちこちで建物が崩壊しており、
瓦礫やガラスの破片が散乱している。
草木が生い茂っていた公園は、植物すら生えていない更地と化している。
――あかね
わかってる。
剣を取り出し、構える。
「えっ、なんで剣?」
「いいから、構えて!」
私が叫ぶと同時に、目の前の空間が裂ける。
ここまで何も見落としはなかった。
見落とすとすれば、ここからだろう。
「あかねちゃん!!」
「わかってるっ!!」
勢いよく伸びてくる腕を斬り刻む。
と同時に周囲を確認する。
特に何もなさそうだが……
――あかね、あそこの曲がり角。
誰かいる。
『 』が誰かを見つけたらしい。
――遠くてわかりづらいけど、恐らく人だ。
見落としてたのはこれか。
「ごめん、紫苑。ちょっと外れる!」
「えっ、なんで……どわぁっ!!」
ここでの戦闘を紫苑に任せ、
私は曲がり角へと足を進めた。
――逃げる様子はないけど、恐らく気づいてる。
「だろうね。じゃなきゃあそこでじっと見てないでしょ」
人影はじっと私を見つめている。
そして、にやっと笑った。
その顔が、「アケボシ」と重なる。
「まさかっ!」
後ろを振り向く。
紫苑はまだ腕と戦っていた。
まだ、殺されていない。
――あかね!後ろッ!!
『 』の声と共に、腹部に違和感を感じた。
「きゃはっ!!可愛い子、見つけちゃった!!」
アケボシだ。
アケボシだった。
腹部から突き抜ける黒い腕。
ドクドクと流れ出る血。
私は膝から崩れ落ち
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!!」
激痛。
激痛と熱が腹部を襲う。
「きゃははっ!! いいね! いいよ! いい声だぁッ!!」
アケボシが哄笑する。
痛い。
痛い熱い痛い痛い熱い痛い――
腹部を襲っていた激痛と熱が徐々に全身を蝕んでいく。
さっきまで上げていた叫び声も
徐々に血塊へと変わっていく。
ぼんやりとした視界に、真っ赤に染まったアスファルトが映る。
ダメだ。
これは、ダメだ。
『詰み』だ。
今回の運命は、紫苑が死ぬんじゃない。
『西宮あかね』が死ぬ運命に切り替わったのだ。
「……ごぷっ」
紫苑、逃げて。
そう叫ぼうにも、声が出ない。
手を伸ばしても、もう届かない。
アケボシが何か言ってる。
でも、もう――
ゴトッ――物が落ちる音とともに、
街の景色がブツンと切れた。




