第二章 第1話 『 新たな一日 』
「……いきなり叩いてごめんなさい」
「い、いいの、大丈夫だから。えへへへ……」
紫苑が汚い声で笑う。
ことの発端は今朝。
というより今さっきだ。
目を覚ますとそこには、
「ぬふふふ、あかねちゃーん。お着換えの時間ですよー」
全裸で私の服を脱がそうとする変態がいた。
紫苑だ。
薄々感づいてはいたがもう隠し通す様子はないようだ。
正直人に好かれることはうれしい。
だが、それには限度がある。
ここまで好かれると逆に恐怖を覚える。
紫苑と目が合う。
「あ、おはようございます。
いい朝ですn」
勢いよく紫苑の顔を引っ叩いてやった。
――――――――――
「次やったら部屋の外で寝てもらいます」
「そういうプレイですか?」
「違います!」
紫苑がはぁはぁ、と息を荒げる。
この人、こんなキャラだったか?
正直あの後のことは何も覚えていない。
紫苑の匂いと疲れでそのまま寝てしまって――
咄嗟に身体中を見る。
……よかった、なにもされてない。
「で、今日はどうします?」
紫苑がお茶を持ってくる。
朝食も作ってくれたようだ。
「とりあえず被害状況を見に行こうかな。
もしかしたらまだ生きてる人がいるかもしれないし」
サンドウィッチを口に運ぶ。
噛むたびにレタスのシャキシャキとしたみずみずしさが広がっていく。
ドレッシングとの相性も抜群だ。
「お口に合いますか?」
「うん、すごくおいしいよ。
食材買ってきたの?」
「いえ、当直室の冷蔵庫に入ってたのを拝借してきました」
「盗ってきたんだ」
「拝借したんです」
紫苑は笑顔でそう言った。
――――――――――
「改めて見るとほんと酷いね」
「そうですね。正直生存者はいないと思いますよ」
真南に昇る太陽がアスファルトをジリジリと照らし続ける中、
私たちは街の中を散策していた。
あちこちで建物が崩壊しており、
瓦礫やガラスの破片が飛散している。
草木が生い茂っていた公園は、植物すら生えていない更地と化していた。
――あかね、何か嫌な予感がする。
耳元で声がした。
『 』だ。
――恐らくまたアレだ。警戒しておいた方がいい。
「紫苑ちゃん、ここら辺なんか嫌な感じがする」
「嫌な感じ?」
「うん、昨日のアイツみたいな。何か邪悪な気配が」
そのとき
目の前の空間が裂け、中から黒い腕が複数伸びてくる。
「やっぱり、ね!」
武器を手に取る。
黒い腕を避けつつ、斬りつける。
「いきなりです……ねっ!!」
紫苑もレーヴァテインで拳を耐えつつ、斬り刻む。
だが、いくら斬っても腕は止まることを知らない。
「やるしかないか」
あかねは静かに目を瞑った。
そして
運命に抗おうとする意志を想像した。
剣に光の粒子が集まり、一つの刃となる。
「これでどうだぁぁぁぁぁ!!」
剣を振るうと同時に、光の斬撃が黒い腕を空間の裂け目ごと斬り裂く。
黒い腕は粒子となり消え、裂け目が閉じていく。
「――っ」
眩暈がする。
力の使いすぎだ。これを日に何度も撃つことはできない。
最終奥義だ。
「あかねちゃん!!」
咄嗟に駆け寄る紫苑。
倒れるあかねを支える。
「……今日は戻ろうか」
そのまま背負われ、保健室へと帰ることにした。
その様子を物陰から見ていたひとりの少女がいたことを、彼女たちはこの時
知る由もなかった。




