第一章 終幕 『 それぞれの気持ち 』
その日はそのまま保健室に止まることにした。
黒い腕が消滅したとはいえ、被害に遭ったのに変わりはない。
当然、飲み込まれた人間は帰ってこない。
「……優しいのですね」
紫苑が紙コップを渡しながらそう言った。
「祈ることしかできないけどね」
無理やり笑顔を作る。
「……無理に笑うことなんてありません。
泣きたいときは、泣いていいんですよ」
そう言って、手を広げる。
「……ありがと。じゃあ少しだけ借りようかな」
そのまま紫苑の胸の中に飛び込む。
「……ごめん……ごめん、なさい……ごめんなさい!」
こぼれ出たのは、謝罪の言葉だった。
仕事をしていた人も。
友達と遊んでいた人も。
いいことがあった人も。
悪いことがあった人も。
何も関係ないのに、いきなり命を奪われる形となった。
そのことに対しての謝罪。
「……大丈夫。大丈夫ですよ」
紫苑が背中をポン、ポン、と軽く叩く。
甘い香りがするのもあってか。
段々と瞼が重たくなる。
「……ありがと……紫苑ちゃん」
そのまま私の意識は、深い深い海の底へと沈んでいった。
――――――――――
「……無理に笑うことなんてありません。
泣きたいときは、泣いていいんですよ」
そう言って、私は手を広げる。
小説にはこうすることで仲がより深まると書いてあった。
弱みに付け込むような形になりますが、仲良くなるためなのです。
「……ありがと。じゃあ少しだけ借りようかな」
あかねが胸の中に飛び込んでくる。
「――っ!!」
危うく意識が飛びそうになる。
何だこの可愛い生物は。
泣いてる。
私に身体を預けて泣いてる……!
ヤバい。これほどの幸福感。
私は耐えきれるのだろうか……
「……大丈夫。大丈夫ですよ」
背中をポン、ポン、と軽く叩く。
あぁ、触れてしまった。
あかねちゃんの背中に触れてしまった……!
日に何度も彼女の身体に触れられるとは……
まさか私、死ぬのか?
でも、このまま死ぬのなら本望だ。
……あ、でもさっき握手した時に手汗が酷かったのは取り消したいな。
だって仕方がないじゃん。
大好きな人の手を握れるんだよ?
汗止まんないって。マジでやらかしたと思ってるよ。
でも、ほんとに会えてよかった。
手を取ってくれてよかった。
これから一緒に行動できる。
それだけでいい。それだけでいいんだ。
「……ふふっ、泣き疲れて寝ちゃったか」
あかねの頭を撫でる。
ほんとに優しい子だ。こんな子に泣いてもらえるんだ。
飲み込まれていった人も許してくれるだろう。
「私も寝ようかな」
あかねをベッドの上に寝かす。
布団をかけ、部屋の電気を消す。
「おやすみ、あかねちゃん」
そう言って私は
あかねちゃんの寝るベッドへと潜り込んでいった。




