父と娘
ロザリンドの考えは甘かった。
事態は彼女の予想をはるかに超えて、急速に展開したのだ。
まず、プロテュースの告白のあらましは、翌日の学院新聞に取り上げられ、学院の全生徒に周知されることとなった。
その三日後、ベルモンド侯爵家へ招かれ、ロザリンドはプロテュースの両親と初対面を果たした。和やかな食事会で挨拶をさせられ、周囲をガチガチに固められてしまったのだ。
その上で、ロザリンドの知らぬ間に、プロテュースは両親を伴って、フレデリック伯爵のもとへ訪れ婚約の許しを得ていた。
あれよあれよという間に、怒涛のような流れで婚約が結ばれ、ロザリンドは呆然としていた。
この事実はシニアの口から聞いたものだ。
「徴税の報告を監査官に任せず、私が直接大公殿下へご報告申し上げようと、謁見するためにエイヴォンへ来たんだ。まぁ、これは建前で、本当はロザリンドに会いに来たんだよ」
噂話に翻弄されていた彼女は休日を迎え、父と久しぶりに会食をするのを楽しみにしていた。
「しかし、いつの間にプロテュース卿と懇意になったんだい?突然、婚約の書類を突き出されてね。私はどれだけ驚いたことか…。大公殿下にお目にかかったときも、やたらニヤニヤとしていたんだ。どうやら、先にベルモンド侯爵から殿下へ話を通していたらしい…」
ロザリンドの手からナイフが滑り落ちた。
その顔色が蒼白に変わっていくのをみて、シニアは不安を感じた。
シニアは静かに挙手して、代わりのナイフを求めた。
「お父様…」
シニアはロザリンドの席の隣へ移動すると、そっと膝をついた。震えるロザリンドの手を両手で包み込んで、柔らかく微笑む。
「何があったんだい?話してごらん」
ロザリンドは、ことの顛末を正直に打ち明けた。
類稀なるプロテュースの容貌に見惚れているうちに、彼女は話の内容もほとんど聞き逃したまま頷いてしまい、気づけばプロテュースの婚約者にされていたと…。
「ああ、確かにプロテュース卿は男の私でも、うっとりするほど綺麗なお顔立ちだったな。ははっ、まさかロザリンドが面食いだったとはね…。だが、やり方がいただけないな。強引だよ」
シニアの眼差しがさらに鋭さを増して細くなる。シニアの三日月のような目元は常に微笑んでいるようにしか見えなかったが、今は怒りを滲ませている。
「ですが、もう婚約は結ばれたのですよね。侯爵家からの打診を、格下の伯爵家が白紙に戻すことなどあれば…」
「私は家門の体面なんかよりも、ロザリンドやシーリアの方がずっと大事なんだよ」
シニアは握りしめていたロザリンドの手を優しく撫でる。
「それに、私はこの容姿ですし…。これから先、私を娶ろうなど考えてくださる方が現れるとは想像できないのです…」
ロザリンドは申し訳なさそうにシニアを見つめた。
「おやおや、私にそっくりなお前がつれないことをいうものだね。私の可愛いお姫様の言葉とは思えないな。もしそれが本当なら、男たちの目が節穴なだけだよ」
人差し指でロザリンドの鼻先を軽く突いて、シニアは柔らかく微笑んだ。




