告白
ストラトフォード学院に通う領主後継者の女子は少ない。そのうち、騎士科を選択した女子はロザリンド一人だけだった。
新入生で騎士科を専攻している女子を含めると五人だけで、ロザリンドと違い、彼女たちの身体能力は高く、凛々しく勇ましかった。
「ロザリンド嬢、頑張ってるよな。こんな屈強な女性騎士たちの間で…」
騎士科授業でロザリンドが走り込みから戻ってくると、オリヴァーが木剣を器用に振り回しながらロザリンドを労う。
「そうかな?私、ポンコツで」
ロザリンドは顎から垂れる汗を手で拭いとる。ロザリンドは肩まで伸びている髪をまとめて一つに束ねているが、首に張りついた毛先が不快で頭を振った。
「そんな事はないよ。あいつら、ほぼ筋肉で出来上がっているだろう?きっと、剣も弾かれるぜ!」
赤髪の女生徒がロザリンドへタオルを手渡した。
「そうそう、まるでミノタウロスのようになって…。誰が牛やねん!人間離れしとるやないか!」
燃えるような真っ赤な髪を少年のように短く刈り上げている女生徒はそう答えながらも、腕を曲げて力瘤を誇張する。
彼女はベアトリス・ウェストモーランド、ウェストモーランド辺境侯国の公女である。
「オレはミノタウロスなんて言ってないよな?」
オリヴァーとベアトリスはお互いの肩を組みながら豪快に笑いあった。
「今日の勝負は私が勝つからな!」
「いやいや、負けませんよ。ミノタウロス嬢!」
「その減らず口、叩き切ってやる!」
物騒な言葉遣いであるが、日常茶飯事の掛け合いだ。騎士科の女生徒は皆ざっくばらんでサッパリしていた。
オリヴァーは騎士志望の女生徒のために、模擬戦の相手役を買って出ていた。
公国に危機が迫ったときは、騎士となった誰もが戦場へ向かう。男も女も関係なく戦わなければならない。
だが、万一女生徒に負けてしまえば、男の恥と考え、矜持が許さないらしく、他の男子生徒は男女混合の模擬戦を避けていた。
そのような理由で、ロザリンドは授業でも生徒会でもオリヴァーに毎日顔を合わせていた。いつの間にか、よそよそしさはなくなり、ロザリンドとオリヴァーは親しくなっていた。
「ロザリンド嬢!」
ロザリンドの頭上から声が降る。見上げると訓練場に備えつけの観覧席から、オーランドーが様子を窺っていた。
「殿下、どうしてここに?」
ロザリンドが騎士科の指導を受けている時間、魔法科の授業も並行して行われている。オーランドーは魔法科を選択していた。
「魔法科の教授のご夫人が、突然…。産気づいたと連絡があったらしく、休暇をとられたのだ。何しろ、急なことで…。代役の教授が見つからず、それで自習となった」
わざわざ訓練場へ足を運ばなくても、ロザリンドは不思議に思う。
「また、殿下か?」
「?」
「私のことはオーランドーと呼んでほしいと言ったではないか?」
ロザリンドは明らかに狼狽えた。敷居が高くてとてもではないが呼べるはずもない。
「まぁ、いいや」
オーランドーは寂しそうに肩を落とした。
気まずい雰囲気のまま、二人は試合を観戦した。
オリヴァーの剣の腕前は在学生の中で右に出るものはいない。ベアトリスは力に頼る節があり、踊るような艶やかな剣捌きで、オリヴァーは瞬く間に圧倒的な勝利を掴んだ。
ロザリンドは騎士科の訓練を終えて、生徒会室へ移動していた。
服は着替えたが、未だ身体が火照っており、汗が引かなかった。パタパタと手で仰ぎ、風を起こす。
冷気を感じて窓際へ歩み寄ったロザリンドは、曇り空から白雪が落ちてくるのを認めた。初雪だった。結晶が窓ガラスへ飛んできては水滴となり儚く滑る。
(フレデリック領は、もう雪が積もっているかもしれないな…)
不意に窓ガラスへ人影が映る。かなり長身の人物だ。
「君はフレデリック伯爵家のロザリンド嬢だよね?」
声をかけられて、振り返ると顔の麗しい青年が立っていた。
(オリヴァー卿と良い勝負ね…)
「僕の名前はプロテュース・ベルモンド、ベルモンド侯爵家の三男でね。二学年上の学生なんだよ」
男は顔ではない…。
頭の回転が早く、仕事が出来る男性は素晴らしいと思うし、女性に生まれてきたからには、身を挺して庇ってくれるような、胸板が厚くて逞しい騎士のような男性にも憧れる。いつも穏やかに話を聞いてくれるような紳士も素敵だ。
ロザリンドは幼少から容姿で苦労していた。
だから、見た目で人を判断はしたくない。したくはないのだが…。
(男前が度を過ぎてて、どうしても目を逸らせない)
プロテュースは額にかかる前髪を掻き上げ、弧を描く唇から白い歯が覗いた。その洗練された動作に隙はない。
「君ってば、凄いね。生徒会で活躍しているそうじゃないか?今は女性も地位を確立していく時代だと…」
プロテュースは息を吐く間も忘れているのではないかと疑うほど、言葉の羅列が止まらない。
「…ロザリンド嬢のような聡明な女性は…」
プロテュースの饒舌な語り口は続いていたが、ロザリンドは彼の面立ちへと意識が飛んでいた。
若草香る草原のような瑞々しい緑の双眸、陽だまりのような温もりのある金髪、どこの彫像持ってきました?とお伺いを立てたくなるほど綺麗に整っている精悍な顔立ち。
体躯へは程よい筋肉がついており、長身のプロテュースは足も凄まじく長い。横に並びたくないほどだ。
「……てほしい」
プロテュースの美貌に毒され、ボーッと夢想している間にロザリンドは首肯していた。
(はっ!これは、オリヴァーの時と同じじゃない?何たる失態!私は何を肯定したの!)
満面に花を振り撒くような笑顔、プロテュースは次の瞬間、ロザリンドが芯まで凍てつくような言葉を優雅に紡いだ。
「本当かい?嬉しいな!僕と結婚を前提に付き合ってくれるなんて!」
ロザリンドの両手を包み込むようにプロテュースの両手が重なる。
「えっ?えええええええ!」




