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【完結】ロザリンド嬢は婚約破棄もお手のもの  作者: 礼三


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続編 〜君の前から消えた婚約者〜 8

 バートラムの幼馴染のディアナは、騎士を目指していた。

 父が都城騎士隊の騎士だったからだ。

 ある日、父は馬車に轢かれかけた少年を助けて二度と帰らぬ人となった。

 バートラムの父親であるロシリオン伯爵は、残された娘を哀れに思い、臣下の男爵へディアナを養女に迎えるように命じた。

 ディアナは男爵家で大切に育てられたが、彼女は女性でありながら騎士に憧れた。

 周囲は女の子が騎士になるなんて、それ相応の覚悟がなければできないと鼻で笑った。笑わなかったのは、ロシリオン伯爵とバートラムだけであった。


「ディアナ、本気で騎士になりたいと言うのなら、私は後見となって応援しよう!」


 ロシリオン伯爵は同じく騎士を目指しているバートラムと一緒に、ディアナにも剣術の稽古をつけた。

 父親譲りの身体能力、不屈の精神のお陰でメキメキと剣の腕が上達していったディアナをいつしか周囲は嘲ることがなくなった。

 


「お前、凄いな!さすが、俺の妹弟子!」


 バートラムに屈託ない笑顔を向けられると、ディアナは胸がくすぐったい。

 背中を任せられる頼もしさ、いつも一緒に過ごす安心感から、ディアナがバートラムへ恋心を持つようになったのも必然であった。


 けど、バートラムには婚約者がいる…。諦めなくちゃ…。


 ディアナが男爵家に引き取られる前から、ヘレナと婚約していたバートラム。

 ヘレナのことを話すとき、バートラムの瞳は輝く。

 

 ディアナから見ても、バートラムがヘレナに恋しているのは明白で、応援したいとも思っていた。

 


「じゃあ、試してみれば?」


 この騒動の発端であるあの言葉は、ディアナがバートラムを不憫に思うあまり、つい口から出てしまったものだ。

 予想通り、ヘレナは嫉妬で顔を歪めディアナへ悪意をぶつけてきた。

 悪意とは言っても、水をかけられる程度で、しかも、ヘレナが用意したのは真水だった。

 ヘレナは心からバートラムを慕っているだけで、本気でディアナに危害を加えようなどと思ってはいなかった。

 ディアナもヘレナを傷つけたいとは考えていなかった。

 だが、バートラムの自分へ向ける眼差しが偽りだったとしても、ディアナは幸せを覚えていた。


 一瞬だけでいい。嘘でいいから、バートラムと恋人でいたい。


 ディアナはヘレナへ酷いことをしている自覚があった。

 だから、婚約破棄を言い出したバートラムを本気で止めた。

 

 実際、止められなかったけど、私のことも考えてくれていなかったんだよね…。


 婚約破棄宣言したあとのディアナの将来をバートラムは考慮することがなかった。

 ヘレナと元の鞘に収まれば、ディアナはバートラムに遊ばれて捨てられた令嬢に見えるだろう。

 不埒な娘とレッテルを貼られて、結婚するにしてもよい縁談に恵まれない。

 騎士としても、不義理な人間と後ろ指を指される。



 悶々と悩んでいたある日…。


「今度の夜会、俺たちも一緒に行かないか?」


 新入生は参加が必須の歓迎会だが、二、三年生は自由参加だった。

 二人とも三年生である。この行事はディアナにとってバートラムと出席できる最後の夜会になるはずだった。


「ヘレナ嬢はいいの?」


「あぁ、婚約破棄を言った手前、誘えないし…。今回、ディアナに迷惑かけてしまったから…。ディアナだって一度くらいは夜会を体験したいだろう?それに、アイツはきっと、夜会で俺に声をかけてくるし」


 ディアナは純粋に嬉しかった。

 

 これを最後の思い出として、バートラムから離れよう…。


 煌びやかな大広間…。

 紳士に倣い、女性をエスコートする男子。ドレスを軽く摘(つま)み淑女の礼を品よくこなす女子。

 熱気に包まれ会場は盛り上がっていた。

 ディアナはドレスの裾を円く翻し、バートラムと夜会を楽しんだ。

 

 

 翌日、ヘレナの事件を聞き罪悪感を抱いたディアナ。

 それ以降、都城騎士隊の騎士見習いとして実地訓練に励み、バートラムから距離を置いた。

 そして、ある春の日…。

 ロシリオン伯爵から呼び出された。


「今、なんておっしゃいました?」


「これからバートラムとお前との婚約を進めようと思う」


 何が起きているか分からないディアナは青ざめた。


「バートラムは?嫌がっているでしょう?だってあんなにヘレナ嬢のことが好きだったじゃないですか?」


「ナルボン侯爵家とは正式に婚約解消の書簡を交わした」


「そんな…」


 二度とヘレナに近づかせないために、他の令嬢と速やかに婚約を交わすようナルボン侯爵から要求されたのだと言う。


「私でなくても…」


「愚息からことの次第は聞いた。もちろん、愚息が悪い。だが、お前にも責任があるだろう。騎士は諦めてもらう。伯爵夫人としての教育をこれから…」


 ロシリオン伯爵の言葉は、途中からディアナの耳に届かなかった。

 ディアナはバートラムがヘレナを一途に想っていたことを知っている。バートラムは愛しい婚約者(ヘレナ)を失った。

 夫婦になったとしても、ヘレナがずっとバートラムの心に棲み続けるだろう。

 果たして…。

 

 この景色の未来にバートラムはいるのかな?


 ロシリオン伯爵の肩越しに、青く冴えた空がディアナの涙でぼやけた。

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